嫌がる人に治療を勧める 家族のためのプログラム『CRAFT』

嫌がる人に治療を勧める 家族のためのプログラム『CRAFT』

あの人(子)が治療を受けてくれたら……

家族の大きな悩みの一つは、いくら本人に治療を勧めても、かたくなに拒むことです。「俺はアル中じゃない」「病気じゃない」「ちゃんと会社に行ってる」「大丈夫だ」……。ちょっとでも酒のことに触れようものなら怒り出し、「おまえがそうだから飲みたくなるんだ!」と返されたり、部屋に引きこもったり、ときには暴力をふるうこともあります。だから多くの家族はこう言います。「あの人(子)に治療を勧めるなんて無理です!」と。

実は周囲にそう思わせることが、まさにこの病気の破壊力でもあるのです。

飲酒問題のある家庭では、愛情とコミュニケーションが壊れていきます。どんなに心配しても、どんなに訴えても、あれこれやっても通じない。だから家族は傷つき翻弄されていくのです。
では、どうしたらいいのか?
ここ数年、CRAFT(クラフト)という家族のためのプログラムが注目されています。

対立を招かずに治療を勧める方法

CRAFTは、飲酒問題や薬物問題に悩む家族のためにアメリカで開発されたプログラム。対立を招かずに、治療を勧める方法を学んでいきます。アメリカでは、このプログラムを受けた家族の場合、70%前後が治療を開始したという研究結果が出ています。

CRAFTは「Community Reinforcement And Family Training」(コミュニティ強化法と家族トレーニング)の略称です。ここで言う「コミュニティ」とは、本人を取り巻く環境のこと。つまり治療を受け入れやすい環境を作ることによって、自ら治療を選んでもらうのです。大きなポイントはコミュニケーションを変えることですが、それだけではなく、CRAFTでは家族自身が今より楽になれることも目指していきます。

CRAFTの3つの目的

  • (1)本人の物質使用が減る
  • (2)本人が治療につながる
  • (3)家族の生活の質がよくなる(精神的・身体的・人間関係)

CRAFTのコミュニケーションとは?

飲酒問題のある人と関わっていると、どうしても相手を責めたくなります。わかってほしいと思えば思うほど、「でも」「もっと」「ちゃんと」「しっかり」「なんで」「だから」「いつも」と言いたくなるからです。けれどもこうしたアプローチでは、なかなか本当の気持ちが伝わりません。

そこでまず大前提なのが、飲酒問題に関し、相手の暴言・暴力が起きるリスクを避けることです。多くの家族は、本人がどんな状態になると暴言・暴力が始まるか体験的に知っています。「目がすわる」「お酒の飲むなと言ったとき」など、何かしらサインがあることが多いのです。それを上手に避け、シラフのときにコミュニケーションを取って、できる限り安全な形で治療を勧めるチャンスを見つけていきます。

CRAFTのコミュニケーション法には、いくつかコツがあります。

  • ・「わたし」を主語にする
  • ・肯定的(前向き)な言い方をする
  • ・簡潔に言う
  • ・具体的な行動に言及する
  • ・自分の感情に名前をつける
  • ・責任の一部を引き受ける
  • ・思いやりのある発言をする
  • ・支援を申し出る

相手の望ましい行動を増やすアプローチ

もう一つ大切なのが、相手の「望ましい行動」を増やすことです。

多くの家族にとって、相手の望ましい行動は「飲まないでいること」ではないでしょうか。飲ませまいとお酒を隠したり捨てたりする代わりに、シラフの状態を強化するのがこの方法です。たとえば「これは続けてほしい」と思うような行動に注目し、それを評価したり、相手がシラフでいることの喜びを伝える、早く帰ってきたら笑顔で迎える、など。

人は自分のしたことで何かいいこと(嬉しいこと)があると、それを繰り返すもの。飲まないでいてもいいことがあると少しでも感じてもらうことが大切です。相手の悪い面に注目するのではなく、いい面に注目することは、「飲んでいないあなたが好き」というメッセージにもなります。

家族が楽になるために

こうしたことをしていくうえで欠かせないのが、家族自身が自分をケアすることです。「それどころじゃない」「あの人(子)がお酒をやめない限り、そんな余裕はない。そんなことあり得ない」と思うかもしれません。実際、金銭的にも時間的にも余裕がなくて、そのことを考えただけで腹が立ったり、心配で楽しむ気になんかならないと思うのが、多くの家族の置かれた状況です。

だからこそ、家族は少しでも楽になる必要があります。

CRAFTには、たとえ本人が飲酒していても家族自身が今より楽になって、生活を豊かにしていくためのプログラムが含まれています。その一つが、自分自身を誉めること。こんなにがんばっている自分をぜひ「よくがんばっている」と評価してください。

CRAFTプログラムを受けるには?

最近では、依存症専門プログラムのある医療機関、精神保健福祉センターの家族教室・家族会などで取り入れられるようになってきています。またCRAFTそのものを取り入れていなくでも、家族教室では同じようなことが学べるので、まずは近くで行ける場所に足をぜひ運んでみてください。

※もっとCRAFTについて知りたい方へ

『アルコール・薬物・ギャンブルで悩む家族のための7つの対処法CRAFT』

著:吉田精次+ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)
発行:アスク・ヒューマン・ケア
  • ~目次~
  • 【1】状況をはっきりさせよう
  • 【2】安全第一(暴力への対策)
  • 【3】コミュニケーションを変える
  • 【4】望ましい行動を増やす方法
  • 【5】イネイブリングをやめるとは?
  • 【6】あなた自身の生活を豊かにする
  • 【7】治療を勧める
まとめ:ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)
http://www.ask.or.jp/