Doctor's Voice

古川 愛造 先生

聖明病院
院長 古川 愛造(ふるかわ あいぞう)先生

聖明病院 外観

アルコール並びに薬物依存に対する専門治療施設として、昭和63(1988)年に開院。富士山を望む広々とした病棟は182床を有し、年間約400名もの入院患者様を受け入れておられます。その専門性の高さゆえ近隣の総合病院からの依頼や紹介も多く、地域医療機関同士の密な連携にも積極的に取りくまれています。また、多彩な治療プログラムをはじめ、デイ・ケアやグループホーム、院内自助グループ、家族会など様々な依存症患者様とそのご家族に対するサポート体制を整え、重症化する前の早期治療を可能にされています。静岡県東部を診療圏の中心とする地域医療機関ですが、県外からも患者様が訪れておられます。

  • 聖明病院屋上からの富士山 雲
  • 聖明病院付近
  • 病院からの夜景

メッセージ

――どのような姿勢でアルコール依存症の治療に携わっておられますか。

当院では、30年前の創業当時から「すべての入院依頼を断らない」ことを第一に掲げてやってきました。依存症に苦しむすべての患者様に分け隔てない治療を行い、患者様ご本人だけではなく、そのご家族に対しても、回復と社会復帰を支援し続けてきました。当院のような都市部と離れた立地にあり、依存症のみを対象疾患としている病院は、治療法や疾患に対する考え方が古く、偏ったものになりがちですが、依存症専門機関として、最新の認知行動療法を中心としたわが国で標準的な治療に多職種のスタッフがかかわる患者様の回復プログラムを取り入れています。これらのスタッフは、学会、研修会、地域の情報交換会などに積極的に出席して、常に学ぶ姿勢を大切にしています。
また、全職員を通して、 患者様の声に傾聴し共感する、そのスタンスこそが、依存症治療に欠かせないものだと考えます。

――治療プログラムについて具体的に教えてください。

古川 愛造 先生

まずは、依存症に対する正しい知識が必要ですから、当院オリジナルのワークブックを用いて、学習会を行います。疾患に対する理解を深めるため、集団精神療法や集団認知行動療法を治療プログラムの中心としています。また、当院では、レクリエーションプログラムに力を入れており、背後に富士山を見上げ、眼下に駿河湾や伊豆半島を見渡せる、広いグラウンドでのスポーツが盛んです。また、ヨガやストレッチ、書道や絵画を取り入れた芸術療法、音響が自慢のカラオケなど様々な趣味のプログラムで、ともすれば退屈になりがちな入院生活を、充実したものにするよう心掛けています。今までお酒で満たされていた部分を、お酒に変わる趣味で楽しめるようになると、退院後の断酒の継続にも有効だと言えます。当院は依存症治療の専門病院のため、入院患者様は依存症に苦しむ「仲間」だけです。そのため、依存症に特化したレベルの高いプログラムが実践できています。そこから、仲間意識が強まり、患者様同士の結束が生まれるのも特長でしょう。一緒に頑張れる仲間がいるということは、依存症の治療においてはとても心強いことです。
入院は解毒期間を除いて、治療プログラムが約3か月間で構成されており、退院後は合併症がなければ外来通院は1年を目安にしていただいています。

――退院後のサポートについても教えてください。

入院療養の後、外泊訓練を経て退院してもすんなりと社会復帰できるわけではなく、その道程には多大なステップアップを強いられているのが従来の治療のあり方でした。当院では、デイ・ケアという選択肢で回復のためのステップをひとつ増やすことで、より円滑に生活上の課題をクリアできるようにしています。入院中のように「飲めない・使えない」という環境下であれば、欲求は起こりにくいものです。でも、退院後は「飲まない・使わない」という自らの意志が必要となります。加えて、疾患によって崩れてしまった生活のバランスを取り戻さないといけません。これは一人では大変困難なことです。デイ・ケアでは、当院オリジナルのワークブックを用いた認知行動療法、当事者ミーティング、レクリエーションの三つを骨子としたデイケアプログラムによって、バランスを立て直すことを目標としているのです。そして、退院後の独り暮らしに不安がある方には、当院のグループホーム「さくらの杜」も利用していただけます。自分らしく自立したスタイルを確立することを目的とした共同生活の場です。

――自助グループの存在をとても重要視されていらっしゃいますね。

聖明病院屋上からの富士山

はい。当院には、院内自助グループ「T.A.C.T.(タクト)」があります。昭和63(1988)年に「聖明断酒会」として設立されたもので、平成24(2012)年からは薬物等依存症の患者様も入会できるようになりました。同会では、依存症からの回復を主軸に置いて、退院後スムーズに断酒できるように可能な限りの援助活動を展開しています。地域の断酒会やダルク*への紹介、有用な情報提供などを行い、社会復帰を促します。都会には敵わない医療資源の乏しさをカバーしてくれるという意味でも、自助グループの存在は貴重です。協力してくれる「先行く仲間」たちは、自分たちの酒害体験をもとに、現在依存症で苦しんでいる人々を回復へと導いてくれるため、とてもいい循環が生まれていますね。富士山が眺められる屋上ホールを開放して年2回開催されている「聖明同窓会」では、多くの人々が交流を持つことができています。自分の悩みや苦しみを理解・共感してくれる存在は、治療の過程で必要不可欠なのです。

*ダルク:当事者によって運営されるNPO、薬物依存症専門施設

――アルコール依存症に苦しまれているご家族へメッセージをお願いします。

古川 愛造 先生

我々が何よりも大切にしているのは、「患者様ご本人だけでなく、そのご家族にも寄り添う治療」です。アルコール依存症は、本人を苦しめるだけでなく、ご家族を巻き込む病気です。だからこそ、本人同様にご家族の悩みに耳を傾け、その苦しみも同等に受け止めなければいけません。まずは、アルコール依存症は病気だという認識を持ってもらい、その上でどうやって問題を課帰結するかを知るためのサポートに力を注いでいます。

当院では、毎月第1土曜日に「家族会」の時間を設けています。依存症に対する悩みや不安について、回復者の方々や同じ立場にいらっしゃる他のご家族と話し合うことは大きな助けになるはずです。当事者の体験談や意見を聞くことが救いに繋がります。本人だけでなくご家族が苦しみから回復するためにも、ぜひ一度ご参加ください。


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