Doctor's Voice

副院長 堀川 百合子

のぞえ総合心療病院 医療法人 コミュノテ風と虹
副院長 堀川 百合子

のぞえ総合心療病院 医療法人 コミュノテ風と虹

のぞえ総合心療病院は、多職種による「力動的チーム医療」を最大の特色にしています。患者チームとスタッフチームとがミーティングを重ね、前者の入院前にみられた対人関係の困難さを変えてゆき、後者もそれに伴って成長していくことで相乗効果が生み出されています。「愛あるところに信頼が生まれ、信頼あるところに希望が生まれる」をモットーに、スタッフをはじめ、患者も家族も施設も自然も、「すべての資源が治療のために」というポリシーを持って、各人が共同体の一員だという認識を同じくして治療に取り組まれています。

メッセージ

―治療におけるポリシーについてお聞かせください。

施設内は明るくオープンですごしやすく、健康面を引き出すための絵画や写真を多く飾っています

施設内は明るくオープンですごしやすく、健康面を引き出すための絵画や写真を多く飾っています。
当施設は、広大な敷地の中にさまざまな施設を有し、自然豊かな空間が特徴的です。そこで働くスタッフたちはもちろん、患者さんやご家族も含めて、「この世のすべてのものを治療のために」活かしたいと考えています。
たとえば、アニマルセラピー。我が家の愛犬2匹が毎日出勤し、家にペットを置いてきた人や愛犬に会えなくて寂しい想いをしている人、さらには初めて犬に触れたという人たちに、癒しだけでなく、命の大切さを伝えています。
また、施設内は明るくオープンですごしやすく、絵画や写真を多く飾っています。いろいろな場所に活けてある生花は、患者さんが手入れをしてくれていますし、ピアノも自由に弾いてもらっています。最初は目に入らなかったピアノが、回復するにつれて目に付くようになり、触ってみたいと思うようになる。それだけでもとても治療に役立っています。当施設では、薬物治療も重要なものであると考えていますが、CPZ換算値が358.7㎎単剤化率100%というように、低用量単剤で済んでいるのはこれらの影響もあると思っています。

―スタッフはもちろん、患者さんやご家族の表情がとても朗らかですね。

私服の方が楽だし、話しやすいという意見が多く、家族のような距離感を生んでいます

私服の方が楽だし、話しやすいという意見が多く、家族のような距離感を生んでいます。
そうですね。よく精神科らしからぬ雰囲気だとおっしゃっていただきます。相談やミーティングを行う部屋はそれぞれガラス張りで中が見えるようにし、見学していただきやすいだけでなく、見られていることを意識することで、襟を正し、真摯に治療場面に向き合うためにも役立っています。また、当施設では白衣がなくスタッフは私服を着用しています。スタッフと患者さんが(制服によって)区別されるということは、そこに壁が出来るということ。その壁を取り除くためにも白衣を廃止しました。最初はスタッフたちも、心配や不安を感じていたようですが、今では患者さんからも私服の方が話しやすいと言われ、個人名で呼んでもらえるという意見が多く、家族のような距離感を生んでいます。

―誰もが気さくに話を愉しんだり、一緒に作業したりしてらっしゃいますね。

専門病棟を持たない当施設では、さまざまな病気を抱える人たちが一緒に生活をしています

専門病棟を持たない当施設では、さまざまな病気を抱える人たちが一緒に生活をしています。
施設全体が家族のように、というのが私たちの願いです。専門病棟を持たない当施設では、さまざまな病気を抱える人たちが一緒に生活をしています。病棟の中も小さな社会。他人との係わり方や、キャラクターやポジションなども見えてきます。アルコール依存症の患者さんで、家では自分勝手に振る舞う父親なのに、院内では面倒見のいい親切ないい人と認識されている例は珍しくありません。後者が、近所や会社での見られ方だったりするのです。他人とコミュニケーションをとることで、いやな面を出さずに、いい面に気付くことができ、それをご家族に伝えると驚かれることも。そうして、内と外とのバランスを取っていくことも大切です。おかずが足りない少年にふりかけをあげたり、仲間内で花火を楽しんだり、夜になると寂しくなる人に声をかけたり……それぞれが自分の家族に対するように、温かさを持って接してくれています。私がどうしても甘くなるので、院長や他の男性の先生方が、駄目なことは駄目だと叱ってくれます。家庭と同じように、母性と父性のバランスも大切なんです。

―ミーティングやグループも充実されてますね。

外来リハビリテーションプログラムが多いのも特徴的です。音楽や運動だけでなく、料理や手工芸なども行っています

外来リハビリテーションプログラムが多いのも特徴的です。音楽や運動だけでなく、料理や手工芸なども行っています。
とくに、ミーティングは重要視しています。医師を筆頭とする治療チームと、外来・デイケア・入院といった患者チームが治療共同体として、お互いにギブ&テイクの関係を構築し、回復について横並びで考えることを大切にしています。その日そのときに必要な治療法を行うためにも欠かせない時間です。朝は回診後、全体ミーティングで前日の報告を行い、点の治療を線にするための話し合いがなされます。その後、治療へと移り、昼には患者・スタッフミーティングで、「責任レベル」や「服薬管理」、治療グループへの参加状況などを確認します。そうすることで、治療者もまた患者さんから多くのことを学びます。
また、外来リハビリテーションプログラムが多いのも特徴的です。音楽や運動だけでなく、料理や手工芸なども行っています。とくに木工クラブは作業療法の域を超えて、利用者である元棟梁の指導のもと、病院やレストランの木工製品の製作・修繕を行っているんですよ。

―患者さんがそれぞれに役割を見い出しているのですね。

とくにアルコール依存症の患者さんは、誰かの役に立ちたいという想いを強く持っています。それは今までお酒のせいで周囲に迷惑をかけてきたという自覚があります。だからこそ、デイケアでは他人の役に立つためのプログラムを積極的に取り入れています。
また、自主性をサポートするという意味では、当院が用いている「責任レベル」というシステムも効果的だと考えています。自分自身の言動にどれだけ責任を持つことができるか、その程度によって行動範囲と条件を決める仕組みです。責任レベルが上がれば、それだけ自由に行動できるということになります。加えて、治療にとって重要な服薬についても、病院全体で共通した「服薬自己管理レベル」という段階的なシステムを採用しています。スタッフに飲ませてもらうのではなく、服薬の必要性を認識して自ら積極的に治療に向き合ってほしいからです。それが何よりも回復の近道になると信じています。

―最後に、ご家族にアルコール依存症の方がいらっしゃる方にメッセージをお願いします。

アルコール依存症のご本人を病院へ連れて行こうとするのではなく、困っているご家族が相談にいらしてください

アルコール依存症のご本人を病院へ連れて行こうとするのではなく、困っているご家族が相談にいらしてください。

病院に行きたがらないアルコール依存症のご本人を病院に連れて行くのにエネルギーを注ぐのではなく、まず困っている方が相談にいらしてください。ここには同じ悩みを抱えてきたご家族や患者さんたちがたくさんいます。彼らの姿を間近で見ることで、「いつか変われる」という希望が持てるはずです。また、再飲酒しても治療につながることが大事です。飲まないことが目的というよりも、より長く、人や社会の役に立ちながら生きていけるかを考えることが大切なのですから。



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