Doctor's Voice

髙野 善博(こうの よしひろ)先生

金岡中央病院 院長補佐
あいメンタルクリニック
院長 髙野 善博

松田 隆志(まつだ たかし)先生

金岡中央病院
松田 隆志 先生

髙野先生とご一緒にアルコール依存症の治療をされておられる、松田隆志先生。

金岡中央病院 外観
あいメンタルクリニック 入口
  • あいメンタルクリニック
  • 〒591-8021 大阪府堺市北区新金岡町4-1-11
    イオン新金岡店エブリー2階
  • TEL:072-240-1130
  • http://ai-mcl.jp/

金岡中央病院は、髙野先生が赴任された1995年に、専門治療施設を整える必要性を感じ、たった一室の病室(8床)からアルコール依存症治療をスタートされ、1998年にアルコール専門治療病棟を開設した病院です。堺市を中心に松原市や大阪市南部までを基本的な診療圏とし、アルコール依存症治療においては、その周辺の大阪府の各地域や遠くは兵庫県、京都府、奈良県、和歌山県からも治療に来られます。府下最大規模の大泉緑地近く、緑豊かな療養環境にて、「解毒および離脱症状への対応」「身体的・精神的合併症の治療」「疾病教育と断酒への動機付け」「自助グループ(断酒会、A.A.)への導入」を目的に治療が行われています。2016年には外来通院の利便性をはかるために、駅前にサテライトクリニック「あいメンタルクリニック」を開院されました。

メッセージ

――HPではアルコール依存症について詳しく解説されていますね。

当院では、ただ単に断酒を継続するだけでなく、過去の体験を振り返り、しんどかった自分、生きづらかった自分を見つめ直し、なぜアルコールに依存せざるを得なかったのかを謙虚に自己洞察し、その洞察を基に物事の捉え方や考え方、対処方法などをより良い方向に変え、自己改革を続けることで、アルコールを必要としない生き方を獲得し、その結果、「心広く、心大きく、心穏やかに、心豊かに」人生を送るようになることこそが回復だと考えています。人は折にふれて、いろんな壁に直面します。辛くしんどい体験を乗り越える過程で人間的成長を得られることを思えば、アルコール依存症もその壁のひとつだと言っても過言ではないでしょう。まずはアルコール依存症への誤解を解き、進行の段階をわかりやすく説明することで、正しい知識を得てもらいたいのです。いまではHPを窓口に来院される方も増え、20~80代の幅広い患者さんが外来通院されています。「否認の病気」と言われるアルコール依存症だからこそ、治療のきっかけを提供するのも我々の役目だと思っています。

――入院中のプログラムについて詳しくおしえてください。

アルコールリハビリテーションプログラム(ARP)は、3ヵ月ワンクールの治療プログラムで、大きく分けて3段階から成ります。第1段階はアルコールの解毒、離脱症状治療、身体的精神的治療です。素面の頭で、健康な体で、落ち着いた精神状態で自分自身を見直す準備を行います。第2段階はアルコール治療教育です。レクチャー、基礎講座[ビデオ研修]で基礎知識を身につけ、グループミーティングや院内例会にて各自が体験を語り、病気の実態や、アルコールを断たないとどうなるのか、断つためにはどんなことに気を付けて、どんな取り組みをする必要があるのかを学んでいきます。第3段階は退院に向けての準備です。外出、外泊をして自助グループ(断酒会、A.A.)に参加し、回復を共に歩む仲間と交流を深めます。プレデイケア参加や就労継続支援事業所への体験通所を行い、退院後の日中活動の流れを作ります。退院後は外来通院治療に移行します。

