Doctor's Voice

院長 米沢 宏

慈友クリニック
院長 米沢 宏

アルコール治療を専門とする入院に特化したクリニック

日本で最大の精神科医療グループとして知られる翠会ヘルスケアグループの一員として、新宿区という東京の中心地に拠点を構えるクリニック。一般内科に加え、人間ドック・健康診断部門、心療内科、精神科を備え、「こころ」と「からだ」の両面からの健康サポートが最大の特色です。都内では珍しいアルコール依存症の専門医療部門として2つの「アルコールデイケア」を持ち、通院による回復のためのプログラムに定評があります。とくに家族へのフォローとアルコール依存症の教育に力を注いでいる施設です。

メッセージ

―都内でアルコール専門外来があるクリニックは珍しいですね。

近年は専門外来のクリニックも増えましたが、当クリニックの開院当初はアルコール依存症が外来で治療できるとは思われていませんでした。専門病院は郊外に多く、入院治療が一般的だったからです。当クリニックは通院のみということで初診のハードルが低いことが特徴のひとつと言えます。3線が乗り入れる高田馬場駅前というアクセスの良さから通院もしやすく、仕事帰りに来院される会社員も多いです。毎月約700人が来院し、そのうち初診が40人ほど。彼らの多くがインターネットなどで事前に情報を調べて自主的に来られます。必要に応じてグループ内の関連施設における入院治療なども紹介しています。

―治療において最も大切にされていることは何ですか。

第一に断酒のお手伝いです。素面の状態でQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目指しています。

アルコール依存症について正しい知識を持っていただくことと自分の状態を知っていただくことです。そうすれば何をすればいいかは自ずと明確になります。「酒をやめろ」と言わないことですね。酒をやめるやめないは、本人が決めること。やめるつもりがないならクリニックに通う必要はない。しかしやめたいのにやめられないならそれは病気なのでお手伝いします。ときどき酔っ払って来院される方もいますが、その場合は、「今日はお酒の臭いがするから、明日お酒は切って来てくださいね」と伝え帰ってもらいます。ここは素面で自分のお酒の問題を考える場であるということを伝えていくのが大切です。
また、当クリニックでは精神科医、内科医、看護師のほか、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士といったさまざまな分野の専門スタッフたちが、患者さんの治療や生活の状況に応じてサポートをしています。とくにアルコール摂取によって臓器障害などを発症していないかどうか、内科の専門医に診察・治療を受けられることはメリットのひとつです。アルコール依存症は癌などの合併症も多く、「病気のデパート」と言われるほど。CTや胃内視鏡、エコーなどの検査が可能なのも心強いのではないでしょうか。

―アルコール依存症の教育に注力されるのはなぜですか。

よくある事例としては、暴力やネグレクト(育児放棄)ですね。これらは代々にわたって連鎖する可能性が大きい事象です。

この病気やアルコールの害について正しい知識を得ることは、お酒のない生活へ回復するために欠かせません。教育として、正しい知識を提供することも治療の一環。そのためミーティング(集団精神療法)は毎日行っています。繰り返し話を聞き病気の知識や断酒に対する考え方を確固たるものにしていくために最低20回(2~3ヶ月)は参加するように指導しています。ミーティングの基本的なルールは、「言いっぱなし、聞きっぱなし」です。自分の話をする、あとは人の話を聞く。
議論はしない。自分のしゃべったことが外で言いふらされてしまうのではないかと心配する人もいるのでメモを取ることも禁止しています。何よりも安心感を持って参加してもらうことが大切なのです。ともかく最初は聞いているだけでいい。不思議なもので、一週間ほどすると人前で話すのは苦手だと仰っていた方が話せるようになってきます。
ミーティングの効果は以下のように説明しています。
(1)同じ病気の人に出会えること。
(2)同じ病気を経験している話が通じる人と出会えること。
(3)長く断酒している人と交流を得ることでお酒をやめるコツが分かること。
(4)自分よりも重い病状の人の話を聞くことでこの病気の怖さが実感できること。
これらは、アルコール依存症に悩む人たちに安心はもちろん、希望や期待を与えてくれるのです。何より、当事者の言葉は迫力がありますから。本音を語りやすい環境をつくるため、女性だけのミーティングも用意しています。

―ご家族・周囲の方へ向けたプログラムもあるのですね。

この病気は、関わる周囲の人たちを巻き込んでいくため、「お酒をやめてほしい」という想いが裏切られ、無力感に襲われることも少なくありません。本人からの暴言や暴力に悩まされることもあり、そういった巻き込まれの状態から抜け出すためには、アルコール依存症について正しい知識を学び、適切に対応していく必要があります。そのために「アルコール家族会」を毎週火曜日に行っています。当事者の場合と同じようにミーティングを通して病気とその対応についての知識を深められるだけでなく、同じ悩みの仲間と出会い癒しを得られる場にもなっているのです。
また、当クリニックでは予約制のアルコール個別相談にも対応しています。アルコール依存症の治療は問題に気づいた人がどなたでもいいから動き始めることが大事です。個別の面談では、病気への対応に加えて、具体的な生活相談も行っています。ご家族が抱える不安をはじめ、ストレスや抑うつといった疲労を取り除くことも重要なのです。

―その他、ご家族や周囲の方へアドバイスをお願いします。

アルコール依存症に苦しむ患者さん本人の身近にいる人は、「お酒を止めさせるにはどうすればいいか」と方法を訊いてこられます。お酒を隠せばいいのか? お金を持たせなければいいのか? いいえ、それらはすべて無駄です。そういった問いに対しては、「手を放しなさい。世話をしすぎず、時には突き放す厳しい愛情も必要です」とお伝えしています。本人の起こしている問題は本人に返す。家族が尻拭いをしていては本人は自分のお酒の問題に気づけません。
具体的には、
(1)飲み出したら止めない。
(2)飲む手伝いになることはしない。
(3)飲んで起こしたことの後始末(着替えや掃除など)をしない。
自分が引き起こしたことを直視させて、問題があることを認識させることが治療の第一歩になります。ご家族にとっても大変でしょうが、命に関わるとき以外は放っておくという姿勢が大事です。早期発見・早期治療がアルコール依存症の回復には有効です。ですから、悩みや困ったことがあれば、迷わず専門医にご相談ください。



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