Doctor's Voice

米良 貴嗣 先生

翠会ヘルスケアグループ
八幡厚生病院
米良 貴嗣 先生

八幡厚生病院 外観

1964(昭和39)年に開院され、今では地域の精神科および認知症医療における中核病院としての役割を担っておられる病院です。1986(昭和61)年には、アルコールの専門病棟を開設。500名以上のスタッフが勤務される中、医療の質の維持と向上のため、2015(平成27)年にはISO9001:2008(品質マネジメントシステム=「顧客満足の向上」という目標達成のための国際規格)の認証を取得されています。徹底したサービス改善をはじめ、専門性の高いスタッフによる高度なチーム医療、関連施設や近隣の医療機関などとの密接な連携による積極的なサポートに定評があります。

メッセージ

―多くのスタッフで実践されているチーム医療について教えてください。

当院では“承認”をスタッフの基本的な姿勢としています。承認とはスタッフが先入観や個人的な判断をせず、患者さんの感情、思考、行動を観察し、患者さんの反応の中に知恵や妥当性を見出して理解可能なことを伝えることです。我々医療スタッフは患者さんの話を積極的に傾聴し、「お酒を飲まずにはいられない辛さ」、「お酒をやめられない辛さ」を理解することで回復への協力者となります。また、患者さんは周囲から承認されることによって、はじめて自身の現状を受け入れて自分にとって不利益な行動を幸せにつながる行動に変える意志を持つことが出来るのです。承認を基本的な姿勢としてスタッフ一同がそれぞれの立場で患者さんのアルコール依存症からの回復を支えられるように日々頑張っています。

―専門的な治療やリハビリテーションとはどのようなものですか。

米良 貴嗣 先生

当院のアルコール依存症の入院プログラムは久里浜医療センターが提供する久里浜式に準じたものをベースとして、認知行動理論による心理教育、弁証法的行動療法のマインドフルネスや依存症行動への対処のスキル・トレーニングなどを行っています。患者さんがアルコール依存症に対する正しい知識を持ち、ミーティングを自身の回復にうまく利用して自助会につながるように援助をするだけでなく、自分の飲酒の引き金となる感情や出来事を理解し、対処するスキルを身に付けることで、断酒を維持して社会復帰することの支援をすることを目指しています。また、患者さんの個別性にどう対応していくかも重要な課題になっています。例えば、“発達障害”の患者さんがアルコール依存症になった場合は、その引き金となっている“他者との関りの難しさ”、”社会生活の困難さ“による心的苦痛や回復のための“ミーティングへの参加の困難さ”への対応も必要とされます。そこで、自分自身の特性の理解と受容を進める発達障害のグループや基礎的なソーシャルスキルを学ぶグループへの参加も並行して行っていきます。これらのプログラムは当院で治療を行うすべての患者さんたちのニーズに合わせて、医師やスタッフからの様々な意見に基づいて細分化され続けています。それは、多くのスタッフたちが現場で患者さんに寄り添い、本当に合った療法や求められているプログラムを模索しているからこそ出来ることです。

―なぜ依存症にはそういった専門的な治療が必要なのでしょうか。

アルコール依存症は「心の病」です。とはいえ、精神科の受診に抵抗を感じ、アルコールのせいで内臓が悪くなり、内科への入退院を繰り返す例は少なくありません。アルコール依存症は治癒することが無く、断酒を継続することで回復を維持することが必要です。そしてそれは患者さん一人の力ではそれは難しいのです。専門的な治療を受けて、自助会につながることが必要となります。お酒が飲めない体質の私はいつも、「お酒が無くても幸せな人生が送れますよ」とお伝えしています。お酒が無くても、悲しみや孤独感を癒したり、怒りを和らげたり、喜びを感じることは出来るのです。そのお手伝いが出来ればと思っています。

―ご本人が自発的に相談される例は少ないと思うのですが……

そうですね。ですから、当院ではご家族の方だけの相談も受け付けています。ご家族が効果的に関わることでご本人が治療の一歩を踏み出すことにつながることがあり、何よりも傷つき疲れたご家族自身も癒される必要があるからです。二日酔いで仕事に行かない、酔って暴言や暴力を加えるなどのトラブルがあるなら、専門医に相談してください。ご家族を対象としたグループ形式でのミーティング(家族会)も定期的に開催していますので、一人で抱え込まずに、どうすればより良い方向につながるのか一緒に考えていきましょう。

―ご家族だけでなく、自助グループとのかかわりも大切なのでしょうか。

米良 貴嗣 先生

はい。当院では、スタッフが外部の自助グループの活動にも積極的に関わっていますし、退院されたOBの方などを中心に自助グループの方に定期的に体験談などを話してもらい、患者さんには自助グループの外部ミーティングにも積極的に参加してもらっています。自助グループを嫌がっていた患者さんが、OBの方と仲良くなっていつの間にか参加ということも少なくありません。私はアルコール依存症の真の辛さはアルコール依存症である者にしかわからないと思います。例えば、断酒を1年続けた患者さんが「近所に居酒屋がオープンしてちょっと入りたくなったが、踏みとどまった」と話した時、ご家族は「まだ、そんな状態なのだ」とショックを受けて、表情が曇ったり、叱責をするかもしれません。しかし、自助グループのメンバーは無条件に理解し、共感や賞賛を示すことが出来るでしょう。苦しみや努力を常に共感し合える相手がいることは大きな手助けになります。自助グループは回復の維持に最も大切なものだと思っています。自らの過去や体験を振り返り、それを言葉にすることで新たな気づきを得ることも回復への大切なプロセスなのです。



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