――アルコール依存症の治療において大切なことは何でしょうか。

忘れられないこんな事例があります。最初の10年余りは完全断酒ができずに折に触れて家族を酒害で苦しめ、その後、10年以上にわたって断酒を継続している男性患者さんがいます。彼は、皮膚癌を発症された奥様を「長年苦労をかけてきた家内に今してやらないといつするんや」「あの時こうしてやったら良かったと思わないようにしたい」という思いの基に、毎日病院に行き、食事を食べさせ、薬を飲ませ、シャワーの日には着替えを持って行き、痛みのある時はマッサージをしてあげ、献身的に看病されつつも、断酒会にも休まず参加されていました。手術後も放射線治療や抗癌剤治療を行う中で、大層落ち込んでおられましたが、断酒会の仲間たちが心の支えだとおっしゃっていました。仲間から励ましのメールをもらったり、優しい言葉をかけてもらったり、心のうちを話せる仲間がいることこそ精神的なサポートだったようです。「今、夫婦仲が一番いいですわ」と話しながら、病室で撮ったご夫婦の写真を見せてくださいました。奥様は抗癌剤による脱毛の加減で帽子を着用されていましたが、ご夫婦ともピースサインでとても良い表情であったのが印象的でした。
また、「いろいろあったけど飲まなくて良かったです。しんどいときこそ断酒会に行かないと駄目ですね」と話しておられたのも印象的でした。その後、癌は進行し、奥様が最期を迎えられた時、彼が「(酒害で)長い間、苦労をかけてごめんな」と声をかけると、奥様はゆっくり、大きく頷いて暫くして息を引き取られました。
アルコール依存症という病気によって自分自身を見つめ直す機会をいただいたという認識に至り、迷惑をかけてしまった人に償いをする気持ちを抱かれたのです。断酒を継続する中で、“多くのことを学ばせてもらっている”という気持ちを忘れずに治療に励むことが何より大切だと思います。

――ご家族の協力なくして回復は困難だということでしょうか。

アルコール依存症という病気は、ご本人だけでなくご家族にも多大な苦痛をもたらします。当院では、病気に巻き込まれるご家族のための「家族教室」も実施しています。病気かどうかもわからず、酒害に苦しみ、必死になって努力しても成果は得られず、ご家族は疲労困憊するしかなくなります。不信感や恨み、怒りや不安などの感情が渦巻き、生きるエネルギーが枯渇してしまうのです。治療のためには、まずはご家族が疲れから癒される必要があります。心のうちを話し、助言をもらい、心の健康を取り戻す。そして、アルコール依存症者が加害者で家族が被害者であるといったご家族の被害者意識を取り除き、ともに病の影響を受けてきた者同士、ご本人とご家族が協力して回復の道を進むことが重要です。その際、同じ悩みを持った仲間でないと心底理解してもらえないこともあります。共鳴・共感を得て、体験を分かち合うことで、心の健康と本来の自分を取り戻していくためにも家族教室は不可欠な場なのです。

――そんなご家族にとって必要なことは何でしょうか。

髙野 善博(こうの よしひろ)先生

重要なことは3つです。(1)家族会(自助グループ)への参加、(2)医療機関の家族教室への参加、(3)ご本人の治療のタイミングを計ること。飲む飲まないはできるだけご本人に任せて下さい。酒を控えさせるために、褒めてみたり、宥めてみたり、一筆書かせるなんてことをしても、病気が原因ですので根本的な解決にはなりません。
そして、飲酒により起こってきた問題(身体的問題、社会的問題、経済的問題)の解決はできるだけご本人に任せることです。問題解決をご家族が肩代わりしてしまうと、結局はご本人が飲酒を続けることを手助けすることになってしまいます。このような世話焼き行動やイネイブリングをやめることです。ご本人が飲酒問題に直面し、困ることが治療導入の大きなきっかけとなります。 ご家族は治療へと結びつける役割を担ってください。そのためにも、(1)(2)を通じて、アルコール依存症が回復可能な病気だという知識を身につけることで治療への一歩へとつなげられるのです。

イネイブリング:アルコール依存症者が飲み続けることを可能にする周囲の人の行為のこと



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