アルコール依存症の治療方法
アルコール依存症の治療に対して十分な知識、経験を持つ医師のもとで治療が行われます。アルコール依存症の患者さんは、お酒を飲みたいという欲求がとても強く、自分自身では抑えられない状態になっています(精神依存)。そして、お酒を飲むことをやめるとイライラする、不安になる、手が震える、夜眠れない、汗をかく、食べた物を嘔吐するなどの症状(離脱症状)が現れる状態になるのです(身体依存)。このような依存から回復し、身体の健康を取り戻すためには断酒すること が必要です。
治療の方法としては、多くの場合、入院治療が選択されます。心身の状態が比較的安定していて、患者さんご本人やご家族が、医師の指示に従って、自分たちの力で生活改善をしていくことができる場合には、入院せずに外来で治療が行われることもあります。
アルコール依存症の入院治療は、一般的にいくつかの治療ステップ(導入期、解毒期、リハビリテーション前期・後期)に分けられます。
アルコール依存症の治療
ステップ1(導入期)
まず、病気としての理解、治療への動機づけを行います。
ステップ2(解毒期)
離脱症状に対処するため、断酒を目標として治療を開始します。それと併行、あるいは引き続いて、振戦せん妄などの合併する身体および精神症状を改善するための治療を進めます。
ステップ3(リハビリテーション前期)
離脱症状や振戦せん妄などの症状が回復した後、断酒に向けての本格的な取り組みを開始します。アルコール依存症に対する正しい知識を提供して飲酒問題の現実的認識を促し、生活上の問題点解決に向けて支援します。広範かつ長期的な視野に立ち、家族を含めた依存そのものに対する治療を一貫して進めます。
ステップ4(リハビリテーション後期)
再摂取時の対処法と予防、家庭内問題への対処などに着眼し、断酒の継続とともにストレス対処行動の獲得、家族の回復、生活の安定化などをめざします。
心理社会的治療
アルコール依存症の根幹となる治療が、心理社会的治療です。心理社会的治療は、患者さんの断酒しようとする気持ちを維持して支えるために、お酒を飲まない習慣を身に付けること、良好な人間関係を構築・維持していくこと、社会生活上のストレスに打ち勝つことを目的に行われます。
心理社会的治療には、下記の通りさまざまな種類があり、いくつかの療法を組み合わせながら治療が進められます。
酒害教育
飲酒が引き起こす諸問題やアルコール依存症という病気について学びます。
個人精神療法
個別に行われるカウンセリングです。精神科医や臨床心理士などと話し合い、個別のアドバイスが受けられます。
集団精神療法
心理社会的治療の中心となる治療です。医師らの指導のもと、数名の患者さんがさまざまな問題について話し合い、断酒や回復について考えていきます。
自助グループへの参加
例会やミーティングに参加し、自分の体験談を語ったり、人の体験談を聞いたりします。自分を見つめ直すとともに、同じ病気の仲間ができ、断酒継続の支えとなります。
認知行動療法
最近、精神療法の方法として、思考や行動のパターンを見直し、修正する「認知行動療法」が取り入れられるようになってきました。患者さんの認知、つまり考え方と行動を同時に見直す治療法です。
認知行動療法では、これまでのお酒に対する認知(見方や考え方、価値観)を患者さん自身で検討し、その認知を変えていくことで、これからの行動や生活を改善するよう目指します。グループで話し合いながら、患者さん自身に「認知のかたより」を自覚してもらうことで、断酒の意欲を向上させます。その中で、患者さんは断酒を継続する目的や、飲酒を防ぐ方法などについて考えを深めていくことができるようになります。
認知のかたよりの例
アルコール依存症患者さんによく見られる考え方の例
- 自分には飲酒の問題は無い
- 今度こそ適量でやめられる
- お酒を飲むから何事もうまくいく
- 好きだからお酒を飲んでよい
- いつでもお酒はやめられる
認知行動療法
グループミーティングにおいて以下の流れで話し合い、認知のかたよりを修正していきます。
- 患者さん自身の飲酒問題の整理
- 認知のかたよりの気づき
- 飲酒の利点と欠点のリストアップと酒に対する考え方の成否
- 断酒の心構えを作る
- 再発を防ぐ方法を考える
- 断酒継続のための現実的な方法