ご家族の方へ
アルコール依存症の特徴
アルコール依存症は男女問わず、誰でもかかる可能性のある病気であり2つの特徴があります。1つ目の特徴は、飲酒のコントロールが出来ないことです。長期間お酒を止めても一旦飲み始めると元に戻ってしまうのです。これを「再発準備性が高い」と言いますが、脳内に自分ではコントロールできないような飲み方が記憶され、何年経っても再びお酒が入るとその記憶が呼び戻されるのです。ですから、依存症の方にとって唯一の回復の方法は断酒なのです。
2つ目の特徴は、強烈な飲酒欲求を呈することです。飲酒欲求は脳の機能にブレーキをかけ、禁断症状(離脱症状)を引き起こします。「飲みたい」という心の依存だけではなく、神経、つまり身体もアルコールに依存しているのです。
本人と家族が抱える問題
WHO(世界保健機関)では、アルコールを飲みすぎると60以上もの病気や怪我が引き起こされると指摘しています。肝臓障害、膵炎、脳の萎縮、口から胃までの上部消化管の癌、高血圧などが代表的な病気です。飲酒運転や自殺、家庭内暴力、虐待、失職や経済的な問題、離婚など、社会的な問題も数えきれません。本人だけではなく周囲の人も巻き込まれ、とくに家族は大きな問題を抱えることになります。また子どもの発達に影響し、世代を超えて飲酒問題が家族の中で伝播していくケースもあります。このように飲酒問題は、さまざまな健康問題や社会問題を引き起こすのです。
専門医療機関で“依存”の治療を
アルコール依存症の専門医療機関では、健康問題だけでなくアルコール依存症という根本的な問題を治療します。アルコール依存症の人は、専門医療機関で適切な治療を受けなければ、飲酒行動を変えられないのです。治療は、患者さんの症状に応じてカウンセリング等の心理社会的治療を中心に行われます。
家族が気をつけること
『お酒で起こった問題を家族が尻拭いする』、『飲み屋のつけを代わりに払う』、『外で飲んで暴れられると困るので家で一緒に飲む』などの行動をイネイブリング(飲酒を可能にし、助長すること)と呼びます。家族は、このようなことはしないことが重要です。本人の飲酒問題は本人に返し、本人が責任を持って自分の飲酒問題に向き合うことが大切だからです。家族が毅然とした態度をとらないと、本人がいつまでも家族に依存して甘えるようになり、治療もうまくいきません。
次に、外部の力を借りることです。酒の問題を隠したまま身内で解決しようとして、かえって問題が大きくなることが多いのです。行政機関や専門の医療従事者、自助グループなど外部の力を借りることで家族が楽になり、本人の治療意欲も高まります。
また、アルコールを飲み続ける期間が長いほど、健康問題、社会問題が深刻化します。早期発見、早期治療なら、治療効率も上がります。
本人が受診を嫌がる時は
専門医療機関の受診を促すには、『職場から業務命令として医療機関の受診を勧めるようアプローチしてもらう』、『かかりつけ医に「専門医療機関で治療しましょう」と紹介状を書いてもらう』、『本人の飲酒問題に関係する人や、本人に影響力のある人に集まってもらい、集団で説得していく』などの方法があるでしょう。
家族がまず精神保健福祉センターや保健所、専門医療機関などの相談機関に相談してみるのもいいと思います。例えば、イネイブリングを止めるために、自分のやっていることを正直に話して、適切な対処法を具体的に教えてもらうことも大切です。
回復につながる健康な部分があることを信じて
ご家族は、さまざまな問題に悩みながら、「やっぱりこの人は駄目なんじゃないか」と思う場面も多いと思います。しかし、アルコール依存症の方にも必ず「自分の酒の飲み方はおかしい」と考えている健康な部分があるものです。
嘘を言ったり、自己中心的なことを言ったりするのも、お酒を飲みたいがためにやってしまっているだけです。治療すればだんだん良くなり、元通りのごく普通の方に戻ります。健康な部分に働きかけていけば回復につながることを、是非信じてもらいたいと思います。
専門医療機関や自助グループなどの連携も進んでいますが、必要な情報が欲しい人にうまく届いていないのが現状のようです。このWebサイトが、アルコール依存症の患者さんやご家族の方にとって、治療の参考になればと思います。