Doctor's Voice

堀 達先生

長谷川病院
堀 達先生

長谷川病院 外観

東京都の23区と多摩地区の間の三鷹市にある長谷川病院は、目の前に野川が流れ、病棟からは富士山が眺められる自然豊かな環境にあります。「治療・教育・予防」の3本柱を軸に、「力動的チーム医療」を実践し続けておられる病院。1957年創立以来、精神科救急医療に取り組み、時代とともに多様化する精神疾患への対応を可能にするため、熱心な職員への教育も特色です。アルコール依存症病棟を有しており、治療プログラムは多職種によって運営され、重症度に応じた個別性を重視した治療が高い評価を得ています。

メッセージ

—アルコール依存症の治療プログラムについて、教えてください。

当院の治療プログラムは、医師をはじめケースワーカーや作業療法士、看護師、薬剤師、臨床心理士による集団療法、疾患教育、認知行動療法と主治医別の精神療法を行っています。入院期間は予め決まっておらず、臨床経過の中で出現する精神症状の程度や疾患理解、退院後の環境を考慮して、個別に治療目標を設定しています。
認知行動療法では、不安、不眠、イライラとした感情、孤独感などの飲酒の引き金(2次性強化因子)に対しての分析と、それらに対する具体的で現実的な対策を複数たてていくことを促しています。また、飲酒欲求が強くなった時に、事前に考えておいた再飲酒の回避策を実践できるように準備することも重要です。
アルコール依存症では、気分障害、不安障害、睡眠障害、断酒後の情動障害(イライラしたり、怒りっぽくなる症状)といった合併精神症状が多く見られるため、それらの病状に対する薬物療法も大切な治療と考えています。その際には、依存性のない、もしくは少ない薬を選択し、漫然と投与し続けないように注意しています。

—もう少し治療の特色をご説明ください。

疾患教育としては、アルコール依存症を生物学的に基礎付けられた疾患、つまり「脳の病気」としてとらえます。繰り返し飲酒しているうちに飲酒欲求が強くなっていき、気がついたら飲酒量をコントロールできなくなり、日常生活の中でもアルコールの優先度が上がり、日常生活、社会生活にも支障がでてくる病気です。脳で起きる病的な飲酒欲求によって、病的な飲酒行動が引き起こされます。飲酒を繰り返していたら誰でも依存症になる可能性があり、「意思が弱い」、「だらしがない」から依存症になったわけではなく、依存症になったがためにそう見えてしまうのです。また、断酒の意志があっても再飲酒することもあります。まず、依存症になった原因や依存症の治療を精神論で解決することがないようにする必要があります。
入院して断酒をすることになりますが、断酒後の飲酒欲求は必ずしも患者様が自覚できているわけではなく、イライラ、怒りっぽさ、不安、不眠、抑うつなどの情動障害や過食、タバコの本数の増加、コーヒーやコーラなどのカフェイン含有飲料の増加などとして現れることもあります。「もう懲りたので断酒できる」と安易に訴えたり、急ぎの用事でないにもかかわらず外出や外泊を希望したり、入院生活の不満を訴えて退院要求をすることもあります。これらの断酒後の情動障害を「山」と言って患者様に説明し、「山」を越えることを最初の治療目標としています。山を越えることができると、入院前の病的な飲酒行動に対しての振り返りを客観的にできるようになります。アルコール依存症を自分だけの問題としてとらえるのでなく、家族や社会に与えた影響にまで配慮して振り返りができるようになることが重要と考えています。断酒の決心をすることは素晴らしいことだと思いますが、どうして断酒しようと考えたのか、そのプロセスを重視して治療を行っています。

—アルコール依存症の治療におけるポリシーは何ですか?

長谷川病院 外観

アルコール依存症の治療においては、任意入院、開放病棟、3ヶ月の入院期間のプログラムが基本と考えられていますが、病状は人それぞれなので、重症度に応じた治療を行っていくことが大切だと考えています。2ヶ月ぐらいで退院が可能な患者様もいますし、医療保護入院、閉鎖病棟で治療導入し、3ヶ月以上入院期間がかかる患者様もいます。プログラムを達成して退院することが目的ではありません。病気の理解を正しくして、アルコールに対するスタンスを考え、入院前の状況を繰り返さないようにするための対策をたてて、実践していけるようになることが重要です。
「一生お酒を止めなさい」と言われれば、依存症でない人でも果てしない月日にやる気を失うと思いませんか?それが依存症で飲酒欲求が強くなっている患者様なら尚更です。まずは半年、さらに半年、と現実的な目標を定めていくことが重要です。もし、2年間断酒できたならば、お酒のない生活が確立され、断酒のメリットのほうが増えて、今更飲酒することがもったいないと思うでしょう。現実的な目標をたてて、それが達成できるように応援することが重要と考えています。

—治療上、とくに重要視されていることはありますか?

飲酒欲求があることは悪いことでなく、当たり前のことです。また、治療中の再飲酒は残念なことですが、病状の再発です。飲酒欲求の状況や再飲酒があった状況を医療者に正直に話すことができるような治療関係が成り立っていることが重要だと思います。治療が中断しないように、治療関係を維持していくことができれば、必ず好転していくと考えています。

—ご家族に対して重要視されていることはありますか?

治療において、ご家族の病気の理解や適切な対応も必要不可欠ですから、毎週金曜日にケースワーカーを中心とした家族会を開催しています。病気に対する正しい知識を得てもらい、断酒を応援するスタンスを確立してもらうための場を提供しています。入院前、ご家族の苦労や心配は大変なものだったと思います。しかし、家族が感情的、批判的になっても、結果をすぐに期待しても、患者様の良い変化を得ることは難しいです。断酒によって、患者様本来のその人らしさを取り戻して欲しいというメッセージが伝わることが重要です。

—最後にメッセージを

堀 達先生

アルコール依存症には多様な病態があり、誤解も多い難しい病気です。当院では病気の重症度を査定し、病状に応じて入院期間を個別に設定し、他院より高い断酒率を得ています。アルコール依存症の方が、アルコールの束縛のない自由な生活でできるように援助できればと考えています。



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