Doctor's Voice

センター長 垣渕 洋一

成増厚生病院 東京アルコール医療総合センター
センター長 垣渕 洋一

アルコール治療を専門とする入院に特化したクリニック

アルコール依存症治療を専門とする入院に特化したクリニック。学術活動や出版・講演といった活動を通じて、日本におけるアルコール依存症治療の質の向上に貢献するだけでなく、早期治療につなげるための地域連携にも力を注いでおられる総合センターです。1961(昭和36)年からアルコール依存症の治療を始め、1990(平成2)年には閉鎖病棟から開放病棟となり、2007(平成19)年には新病棟へ移られ、これまで多くの回復者の方々を送り出して来られました。総合的な治療を行う体制の中、特徴的なプログラムで治療を展開されています。

メッセージ

―センターの治療におけるポリシーは何ですか?

もちろん、第一に断酒のお手伝いです。断酒をすることでQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目指す治療を行っています。他の病院に比べて、家族援助に力を入れているのが特徴的かもしれません。家族教室を毎週行っている他、不定期ですが、「子どもプログラム」と「思春期プログラム」も実施しています。アルコール依存症は、ご本人だけでなくご家族にも多大なる影響を及ぼします。入院された患者さんのお子さんの中には、チックや不登校といった問題が起きたり、抑圧や自己否定から援助が必要であるケースが少なくありません。当センターでは、依存症への理解を深め、セルフケアの方法を身につけられるように「子どもプログラム」を約10年前から行ってきました。たとえば、紙芝居仕立てで、まずは「病気とひとを分ける」ことの大切さを伝え、おえかきや箱庭づくりで溜め込んでいる感情を吐き出すサポートをしています。さらに、2014(平成26)年には、「子どもプログラム」を卒業した10~16歳を対象とする「思春期プログラム」を開催することができたのは、意味のあることだと感じています。

―アルコール依存症のご家族への影響とは?

第一に断酒のお手伝いです。素面の状態でQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目指しています。

よくある事例としては、暴力やネグレクト(育児放棄)ですね。これらは代々にわたって連鎖する可能性が大きい事象です。遺伝という意味では、お酒が飲める性質そのものや依存症になりやすい遺伝子、「見て学ぶ」という日々の積み重ねから、アルコール依存症の親を持つ子どもは成長とともに自身もアルコール依存症になりやすい傾向が見られます。ストレスをお酒で解消したり、記憶をなくしても「酒の席のことだから」と免責されたり。そうして被った迷惑や被害に対する怒りを我慢することを覚えてしまうのも問題です。幼い子たちが辛くなったときに自ら助けを求められるように、勇気付けをしていくことも必要な対処です。当センターでは、児童精神科医にお願いして月1回、子どもたちの面接も行っています。涙するしかないような厳しい状況で、とにかく感情を吐き出して、それを誰かに受け止めてもらうという経験を得ることは、脳にとってもいいことなんです。無料での家族相談や、週1回の家族教室などで成功事例を知ってもらうことにも重きを置いています。さらに、ご家族が希望されれば、家族入院への案内も行っています。

―ご本人への主たる治療法は何ですか?

よくある事例としては、暴力やネグレクト(育児放棄)ですね。これらは代々にわたって連鎖する可能性が大きい事象です。

基本的には、環境調整、認知行動療法と薬物療法です。アルコール依存症は「行動の病」ですから、回復には行動変容が欠かせません。そのために必要な最新の知見を取り入れ、常にプログラムも更新しています。重要なのは、お酒を飲みたいなら飲みたいと言える関係性を築くこと。再飲しても言いやすい窓口になることが求められます。患者さんは誰でも、医師に対しては優等生なんです。だから、本音はなかなか言えない。その本音をいかに引き出すか。当センターでは本格的な治療の前段階(治療の導入)に時間をかけるように心がけています。なぜなら、依存症は動機付けがしっかり成されていないと回復が難しい病気だからです。これは外来を行っていない当センターだからこそできることでもあります。加えて、早期治療の間口を広げるためにも、当センターでは電話での相談(24時間365日)にも積極的に対応しています。電話相談は、年間約1500件にのぼり、その先、当事者や家族に来院していただき、相談を受けることから、援助を開始します。
本人が治療を拒否され、家族が巻き込まれて疲弊をしている場合は、家族入院というサービスも行っています。

―治療にあたって留意されていることはありますか?

何よりも「個別に相応しいサポート」を提供することを基本としています。その主軸となるのが、「担当者による継続的アプローチ」です。最初に担当したスタッフが、そのまま検査の予約やプログラムの案内、退院後の定期的面接といったフォローを一貫して受け持つ継続ケアシステムを確立しています。個々人に対応する中で、閉鎖病棟での治療が最善だと判断することもありますが、当センターでは7~22時の間は病棟を開放しています。アルコール依存症の治療で肝心なことは、退院後の断酒がいかに継続できるか。アルコールを摂取している間、いろんな感覚が鈍くなっています。断酒して素面でいるときの方が楽しいしすっきりすると思える、その感覚が大事なのです。ですから、閉鎖病棟の環境的要因で飲酒欲求を強制的に抑えても、そこを出たときに欲求が我慢できないようでは意味がありません。回復と誤解し、自信過剰になることも危険です。できるだけ日常生活に近い情況で断酒を継続できるようにすることが我々の役目だと考えています。

―今までに印象的だった事例をおしえてください。

アルコールの過剰摂取による脳の萎縮の改善事例でしょうか。このケースは来院された方々にぜひとも知ってもらいたい回復例として、当人に許可をいただきCT画像を公開しています。50歳のときに撮った画像では激しい脳の萎縮が見られます。およそ95歳程度の老人並の萎縮度合いです。アルコールは細胞分裂を妨げてしまう分かりやすい例です。ご本人も画像をご覧になってショックを受けられ、断酒を続けた結果、2年後の52歳で別人のように改善されました。これには、我々も本当に驚きました。何事にも遅すぎるということはないと信じて治療に立ち向かうべきだという勇気を与えてくれる事例です。

―アルコール依存症の治療において必要なこととは何でしょうか?

基本的には、認知行動療法と薬物療法です。アルコール依存症は「行動の病」ですから、回復には行動変容が欠かせません。

困っている人を順番に助ける連鎖を生み出すこと、その連鎖を実感できる場を設けることだと思います。そのためには、地域連携ももっと強固にしていかなければいけません。入院相談に来られる方の多くは、さまざまな問題を繰り返し、深刻になっても依存症であることを認知できずにいます。たとえば、合併症による内科への入院、急性アルコール中毒などによる救急外来の受診、飲酒運転での検挙、ひどいときは失業という事態も招きます。それらの問題を早期に解決するためには、医療機関だけでなく、福祉施設や行政機関、ときには救急隊や警察といった、各機関が情報共有をし、一緒になって対処方法を探ることが求められます。当センターが「アルコール健康障害対策基本法」成立に向けて普及啓発活動に努めたのも、そういった思いからです。活動を進めていく中で、地域におけるアルコール医療へのニーズもどんどん明らかになってきています。今後もますます連携の充実化に取り組んでいきたいと考えています。



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