アルコール依存症Q&A 久里浜医療センター名誉院長・顧問
WHO物質仕様・嗜癖行動研究研修協力センター長
慶応義塾大学医学部客員教授
藤田医科大学医学部客員教授
樋口進先生

アルコール依存症について、みんなの疑問に専門の医師が答えます。


ご家族や周りの方からよく問合せのあるご質問

  • 夫は転職した5年前から車通勤になったのですが、会社の人によく誘われて飲みに行き、飲酒運転して帰宅することが多くなってきました。本人に、「家族のことを思うなら、飲酒運転はやめて」と訴えてもやめる様子はありません。どうしたらよいでしょうか?

    本人が聞く耳を持たないからといって、いきなり会社の人やお店に電話して「飲ませないでください」と伝えたりするべきではありません。
    まずは、本人がお酒に酔っていない時に、「あなたが事故を起こさないか、家族みんなが心配している。飲酒運転はやめて欲しい。」という思いを、お互いが感情的にならないように伝えてみましょう。2008年の警察庁委託調査研究報告書によれば、飲酒運転再犯者102名のうち、およそ40%の人が依存症の疑いがあるというデータがあります。。飲酒運転常習者の背景には、アルコール依存症の疑いが高いので、アルコール依存症専門医療機関や最寄りの保健所、精神保健福祉センターにお問い合わせすることをお勧めします。

  • 62歳の父がいます。仕事をしていたときから晩酌は欠かさずしていましたが、定年退職してからは家で昼間から飲酒してゴロゴロしている毎日です。最近は、部屋の片付けもできず、少し前のことでもすぐに忘れてしまいます。父は認知症になったのでしょうか?

    定年退職後の方が、時間を持て余してお酒を飲み続けている場合、アルコール依存症になる可能性があります。お酒を無理にやめさせようと、お酒を取り上げたり、隠したりしても逆効果です。
    飲酒について怒ったりせず、「物忘れや身体の不調は、アルコールの影響もあるかも。」と心配している気持ちを伝え、アルコール依存症専門施設を受診するか、最寄りの保健所、精神保健福祉センターに相談することをお勧めします。

  • 飲み過ぎが習慣化してからアルコール依存症になるらしいですが、どのくらいの量から「飲みすぎ」になるのでしょうか?

    飲酒量を表す単位を「ドリンク」といい、純アルコール換算で10gが1ドリンクです。 
    アルコール依存症の発症リスクが少ない「節度ある適度な飲酒」は、男性では2ドリンク以下が1日当たりの適量とされていますが、女性はその半分の1ドリンク/日です。2ドリンクは、ビール中瓶1本(500mL)に相当します。1日の飲酒量が、この適量の3倍以上になると「多量飲酒」となり、アルコール依存症になるリスクが高まると警告されています。まず、1週間に1~2日は飲まない日を作る、といった飲酒量をコントロールする習慣を身につけるようにしましょう。

  • 夫は会社の定期検診で肝臓の値が悪く、かかりつけの内科を受診してます。しかし、アルコール依存症のような症状もあり、アルコール依存症専門医療機関で受診してもらうつもりですが、必ず入院となるのでしょうか?

    アルコール依存症治療は原則的に入院治療が選択されます。お酒が切れた時の離脱症状がひどい場合や重複障害(内臓疾患、衝動的な言動、精神不安定)がある場合は、必ず入院することになります。
    ただし、患者さんや家族が医師の指示に従い、患者本人の治療意欲も高く、生活をしながらの通院が可能な場合は、通院治療を選択できることもあります。通院の場合は、最初の1~2週間は毎日、その後は2週間毎に受診するのが一般的です。
    最近は、通院治療で回復する患者さんも増えてきていますので、アルコール依存症専門医とよく相談の上、入院か通院を選択するようにしてください。

患者さんからよく問合せのあるご質問

  • 家族からはアルコール依存症の疑いがあるから専門医療機関を受診するように促されましたが、自分では納得できません。一体、アルコール依存症者とそうでない人の違いは何なのでしょうか?

    両者の最も大きな違いは、飲酒をコントロールできるかどうかという点です。多量飲酒者であっても、通常は飲み過ぎたら反省して、次回から飲み方を改めようとする方が多いと思われます。一方、アルコール依存症の場合は、少しでもアルコールを口にすると、ほどよい量で切り上げることができず、飲み過ぎて問題を起こしてしまうことがあります。これは、アルコールをほどよい所で止める能力が無くなったコントロール障害を起こした状態といえます。さらに、アルコール依存症の場合、体内のアルコール濃度の低下により自律神経症状や情緒障害、手の震え、幻覚などの「離脱症状」がみられるようになります。

  • アルコール依存症の疑いをかかりつけの内科で指摘されたので、専門施設を受診するよう前向きに考えていますが、専門医から厳しいことを言われることを想像して、決心がつきません。専門医療機関に初めて受診した際、どのようなことが聞かれるのでしょうか?

    単身者の場合は、患者さん自身または福祉事務所の担当ケースワーカーなど地域の支援者と同伴で受診(初回面談)に行きます。一方、ご家族がいる場合は、ご家族と同伴で行くのが一般的です。最初は患者さん本人のみ、その後ご家族と一緒に、または入れ替わって面談は約40分~1時間行われます。
    初回の面談では、必ずしも病気を発見することが目的ではありません。専門医からは、患者さん自身が飲酒に対して問題を感じているのか、問題として感じているなら、どのような問題として捉えているのかをヒアリングされます。さらに、そのような状況に陥った背景やエピソード、幼少時代の自身の振り返り、治療に対する抵抗感等を、答えやすい順番で質問されます。初回面談では、専門医も患者さんとの信頼関係を構築することに配慮していますので、いきなり飲酒行動を責められたり、圧迫感のある質問を立て続けに浴びせられるようなことはありません。