家族の困った集【1】
病院に相談したら「受診時はシラフで来させてください」と言われました。
なんで!?
夫の飲酒問題で困り果て、病院に相談したら「受診時はシラフで来させてください」と言われ、ショックです。それができたら、相談なんかしないのに……。夫は病院へ行くことを拒否しています。たとえ行くと言っても、飲まないように私がずっと見張っているわけにはいかないし、そもそもいくら言っても酒をやめないのに、どうしろと言うのでしょう。何とか受診させたいのです。
酒をやめさせることができたら、病院はいらない! そう心の中で叫んだことのある家族は、少なくありません。「嫌がる本人をやっとの思いで病院に引っ張って行ったのに、酩酊状態のため断られた」「病院へ行く前に飲んでしまって診てもらえず、帰された」といったことも、残念ながら起こるのが現状です。なぜなのでしょう?
「シラフでないとダメ」という明確な規定はどこにもありません。けれども医療機関が断る理由は、いくつか考えられます。
・シラフでなければ、治療契約ができない。
・依存症治療を行っている現場に飲んでいる人がいたら、治療環境が保てない。
・治療の意思があるなら、せめてその日は飲まずに来るべき、など。
しかし最近では、流れが少し変わってきました。飲酒へのコントロールがきかなくなるのがアルコール依存症なので、飲んでいるからと言って医療機関が治療を拒んでいたら、千載一遇の治療チャンスを逃してしまうことになるからです。そこで、初診時に酒臭がしていても「酔っ払っていて会話ができないレベルでなければ診察する」「アルコールチェッカーを使い、数値がゼロになるまで点滴をする」など、柔軟な対応をしながら次の診察や入院に結びつけていく医療機関も少なくありません。家族としては、そのような対応をしてくれる専門病院を探すことがポイントです。
病院を探すにあたり大切なのは、①依存症の治療プログラムがあること②家族教室や個別相談など家族へのサポートがあること、です。専門治療を行っている機関には、「医療相談室」「ソーシャルワーカー」「家族相談担当」など、家族の相談に対応する部署や担当があります。「夫の飲酒問題で困っていて」と伝え、どのような対応が考えられるか相談してみてください。そして感触を得るためにも、実際に家族教室に参加したり担当者と会ってみることも大切です。
嫌がる人に治療を勧めるには、タイミングや準備が必要です。「こうすれば必ず病院へ行く」という方法は残念ながらありませんが、断酒会など、依存症者本人や家族の経験が蓄積されている<自助グループ>にもぜひ参加してみてください。家族がサポートを受けることには、さまざまなメリットがあります。
・アルコール依存症や治療の勧め方などについて、知ることができる
・同じような経験を持つ他の家族と知り合うことができ、いろいろな体験を聞くことで、今後の展開や準備のイメージが持てる、など。
そうして家族が知識や応援団を得て、精神的に少し楽になると、この問題に対応する力が戻ってきます。そのときこそ、本人に対し治療を勧めるチャンスです。
- ・特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)がアルコール依存症の治療で回復された患者さんにインタビューしたものを記事化しています。
- ・これらの記事は、当サイトの記事のために製作され、ASKを通じて患者様の許可を得て掲載しております。
- ・監修 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 院長 樋口 進 先生