家族の困った集【6】

遠方に住む実家の父の飲酒がひどくなり、母が疲弊しています。

離れて暮らす実家の母から、「お父さんをどうにかしてほしい」と連絡が入るようになりました。父はもともと酒好きですが、最近は飲んで失禁したり、夜中にトイレで倒れたりとトラブルが増えているとのこと。慌てて久しぶりに実家へ行ったら、家は荒れ放題。母自身も気力がなくなっていて、父の言うがままにお酒を出しているようです。ショックでした。2人とももうすぐ80歳です。何とかしなければと思いますが、私にも家庭や仕事があるし、頻繁に行くこともできず、困っています。

 遠方に住んでいる家族が飲酒問題を抱えた場合、状況がよくわからないうえに、物理的にも距離があって、身動きがとれないことが少なくありません。そこで、対応の流れを整理してみます。

(1)状況を把握する
 実際に何が起きているのか、実家の母親に聞いたり、目で見て確かめたり、近所の人に話を聞いてみるなどして、情報を集めてみましょう。その際、飲酒以外の困りごとについても目を向けてください。どんなアプローチをしていけばいいかの参考になります。また、問題を整理し冷静に対応していくために、飲酒問題やアルコール依存症についての知識を持つことも大切です。まずは各県と政令指定都市にある精神保健福祉センターで行っている家族相談などを利用してください。これは必ずしも実家のある地域でなくてもかまいません。実家に対し直接的な援助ができなくても、その準備段階として、自分の気持ちを整理することができたり、問題の見立てや今後の方向性を考えることに役立ちます。

(2)実家の母親に情報を伝え、地域の保健所などに相談してもらう
 保健所や地域の依存症専門医療機関は、家族からの相談を受けつけています。特に保健所は、条件が揃えば訪問ができます。と言っても、遠方の家族が保健所に電話相談をしただけで訪問することはできないので、実家のお母さんに情報を伝え、直接保健所に相談をしてもらう必要があります。その前にあらかじめ保健所に電話相談をして、母親から相談があったら対応してほしい旨を伝えておくとスムーズです。

(3)保健所や地域包括支援センターに訪問してもらう
 保健師さんに訪問してもらうことで、脱水症状など緊急的な課題がある場合も、介入の足がかりができます。けれども、母親の方が「大丈夫」と言ってすんなり相談しないことも考えられます。そういう場合は、実家に帰省したときに母親と一緒に電話相談をしたり、帰省する日に合わせて保健所の相談予約を入れておき、今後のことを相談してみてください。

 介護認定や生活保護を受けている場合や地域住民から苦情が寄せられている場合は、母親からの直接的な相談がなくても、保健師が市役所の担当者と一緒に訪問することも可能です。

 また、地域包括支援センターなら、「高齢の方の様子を見て回っています」という形で自然な訪問ができます。その際に保健師を同行してもらうことで、「健康のことでお困りのことがあったら言ってくださいね」と切り出したり、「これからもお体の様子を見に来ましょうか」と伝え、承諾されれば正式に定期的な訪問をしながら受診のチャンスを作ることができます。

(4)両親の生活スタイルにあったプランを考える
 その後の展開は、様々です。飲酒問題の程度にもよりますが、飲酒以外のことを改善することで、結果的に飲酒問題が少し収まることもあります。入院が必要な状態なのに本人が受け入れない場合は、訪問看護やショートステイなどを活用して総合的に生活の質を上げていく方法も考えられます。また、仮に入院した場合でも、その後の生活をどう整えていくかが課題になってきます。いずれにしても、大切なのは、ご両親が住みなれた「地域で解決していく」という視点です。

 遠方の家族が飲酒問題を抱えたとき、今の生活をすべて捨てて面倒をみなければいけないのでは? と考えがちです。けれども無理を重ねれば、共倒れになりかねません。家族だけで何とかしようとせず、ぜひ地域の機関やシステムを利用していくことを考えていってください。


  • ・特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)がアルコール依存症の治療で回復された患者さんにインタビューしたものを記事化しています。
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  • ・監修 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 院長 樋口 進 先生