家族の困った集【2】

何度言っても、飲酒運転をやめません!

息子が飲まないように家に酒を置くのをやめたら、車で飲みに行ったり夜中に酒を買ってくるようになりました。事故を起こし、誰かを傷つけたらと思うと夜も眠れません。帰ってきていつも大喧嘩ですが、本人はそのことも覚えていないようです。どうしたら飲酒運転をやめさせることができるでしょうか? いっそ家に酒を置いた方がいいかとも思ってしまいます。

 身内が飲酒運転をしていると、家族は片時も安心できません。飲酒運転事故や生活の不安だけでなく、怒りや無力感、知っていながら防げない後ろめたさなど、さまざまな感情に襲われます。まず覚えておいていただきたいのは、家族だけで何とかしようとがんばらないことです。そして家に酒を置かないことは、ぜひ続けてください。というのも、飲酒運転が繰り返される場合、治療が必要なアルコール依存症の可能性が高いからです。

 アルコール依存症は、飲酒へのコントロールを失う病気です。飲酒することの優先順位が高くなっていくため、進行すればするほど、アルコールを手に入れるためにはどんなことでもするようになります。飲んではいけない場面で飲んでしまったり、「このくらいでやめておこう」という歯止めがきかなかったり、脅してでも酒を手に入れようとしたり。飲めば酔って判断力もなくなるし、記憶が欠落するブラックアウトを起こして自分がしたことを覚えていないことも少なくありません。

 アルコール依存症の治療をすることで、飲酒運転はなくなりますが、そう簡単に治療につながらないのがこの病気の難しさでもあります。家族ができるのは、まずは依存症の治療機関や断酒会などと連絡を取り、状況に合わせた支援を受けながら、治療を勧めつつ飲酒運転を防止することです(もし暴力などで身の危険がある場合は、その対応が最優先になる場合もあります)。飲酒運転を防ぐには、次のような方法があります。

●鍵を預かる
●警察に通報する

 たとえば、毅然とした態度で「飲酒運転を二度として欲しくない」と自分の気持ちを率直に表現したうえで、「鍵を預かります」と伝えます。「鍵は渡せない」と言われたら、「もし飲酒運転をしたら警察に通報します」と伝えます。いずれの場合も大切なのは、伝えたら実行に移すことです。そのため、実行すると相手はどんな反応をするかをあらかじめ予測して、対策を考えておくことが大切です。1人で考えて実行するのは負担が大きいので、ぜひ専門家の支援を受けたり、断酒会など自助グループに足を運びながら進めてください。

 うまくいって、鍵を預かっても、「仕事で使うから返して」「今日は飲まないから返して」と言われることもあります。もし飲んでいなかったとしても、これまで何度も同じことが繰り返されてきたのであれば、依存症の治療をしなければまた同じことが繰り返される可能性が高いです。「1度ちゃんと専門医の診察を受けてからでないと返せません」と伝えるなど、治療を勧めるチャンスにしてください。

 実際に飲酒運転をしてしまった場合は、警察に110番通報します。運転免許の停止や取り消しで生活上の不都合が生じても、事故が起きるよりはいいし、治療を勧めるきっかけにもなります。「やめようと思っても飲酒運転をしてしまうのは、依存症という病気かもしれない。一緒に病院へ行こう。」と勧めることができるし、もし本人が拒んでも「今度またしたら受診」と次につなげることができます。

 なお、飲酒運転で検挙されたとき、警察は通報者の名前を明かすことはありません。それでも不安なことがある場合は、全国共通の警察本部相談専用番号(♯9110)に電話して、警察にどんな対応をしてもらえるのかを聞いておくとよいでしょう。

 アルコール依存症の人が日常的に車の運転をするとしたら、飲酒運転はつきものです。悩んでいるのはあなた1人ではないし、1人だけで何とかしようと思わなくていいです。ちなみにアルコール健康障害対策基本法に基づく国の基本計画でも、次のようなことが明記されています。

●飲酒運転をした者にアルコール依存症等が疑われる場合、精神保健福祉センター、保健所を中心とした関係機関が連携して、相談・自助グループ・専門治療につなぐ取り組みを推進する
●家族についても、同様の取り組みを推進する。
●飲酒運転をした者に対する運転免許取り消し処分者講習で、地域の相談・地域機関リストの提供や自助グループの活用等により、相談・治療のきっかけとなるよう取り組む。


  • ・特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)がアルコール依存症の治療で回復された患者さんにインタビューしたものを記事化しています。
  • ・これらの記事は、当サイトの記事のために製作され、ASKを通じて患者様の許可を得て掲載しております。
  • ・監修 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 院長 樋口 進 先生