家族の困った集【4】

酔って暴力を振るうので、怖くて話もできません。

夫が酒乱で困っています。もともと飲むとしつこくて嫌だったのですが、子どもが生まれてからさらにひどくなりました。先日もちょっとした私の言葉で暴力が始まり、トイレに逃げ込みましたが、結局引きずり出されて蹴られ、肋骨が折れました。その間、子どもは寝室で寝ていましたが、物心がついてきたので影響が心配です。暴力が子どもに及んだらどうしようと思うと、離婚も視野に入れなければいけないと悩んでいます。夫は飲まなければ、いい父親だし、優しい人です。

 暴力がある場合、まず大切なのは、「安全第一」を優先することです。子どもへの影響については、直接暴力を振るわなくても、お父さんがお母さんに暴力を振るうのを見たり物音を聞いたりすることは「画面DV」という形で影響を与えます。面前で一方の親がもう一方の親に暴力を振るうことは児童への心理的虐待にあたる、と児童虐待防止法でも定義されています。緊急性の高い問題なので、まず基本的な対応からお伝えします。

・口論に乗らない
・物理的に離れる
・逃げる

 暴力が起きる前にできることとしては、どんな場面や会話が暴力に発展しやすいか、あらかじめ検証しておくことが役立ちます。リスクの高い場面や会話を避けつつ、相手のペースに乗らないようにするために、暴力に発展しそうになったらトイレに席を立つ、風呂に入る、他の部屋に行くなど、具体的な行動を決めておくといざというとき迷わず動けます。また、逃げることを想定し、あらかじめ避難先(24時間営業のファミリーレストラン、カラオケボックス、きょうだいや友人の家など)を考えておくことや、貴重品をすぐに持ち出せるようまとめておくことも大切です。「逃げてもその後が怖い」と考えてしまいがちですが、帰りたくない場合は、保健所や警察などDVの相談窓口に連絡すれば、子どもも含めDV防止法による一時保護をお願いすることもできます。

 暴力が起きるなどして身の危険を感じたら、ためらわず警察を呼びましょう。夫が保護される際、「飲酒の問題があるので保健所に連絡してください」と伝えることでアルコール問題への介入のきっかけもできます。もし警察が到着したときに暴力が収まっていたとしても、問題があることを知ってもらうことで、今後対応してもらいやすくなります。自分では通報できない場合は、近所の人に通報してもらったり、保健所に伝えてもらうよう頼んでおくのも一つの方法です。

 暴力を繰り返し受けていると、自分にも何か原因があるのではないかと錯覚することがありますが、暴力は振るう側に問題があって、どんな理由づけがあろうと、暴力を受けるに値する理由などありません。

 飲酒に暴力が絡みやすいのは、酔いによって理性がコントロールできなくなることも関係しています。また夫婦・パートナー間でよくあるのは、依存症の進行と共に現れる嫉妬妄想による暴力です。浮気をしているのではないかと疑い深くなり、いくら否定しても信じず暴力に及びます。この場合、暴力の対象は妻やパートナーだけに向けられることが多く、依存症から回復していくに伴い、嘘のように暴力がなくなることもあります。一方厄介なのは、飲酒がひどくなる前から元々DVのパターンがあるケースです。

 DVには、大きく分けて「身体的なもの」「精神的なもの」「性的なもの」の3つがあります。殴る、蹴る、叩く、つねるといった身体的な暴力だけでなく、大声で怒鳴る、人格を否定する、生活費を渡さない、人付き合いを制限する、性行為を強要するなども暴力になります。また身体的暴力は、ストレスを溜め込んでいく「蓄積期」、暴力を振るう「爆発期」、優しくなって二度としないと誓ったりする「ハネムーン期」のサイクルを繰り返すことが多く、ときにそれが年単位の場合もあります。このタイプの場合は、たとえ飲酒をやめてもサイクルが続くことが少なくありません。

 いずれにしても、力で人を支配しようとする暴力に、1人で立ち向かうのは危険です。今すぐ保健所や精神保健福祉センター、依存症専門機関などに相談し、優先順位をつけて対策を一緒に考えてもらってください。生活の不安や離婚に関しても、その中で考えていくことができます。


  • ・特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)がアルコール依存症の治療で回復された患者さんにインタビューしたものを記事化しています。
  • ・これらの記事は、当サイトの記事のために製作され、ASKを通じて患者様の許可を得て掲載しております。
  • ・監修 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 院長 樋口 進 先生