Doctor's Voice

医局長 平田 雄三

医療法人 晴明会
糸満晴明病院
医局長 平田 雄三

糸満晴明病院

当院は昭和49年に沖縄県初の医療法人として開設され、昭和63年には県内唯一のアルコール依存症専門治療病棟を開設している医療機関です。明るい日差しと爽やかな海風が届く高台の地にあり、治療テーマは「光と風の安らぎを」。さまざまな機関と連携しつつ、温もりのある開かれた地域医療の実践を目指しています。アルコール依存症治療に精通したスタッフたちが、約30年以上にわたる治療実績による多彩なプログラムを駆使し、「患者(及び家族)ファースト」の姿勢を貫きながら、多くの人々の回復への道をサポートしてきました。

メッセージ

――アルコール依存症の治療において大切にされていることは何ですか。

何よりもまず正しい知識の提供を大切にしています。アルコール依存症は、飲酒コントロールを失う「病気」です。それは、節酒できない身体になるということ。虫歯やアレルギーなどと同じで、気持ちだけでどうにかできるものではありません。進行性の病ではありますが、回復は可能です。この場合の「回復」とは、日常生活を取り戻すという意味です。依存症の患者さんは、「酒を飲みたい」という気持ちと、「酒をやめたい」という欲求の両方を抱えています。だからこそ、正しい知識を学んでいただき、酒がなくても生活を楽しめる技術を身につけることで、「酒をやめたい」という思いを強くしてもらいたいと考えています。アルコール依存症治療はただ飲まないだけではなく、心理的変化や行動の変化を目標としているため、回復するには長い期間を要します。そのため、その過程で失敗してしまっても安心して診察が受けられるような治療関係の構築を目指しています。

――治療の過程で失敗される例は珍しくないのでしょうか。

退院して一年以内に再飲酒する患者さんは7~8割ほどでしょうか。「酒を飲みたい」という欲求が減ったときに油断してしまい、薬がなくても大丈夫といった自己判断から再飲酒を引き起こすケースが少なくありません。その場合でも飲酒行動を責める事は無いので、ご安心下さい。失敗したことは残念ですが、「飲んじゃった」と外来に来てくれるだけでいいのです。なぜなら、そこからまた再出発できますから。治療において最も重要なことは、患者さんとそのご家族とスタッフたちが共に回復を信じること。回復が現実のものであるという希望を持つことなのです。過去に、入退院を繰り返す中、病室にお酒を持ち込んで退院となった患者さんがいたのですが、その退院から5年後に挨拶に来られて、それから10年以上、毎年年末には病院に顔を出してくださいます。断酒が続いていることを嬉しく思っています。

――治療におけるご家族の存在の重要性についてどうお考えですか。

ご家族の協力は、欠かせない要素のひとつです。まずは「病気」だということを理解してもらうためにも、ご家族の話にも耳を傾け、必要であれば院内の家族教室や地域の家族会へと導きます。今までやってこられたことも間違いではありません。ですが、「正しい知識によるサポートがあれば良くなりますよ」とお伝えしています。また、ご家族だけに限ったことではなく、自助グループに参加することも有効です。同じような経験を持つ者同士が集い、体験談を聞くことで気づきや共感を得ることができ、自らのことを受け入れ、語ることで回復が促されると考えます。加えて、実際に断酒を継続している仲間を知ることが希望に繋がります。当院には、医師をはじめ看護師、臨床心理士、精神保健福祉士などさまざまなスタッフがサポートしております。集団療法を通して、いろいろな立場の人の飲酒に対する考え方を知り、自分自身を振り返るきっかけを得られます。酒害体験の共有は、仲間との連携感を生み出すことが期待できるのです。

――自助グループなどの連携状況を教えてください。

保健所や市役所など相談機関への講師派遣をはじめ、近隣の医療機関におけるアルコール出張相談の実施、回復支援機関に対するアルコールリハビリテーションプログラムの講話依頼、さらには警察や刑務所での講話を行うなど、可能な限りのネットワーク構築に注力しています。県内の各断酒会との連携も密にしながら、治療プログラムにそれら断酒会への参加を義務づけています。また、院内においても自助グループのミーティングを実施し、断酒への意識づけをサポートしています。一度アルコール依存症になってしまうと、飲酒コントロールが効かない体質は一生戻りません。何年か断酒したとしても再飲酒すれば元の飲み方に戻ってしまう「再発準備性」があるため、治療の基本は原則「断酒」です。飲まない生活を維持しながら、心や身体を健やかに保ち、日常生活の「回復」を目指しましょう。


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