アルコール依存症治療の成功のカギ
アルコール依存症治療を開始するうえで最初の壁となるのは、患者さんが依存症であることを否認して自分の症状を認めず専門医療機関への受診を拒否することです。また、専門医療機関での治療を開始してからも回復には2~3年かかる場合が多く、長い年月を経てようやく安定した断酒生活を送ることができるようになります。
したがって、家族は少なくとも3年を見据えて患者さんの治療に対して関わりを持つ必要があります。適切な治療を受け、再発を防ぐためのポイントを以下にまとめました。治療中の患者さんの気持ちは揺れ動きがちになりますが、家族は常に患者さんの断酒を成功させたいという目標に向かって一緒に治療に取り組んでください。
患者さんを専門医療機関に導くには
アルコール依存症は患者さん自身がアルコール依存症ということ自体を認めたがらないことから別名、「否認の病」とも呼ばれてます。実際、患者さんの本心では「アルコールをやめたい」という思いがあったとしても、患者さんは飲酒欲求に負けて飲酒を正当化してしまい、つい攻撃的な言葉を発したりしがちです。
患者さんに医療施設の受診を勧めるポイント
- 患者さんに対して強制的、高圧的な態度で臨んだりしない
- 患者さんがお酒に酔っていない時に、努力しても断酒できなかったことを共に振り返り、「あなたの身体が心配だから勧めている」と、患者さんの思いに寄り添う姿勢を示す
- 患者さんが起こした問題に対して、いつも家族が世話を焼いてしまうといった状況もやめて、患者さん本人に問題を自覚してもらう
- 家族だけで隠したり抱え込んだりせず、まず精神保健福祉センターや保健所に相談することがスムーズな受診の第一歩
再飲酒を見つけたとき
アルコール依存症の患者さんは治療を受けて断酒をしていても、誘惑に負けてしまい再飲酒してしまうことがあります。
再飲酒のきっかけはさまざまですが、特に治療開始直後は断酒が定着していないので、ストレスから衝動的に飲酒してしまうことが多いようです。また、退院直後も、自宅に戻って危機感が薄れたり、解放感から飲酒してしまう可能性があります。
再飲酒した後、どう断酒に取り組むべき?
治療が順調に進んでいても、患者さんがお酒を少しでも飲めば、アルコール依存症は再発します。
万一、再飲酒してしまった場合は、再飲酒までの期間、患者さんがどのような状況で断酒を継続できていたかをしっかり振り返りましょう。アルコール依存症は再発しやすい病気だと理解して、飲酒のきっかけになりそうなものを遠ざけるよう、専門医療機関への通院を続けながら、自助グループへの参加を促し、アルコール依存症治療薬を服用するなど予防策を取ることが大切です。
また、家族が医師に対して再飲酒の事実を的確に伝えることも、その後の治療方針を検討してもらううえで重要です。
患者さんが飲酒を我慢するコツ
アルコール依存症の患者さんにとって、飲酒を我慢し続けることは過酷なことです。また、飲酒が招く問題を理解しているつもりでも、患者さんが依存症であることを完全に認めることは今までの人生を否定することになります。
したがって、患者さんが治療の流れの中で、「人間関係」が大切であること、謙虚さや感謝の心を持って「自分自身」を変えていくこと、自分のために生きていくことだけでなく、周りの人や社会のために生きていくことに価値を見出すことといった、行動や考え方を変える必要性に気付くことが第一と考えられます。
日常生活で実行できる断酒のコツを以下に挙げます。
- 周りの人に断酒することを明言すること
- 空腹の時間を多く作らないこと
- ストレスや怒りが生じる場面をなるべく避けること
- 疲労し過ぎることを行わないこと
- 退院後の仕事復帰はよく検討すること
- 自助グループに参加すること
- アルコール依存症治療薬を服用すること
- 飲酒への誘惑があれば断ること
- 居酒屋等のある繁華街に近寄らない
- 職場での付き合い酒の誘いを断る(付き合う人を変えるよう努める)
- ノンアルコール飲料であっても、お酒を想起するものは飲まない
- 趣味や生きがいを見つけること
- デイケアの利用(ボランティアや簡単な職務、各種行事などへ参加できるサービスです)
- 音楽、映画鑑賞、絵画や将棋など趣味を広げるよう努める
- 断酒日記をつけること
- 断酒は大きな目標を立てるべきでなく、1日1日の積み重ねであることを自覚する
- ダウンロード可能な断酒日記をご用意しております
断酒を継続するための環境作り
アルコール依存症の患者さんが飲酒欲求に耐え、または再飲酒を経験しつつも回復へ向かって歩んでいくためには、家族や職場の仲間など周囲の方々の理解とサポートは欠かせません。また、アルコール依存症の患者さんのリハビリ過程において、素面で集まれる場を提供することなど最適な治療環境作りが必要です。
