家族の困った集【3】
内科医が「ちょっとなら飲んでOK」と言ってしまうので、困っています。
夫は数年前から肝臓の数値が悪く、健康診断のたびに再検査をしています。毎日晩酌で焼酎のお湯割りを3杯。外で飲んできても帰宅後に必ず飲み直します。最近は二日酔いがひどく、休み明けに時々仕事を休んでしまう状態です。子どもたちもこれからお金がかかるし、家計のことも心配です。夫いわく「医者は少しくらいならいいと言った」とのこと。このままで大丈夫なのでしょうか?
アルコールは、依存性だけでなく発がん性もあるほか、消化器、循環器、脳、骨、神経など全身に悪影響を及ぼします。にも関わらず、アルコールについて正しい知識を持つ内科医は、残念ながら少ないようです。そのため、「何度も内科にかかったのに、酒をやめろとは言われなかった」「先生に『夫は依存症だと思うんです』と言っても、相手にしてもらえなかった」といったことが起きてしまうのが現状です。
では、どうすればいいのでしょうか? 家族がまずできるのは、アルコールや依存症に関する知識を得ることです。
たとえば、飲酒量を示す単位を「ドリンク」と言います。1ドリンクは、純アルコール換算で10g。厚生労働省の「健康日本21」(21世紀における国民健康づくり運動)では、リスクの低い「節度ある適度な飲酒」の目安を2ドリンクまでとしています。女性・高齢者・お酒に弱い人はこれより少なく、1ドリンクまでと覚えておくといいでしょう。2ドリンクは、5%のビールなら500ml、日本酒なら1合弱、7%のチューハイなら350ml、25度の焼酎なら100ml、ワインなら200ml、ウイスキーなら60mlです。この3倍の6ドリンクを超えると「多量飲酒」で、アルコールの依存症のリスクが高まるとされています。
毎日焼酎のお湯割りを3杯とのことですが、仮に度数25%の焼酎を6対4のお湯で割っていたとすると、1杯2ドリンクとなり、この3倍ですから「多量飲酒」です。しかも、2ドリンクのアルコールを飲んだ場合、男性で4時間は体内に留まるので、このペースで6ドリンク飲めば、12時間は体からアルコールが抜けません。週末となればもっと飲むわけですから、休み明けに仕事に行けなくなってもおかしくないのです。
飲酒によって起きる問題は、健康問題、経済的問題、人間関係の問題など、依存症以外にも様々なものがあります。健康診断の結果が悪い、仕事を休むなど、生活の中で何か問題や不都合が起きていたら、改善していくことが大切です。早く取り組めば取り組むほど、回復も早く進みます。焼酎のお湯割り3杯は「多量飲酒」で、医師にお墨付きをもらった「少しなら飲んでいい」の範囲ではないことを、ぜひ本人に知ってもらいましょう。そのうえで、「体の状態が心配なので、飲んでも1杯までにしてほしい」と伝えることもできます。
もしそれで飲酒量を抑えることができなかったら、アルコール依存症が進行している可能性があります。まずは家族が飲酒問題に詳しい精神保健福祉センターなどの相談機関、専門医療機関に相談してみることが大切です。アルコールや依存症に関する知識を得ると、「そうだったのか!」「やっぱり!」と納得できることがたくさんあるはずです。自分の気持ちを話し、相談にのってもらう中で、不安や疑問を一つ一つ解決しながら本人に治療を勧めていってください。
なお当サイトでは、全国の専門医療検索や、個人でできるアルコール依存症のチェックシートも紹介しています。ぜひ参考にしてください。
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- ・特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)がアルコール依存症の治療で回復された患者さんにインタビューしたものを記事化しています。
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- ・監修 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 院長 樋口 進 先生