Doctor's Voice

院長 西山 仁

西山クリニック
院長 西山 仁

西山クリニック

アルコール依存症をはじめ、摂食障害や共依存といった多様な嗜癖問題を治療対象とし、集団精神療法やデイケアなどを通して、「身の丈に合った安定した毎日」を目標とする健全な回復を目指す外来治療専門のクリニックです。

メッセージ

――当事者はもとより、ご家族を優先されるのはなぜでしょうか。

本人が治療を拒否されている場合、その事情や状況、問題飲酒に至った経緯や経過を詳しくお聞きすることで治療へのアプローチが可能になることもあります。依存症は自身の問題への理解不足から回復を困難にしているケースがあり、それは知識の有無だけではなく、どう生きるかを選択する「生き方の問題」です。臓器障害を併発したり、家族間でのトラブルが絶えなくなったり、どうしても止められない患者さんを近隣の医療機関へ紹介することはありますが、基本的に当クリニックでは「外来だけで診療が可能」と考えています。過去には、アルコール依存症の当事者に一度も会っていないにもかかわらず、2、3年にわたって奥様だけが通院を続け、それだけで断酒に成功した例もあります。アルコール依存症の回復治療には家族のサポートが重要です。その回復には、断酒と断酒の継続しかありません。断酒後は精神的にも不安定になる中、心身の不調や対人関係の問題など飲酒のきっかけになる原因をひとつずつ解消・解決していくことが不可欠です。「断酒優先の生活」を継続するためにも、身近な人たちの支えが必要なのです。

――回復を実現するため、ご家族ができる働きかけは何でしょうか。

「説教・説得・監視・叱責」は全て効果がありません。具体的には、食事の献立に酒肴になるようなものは出さない、もちろん一緒に飲まない。ただし、本人が買ってくるものは自由にさせてください。それを取り上げたり、隠したり、薄めたりするのはかえって断酒治療につながらないからです。まずは家族を混乱から救いだし、家族関係を再建し、健康な状態に戻すことが肝心です。そのためには、アルコール依存症である当事者が「飲む自分」か「飲まない自分」かを選択しなければいけません。どちらが好きかと問えば、誰しも「飲まない自分」だと答えます。それが本音ですが、飲酒をそそのかす要因が日常生活にいくつも潜在しています。それらと向き合うことから始めなければいけません。ですから、「あなたを見ていると辛いし悲しい」といった自分の感情を伝えるのはとても良いことです。そうすることで、「自分は家族に辛く悲しい思いをさせているのだ」と気づくことが可能になります。

――家族のサポート以外に、治療には何が有効でしょうか。

院長 西山 仁

同じ病に苦しむ人たちにつながることは、回復には欠かせません。アルコール依存症に悩む患者さんは、なかなかそれを正直に他人には言えません。言えないことで孤立していきます。言えない苦しみから不安が募ります。院内ミーティングや自助グループに参加し、自分だけが特別じゃないという安心感を得ることが大切です。そういった集団の中で「回復のモデル」に出会うことで、希望が生まれます。想いを言葉にして表に出すことが得意ではなく、集団での話の場に行くことを尻込みする人も少なくありません。そういった方に私はいつも「話上手になる必要はない。聞くだけでいい」とアドバイスしています。抱えている問題によって受け取り方は人それぞれ。様々な話に耳を傾けることで、きっと何かしらの気づきが得られますから。精神的かつ社会的な回復は、それまでの自分の生活リズムや行動を変えていくこと。そのためには、自分と同じような人たちを鏡としながらアプローチしていくのが最も有効な方法です。

――治療を継続するための秘訣はありますか。

再飲酒してしまうと通院を嫌がる人もいますが、どんなに酩酊して来院しても診察はします。自らの足で来ているなら、拒否はしません。責めもしませんし、怒りもしません。回復途中では、ときとして嫌なことや辛いことを経験するのも大切だからです。避けなければならないことは、再飲酒したことを恥じて断酒を諦めてしまうことです。もし飲酒してしまっても通院を続けていただくことが何より必要なのです。アルコール依存症に苦しむ人の中には、実際は仕事熱心なあまりに、仕事関係者から酒の場に誘われて断りきれず飲酒を続けてしまうケースも少なくありません。その場合、お店などでは気を張って周りからの誘いをかわしていても、帰宅途中や家に帰ってから飲んでしまうんです。緊張が解けて、誘惑に負けてしまう。ですから、飲酒欲求を未然に防ぐためにも、そういった場に行かない選択をしましょう。お酒を介する以前の人間関係のパターンの見直す勇気を持ってください。


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