Doctor's Voice

菅沼 直樹 先生

刈谷病院
副院長 菅沼 直樹

刈谷病院 外観

1963(昭和38)年に開院、アルコール依存症の治療は1992(平成4)年から開始しています。医療機関、行政、福祉との連携に積極的に取り組み、住民に広く開かれ、地域密着の病院として親しまれています。2011(平成23)年に開設された「地域連携室」(平日および隔週土曜日9:00~17:00受付)では、受診・入院相談をはじめ他機関からの要望にも迅速な対応がなされています。精神科受診に関しての問い合わせはもちろん、よろず相談窓口として機能しているのです。また、情報誌「ハーモネット」(HPでPDF版が閲覧可)を発行するなど、正しい知識の提供にも力を入れています。

メッセージ

―アルコール依存症の治療において重要なことは何でしょうか。

依存症は病気であり、病気である以上は治療法があります。そして、回復のための支援が必要なのです。長らく、そういった当然の認識について社会的理解が乏しく、必要な治療や支援に結びつきにくい問題がありました。理解不足からの偏見が患者さんやご家族を治療から遠ざけてしまう危険性があるのですが、最近は少しずつ意識が高まってきたのか、ご本人がひとりで来院するケースが増えてきたように感じます。「依存症は病気なので治療に結びつける方がいい」ということが認知されてきたのは、とても大事な変化です。また、アルコール医療は専門の医療機関だけで完結するものではなく、自助グループとの連携も欠かせません。当院には、「出会いの場を積極的につくってほしい」という患者さんたちの声からできた院内自助グループ「めばえ」があり、例会よりもくだけた雰囲気の茶話会のようなものとして機能しています。

―地域ネットワークの構築にたいへん力を注いでらっしゃいますね。

菅沼 直樹 先生

当院は、「地域の中の病院」という理念を持ち、地域連携を活発に行ってきました。施設を作って入院患者さんを囲い込むのではなく、地域に戻していくべきだという考えからです。今年で12回目を迎えた病院フェスティバル「あったかハートまつり」では、地域の子供たちや家族連れが2000人近くも遊びにきてくれます。地域ボランティアの方々にも積極的に協力をいただきながら、病院の中でみなさんが患者さんたちと楽しんでらっしゃる姿を見ていると、地域の中での精神科病院のイメージが自然に定着していることを実感します。
そういった活動と並行して、アルコール健康障害対策基本法が実効性を持って機能し、愛知県の推進計画を進めていくために、保健所を中心としたネットワークの構築に協力しています。保健所をベースにすることで、警察や消防署、福祉、自助グループなどさまざまな機関が集まってくれるのです。救急マニュアルの作成や事例検討など、関係者が共通の理解のもとアルコール医療に取り組むことができ、当院と共同事務局を作っている衣浦東部保健所の活動は全国モデルのひとつになっています。

―アルコール依存症の治療における先生のポリシーをおしえてください。

わたしたちは、「患者さんの自律性」を大切にしています。ご本人がどうしたいのか、これから先どんな人生を歩んでいきたいのか――それを聴いて、実現するためには何ができるのかを話し合いながら、治療を進めていきます。患者さんたちに、お酒を止めるメリット・デメリットと飲み続けた場合のメリット・デメリットについて話し合ってもらったことがあります。それぞれ付箋に意見を書いてまとめたのですが、参加者みんなが一致した点は「信頼をなくしてしまう、人間関係を壊してしまう」という答えでした。これこそが、治療を継続する際のモチベーションになるのです。

―アルコール依存所の治療で、なぜ「動機づけ」が重要とお考えですか。

治療は、最終的に本人のためのものでなければいけません。誰かに言われたからとか、世間体のためといった表面的理由では断酒を続けることは困難です。飲みたい気持ちは本音ですが、それだけではない。飲酒のためにあきらめざるを得なかった、本当は選びたいそれぞれの生き方があるはずなのです。我々はそれを引き出していく必要があります。患者さんの良いところ、努力している部分を引き出して、パワーに変えていく。それがモチベーションになる。そういった関わり方を重視しています。そのため、当院では動機づけ面接(受容・傾聴・共感のスキルを基盤に、より健康的・社会適応的な方向へ相手自ら行動を起こそうとする気持ちを引き出す応対法)を職員研修に組み込んでいるのです。これは依存症に限らずあらゆる援助職に有用な技術ですから。

―アルコール依存症に悩むご家族へ、先生からのアドバイスをお願いします。

菅沼 直樹 先生

当院では、「家族教室」を定期的に開催しています。巻き込まれたご家族が病気になることも少なくないため、家族支援は大切です。人とのつながりが変わってくると、さほどアルコールは必要でなくなります。依存症者本人の回復のためにも、苦しんでいる家族へのサポートは欠かせません。家族教室では、アルコール依存症の基本的な情報だけでなく、CRAFT(対立を招かず本人を治療に導き家族をエンパワーするプログラム。コミュニティ強化法と家族トレーニング)やイネーブリング(依存者に同情し、世話をして、不始末の尻拭いをするなど、気づかぬうちに飲酒を助けたり、飲酒へと導く対応をしたりしてしまうこと)についても学べます。誰しもイネーブラー(飲酒への助力者)になろうと思っているわけではなく、大切な人を何とかしたいという想いを抱えて行動しているのです。だからこそ、ご家族が最善の方法と思ってやってきた努力への労いを忘れてはいけません。わたしたち医療従事者だけでなく、断酒会・AAなど自助グループの人たちと出会い直接話を聴くこともプラスになりますから、ご家族だけでも足を運んでみるといいですね。



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