アルコール依存症の治療方法

アルコール依存症の患者さんは、お酒を飲みたいという欲求がとても強く、自分自身では抑えられない状態になっています(精神依存)。そして、お酒を飲むことをやめるとイライラする、不安になる、手が震える、夜眠れない、汗をかく、食べた物を嘔吐するなどの症状(離脱症状)が現れる状態になるのです(身体依存)。このような依存から回復し、身体の健康を取り戻すためには、アルコール依存症の治療に対して十分な知識、経験を持つ医師のもとで適切な治療を受ける必要があります。

アルコール依存症では、継続した断酒が目指すべき治療目標です。しかし、アルコール依存症においては治療の継続が重要ですので、患者さんが治療を中断しないように、患者さんの希望に沿った治療選択を行うことが大切です。また、治療の選択の際は、患者さんご本人だけでなく、ご家族も治療内容について医師からの説明を受け、理解した上で選択することが患者さんの治療継続のために重要です。


アルコール依存症の治療

アルコール依存症と診断された場合、患者さんの症状や重症度などに応じて医師から治療の選択について説明されます。

下記の断酒を選択すべき患者さんに該当する場合は「断酒」が選択肢として勧められますが、該当しない場合は患者さんご本人の希望も考慮の上、「断酒」あるいは「飲酒量低減」のいずれかが選択肢となります。

■断酒を選択すべき患者さん

  • ●入院による治療が必要な患者さん
  • ●飲酒に伴って生じる問題が重篤で社会・家庭生活が困難な患者さん
  • ●臓器障害が重篤で飲酒により生命に危機があるような患者さん
  • ●現在、緊急の治療を要するアルコール離脱症状(幻覚、けいれん、振戦など)のある患者さん

■飲酒量低減を治療目標とする患者さん

軽症のアルコール依存症で合併症もない場合は、患者さんが断酒を望む場合などを除き、飲酒量の低減が治療目標になることがあります。また、より重症なアルコール依存症の患者さんでも、本人が断酒を希望しない場合は、飲酒量の低減を一時的な治療目標にすることもあります。その際、飲酒量低減がうまくいかない場合には断酒に目標を切り替えます。

アルコール依存症の治療選択の図

日本アルコール・アディクション医学会・日本アルコール関連問題学会編:
新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドランに基づいた
アルコール依存症の診断治療の手引き【第1版】, p4,p7, 2018


心理社会的治療

アルコール依存症の根幹となる治療が、心理社会的治療です。心理社会的治療は、患者さんがアルコール依存症という病気を学び、断酒や飲酒量低減などの治療の意義を理解し、自身のペースでお酒に対する考え方や飲み方を見直していくことを目的に行われます。
従来は専門医療機関における集団精神療法が主体でしたが、近年は認知行動療法や動機付け面接法などが広まりつつあります。専門医療機関ではARP(Alcoholism Rehabilitation Program)と呼ばれる入院・外来治療での専門治療プログラムも行われています。
心理社会的治療には、下記の通りさまざまな種類があり、いくつかの療法を組み合わせながら治療が進められます。

■主な心理社会的治療

  • 認知行動療法

    これまでの飲酒に対する考え方や捉え方を患者さん自身が検討し、考え方や捉え方を変えることで自分の行動や感情、生活の改善を促します。

  • 集団精神療法

    複数の患者さんが集まり、飲酒を中心とした様々なテーマで話し合いをすることで互いによい影響を与えます。飲酒問題を整理することからはじめ、徐々に飲酒に対する適切な考え方を身につけていきます。

  • 動機付け面接法

    治療への動機づけを高めるための技法です。患者さんの「飲酒問題を改善したい」とう気持ちを強化し、行動の変化を促します。

  • 家族療法

    患者さん自身の回復だけではなく家族の回復も目指します。アルコール依存症の正しい理解や回復のプロセスを理解し、適切な対処法を身につけます。家族支援が適切に行われることにより患者さんの回復につながります。

日本アルコール・アディクション医学会・日本アルコール関連問題学会編:
新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドランに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き【第1版】, p8, 2018


薬物療法

アルコール依存症の治療の主体は、断酒あるいは飲酒量低減のいずれにおいても心理社会的治療であり、薬物療法は補助的な役割を担います。薬物療法は再発予防と解毒治療に分類されます。

アルコール依存症の再発予防のための薬物療法

■治療目標が断酒の場合

アルコール依存症の治療目標は、原則的に断酒の達成とその継続です。そのため、心理社会的治療を受けながら、飲酒欲求を抑える断酒補助剤が使用されます。服用期間は薬剤ごとに異なりますが、通常6~12ヵ月です。断酒を維持するために、医師に指示された回数を服用することが大切です。

■治療目標が飲酒量低減の場合

治療目標が飲酒量低減の場合は、毎日の飲酒量の確認をしながら、飲酒前に服薬して多量飲酒を抑える飲酒量低減薬が使用されることがあります。飲酒量目標を設定し、日々の飲酒量を医師と確認しながら治療を継続します。

アルコール依存症の解毒のための薬物療法

アルコール依存症の解毒とは、離脱症状の治療のことを指します。離脱症状の治療には、ベンゾジアゼピン系の向精神薬が使用されます。医師が離脱症状の程度と薬物の効果を繰り返し観察しながら、適切な使用量を決めます。向精神薬は症状の改善とともに減量され、原則的には使用は7日以内とされており、医師の指示のもと適切に使用することが重要です。

日本アルコール・アディクション医学会・日本アルコール関連問題学会編:
新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドランに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き【第1版】, p9-10, 2018


入院・通院の治療内容