アルコール依存症の回復の目標は、断酒を前提とした社会参加や生活づくりです。言いかえれば、患者さんが単に元の生活に戻ることではなく、新しく生まれ変わることといえます。そのためには、アルコールのない生活と家族関係を再構築することが重要なポイントになります。
家族も治療や教育を受け、患者さんとの接し方を学ぶ
長年、アルコール依存症の患者さんを抱えたご家族は、さまざまな飲酒の問題に巻き込まれて、精神的に疲れきっていることがよく見受けられます。このような状態に家族が陥ると、知らず知らずのうちに問題の肩代わりにばかり終始し、患者さん本人が問題を自覚する機会を失ってしまいます。
したがって、まずは家族がアルコール依存症という病気と患者さんへの対応に関する正しい知識を学ぶと同時に、心のケアを受けることが必要です。専門医療機関の家族教室や、自助グループの家族会、自治体主催の家族向けセミナーなどがありますので、医師やスタッフ、保健所等(外部サイト)から紹介を受けるとよいでしょう。
家族教室では、ソーシャルワーカーや臨床心理士などの専門家による講義により、アルコール依存症および患者さんと密着しすぎない関係をつくるコツを学んでいきます。加えて、同じ境遇で苦しんでいる人と交流を持つことで、それまで溜めこんできた悩みや不安を打ち明けるといった気分転換やいやしの場にもなります。
自助グループへの参加が断酒の支えに
アルコール依存症は「対人関係の病」とも言われ、お酒を飲んでいないときでも生きづらさを感じながら生活している患者さんが多くいます。そのような状況で、患者さんが一人で断酒を続けていくことは簡単ではありません。断酒の継続には、同じ苦しみを抱えている人との出会いと支え合いが必要です。
「自助グループ」とは、励まし合って断酒を続けるために、 患者さんたちが運営する組織です。患者さんや家族が例会やミーティングに参加し、自分の体験談を語ったり人の体験談を聞いたりします。そういった仲間との交流が精神的な支えとなり、断酒を長続きさせる助けとなります。もちろん、専門医療機関への通院を続けながら、自助グループに参加することが、治療を継続するうえで重要です。治療の進行度に関係なく、積極的に自助グループに 参加するようにしましょう。
専門医療機関でのデイケア参加
アルコール依存症は、多くの合併症が併発している場合があるので、治療過程においてもさまざまな問題が生じてくる可能性があります。そのため、患者さん自身では難しい心身の管理については、医療スタッフが常駐するデイケアへの参加を検討することも一つの方法です。
デイケアとは、通院で行われるリハビリテーションの一種で、専門医療機関や保健所(外部サイト)、精神保健福祉センターなどで行われています。デイケアでは、日中の空き時間を有効に活用するため、他の通所者とさまざまな活動を通じて、規則正しい生活リズムの習得や、円滑な人間関係を構築する術を学びます。
具体的な活動内容は、料理や絵画、スポーツ、音楽、外出行事などとアルコール教育プログラムを組み合わせる形で行われ、患者さんのペースに合わせた社会参加を目指します。
退職してから、日中の空き時間の過ごし方が分からずアルコール依存症になってしまった人が、デイケアに参加することで日常生活に張り合いが持てるようになり、断酒を継続できたといった事例もあります。
職場や周囲の方の患者さんへの接し方
アルコール依存症の患者さんが同じ職場にいる場合、どのような点に注意して接するべきなのでしょうか? 患者さんが職場で、欠勤や二日酔い状態での勤務、酒臭をさせての出勤などアルコールの問題を起こしていた場合、すでにその家族も問題に巻き込まれ解決しがたい状況になっていると考えられます。したがって、適切な職場の介入としては、問題を家族の責任にするのではなく、患者さん本人の問題として返すことが大切です。
職場の管理者が患者さんのアルコールの問題を、「意志が弱い」、「根性がない」などと、性格的、または身体的な問題のみでとらえていると、アルコール問題は長引き、解決に至りません。患者さん自身は、専門医療機関への受診を促しても拒否する傾向がありますので、そのような場合は職場の方が率先して産業医や専門医療機関のソーシャルワーカーに相談し、患者さんを受診させるためのアドバイスを受けることが望まれます。
また、専門医療機関での治療を受けることになったとしても、患者さんは治療のために定期的な通院や自助グループへの参加が必要になります。そのため、残業させないことなどの勤務体系の変更なども考慮することが望まれます。
患者さんの治療の大きな目標は断酒の継続であるため、職場の方も患者さんに対して、飲み会に誘ったりするのはもちろん、アルコールに関する話題を目の前でしないなど、飲酒を助長するような行為への配慮が望まれます。