家族の困った集【5】

夫は酒が切れると、幻覚が出るようです。どうしたらいいでしょうか?

夫は51歳です。数年前から酒量が増え、週末はご飯も食べないで飲んでいます。失禁や転倒は日常茶飯事。そんな夫が先日、風邪でひどく体調を崩し、数日会社を休みました。「寝てれば治る」と言うので寝かせていましたが、一向によくならず、汗が滝のように流れ、「虫が落ちてくる!」と大騒ぎしました。救急車を呼ぼうとしましたが、「飲めば治る」と言うので、お酒を飲ませたら次第に落ち着いていきましたが……。もしかして夫はアルコール依存症なのでしょうか? お酒はやめてほしいけど、また幻覚が起きたらと思うと怖いです。

 アルコール依存症でも、ないものが見えたり聞こえたりする幻覚は起こります。と言っても酔ってそうなるのではなく、アルコールが体から抜けてくる時に起きてくる離脱症状の1つです。離脱症状には、次のようなものがあります。

●早期離脱症候群……飲酒を中断して数時間~半日で出現する。
発汗(寝汗)、微熱、不眠、焦燥感、集中力低下、手の震え、下痢、動悸などの症状が現れる。飲酒中断後1~2日の間に、幻聴やけいれん発作を起こすこともある。飲まずにいれば2、3日で消えていくが、飲酒することによっても収まるため、結局また飲み続けることになるという悪循環が起こりやすい。

●後期離脱症候群……飲酒中断後2~3日で出現する(振戦せん妄)。
全身の震え、ひどい発汗、不眠、高血圧、興奮、幻覚、見当識障害などの症状が現れる。直近の過去1ヵ月の飲み方が関係するといわれる(毎日のように飲み続ける、食事をあまりとらない、下痢・嘔吐などの消化器症状が強い、など)。飲まずにいれば1週間ほどで収まるが、長引くこともある。

 離脱症状では、突然バタンと倒れてけいれんする、小人が見えると大騒ぎする、仕事の場面と勘違いしているような行為を繰り返すなど、衝撃的な出来事が次々と起こります。家族だけで対応するのは大変なので、あらかじめ専門医療機関や保健所、精神保健福祉センターに相談をして、どんなことが起こり得るのか、どう対応すべきかなど、アルコール依存症に関する知識を得ておくことが役立ちます。また断酒会などの自助グループや家族会に参加して、いざというときにサポートしてくれる仲間を作っておくことも大切です。「今、離脱症状が出てるんだけど、どうしよう?」と連絡できる人がいるだけでも、気持ちが全然違います。

 幻覚がある場合の直接的な対応としては、1人きりにしないこと、夜も部屋を明るくしておくことがあります。暗闇は幻覚を誘発するため、眠りから目覚めたときに幻覚を防止することになります。また、離脱期は脱水症状を起こしやすいので、スポーツドリンクも用意しておきましょう。錯乱がある場合は、救急車で精神科救急に運んでもらうか、警察を呼んでアルコールに問題があると伝え、保健所に連絡してもらってください。本人の同意がなくても、医師が認めれば家族の同意で入院させられる医療保護入院という制度もあります。

 いずれにしても、大切なのは、家族自身が依存症で起こり得ることや対応法を知って、本人を専門治療に結びつけていくことです。そのためにも、まずはぜひ家族が専門医療機関や精神保健福祉センター、保健所、断酒会などの自助グループに相談し、家庭でのアルコールの扱い方、緊急時の対応、治療の勧め方などを知っておいてください。離脱症状は、本人にとってもつらい体験です。専門病院では、つらさを和らげながら離脱症状を治療してもらえます。苦しんでいるときこそ「病院へ行こう」と治療を勧めるチャンスにしましょう。


  • ・特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)がアルコール依存症の治療で回復された患者さんにインタビューしたものを記事化しています。
  • ・これらの記事は、当サイトの記事のために製作され、ASKを通じて患者様の許可を得て掲載しております。
  • ・監修 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 院長 樋口 進 先生