Doctor's Voice

院長 山﨑 茂樹

白峰クリニック
院長 山﨑 茂樹
精神保健福祉士 齊藤 美鈴

  • 〒330-0071 埼玉県さいたま市浦和区上木崎4-2-25
  • TEL:048-831-0012
  • http://hakuhou.or.jp/
白峰クリニック 外観

アルコール依存症の専門外来があり、最寄駅から徒歩で通院できる好立地や精神科クリニックには珍しいほどの明るく開放的な空間、回復段階に合わせて細かく設定されたデイケアプログラムが特徴的です。アルコール依存症は誰でもなり得る回復可能な病気だと伝え、患者さんとの信頼関係を築き、個々の回復を援助するための治療に取り組まれています。希望や症状によっては漢方薬による治療も行っている医院。

メッセージ

—漢方薬治療も積極的に取り入れられていますね?

山﨑院長) えっ、いきなり漢方ですか。アルコール依存症を漢方で「治療」しようと考えてはいません。依存症を「治療する」なぞ、おこがましい気がします。依存症にたいして人はほとんど無力です。たとえて言えば、患部に手をそえるくらいしか医師にはできないと考えたほうが真実にちかい気がします。「治療してやる」とか「治してやる」というスタンスで依存症には対応したら失敗に終わります。万能感の強い人ほど依存症の「治療者」としては向いていません。かならずやその万能感は打ち砕かれます。結果としてアルコール依存症嫌いの医師が誕生します。
漢方にもどりますが、私は漢方薬にこだわっているわけではなく、治療を進めるために必要なものは取り入れよう、と考えているにすぎません。その結果が漢方であり、精神力動的精神療法であり、集団療法であり、心理教育であり、作業療法であり、気功であり、あるいは薬物療法ならクロミプラミンの点滴療法であり、胎盤抽出物療法であり、検査ならば心拍変動を応用した自律神経機能検査であったりします。
「草根は小薬、鍼灸は中薬、衣食住は大薬」という言葉が中国の古典にあります。一面ではそうかもしれませんが、どれが大中小かはケースによって決まるのだと考えています。漢方には二千年の歴史があります。創薬された幾十万種の処方の中から、長い歴史の風雪に生き抜いた処方を私たちは利用できています。西洋薬と漢方の双方を自在に使用できる我が国の医療制度は世界的にみても希であり卓越していると思います。
治療に役立つものは使うのが私たちのやり方です。最新の医学的知見も取り入れます。アルコール依存症にひきつけて言えば、依存症形成の脳科学的メカニズム研究の進歩はめざましく、その成果の一つとして世にでてきた断酒維持補助薬「アカンプロサート」、これも使用して有効性を確認しています。
また、生活療法を重視しています。「早起き、散歩、納豆」は白峰の標語のようなものです。でもドクマではありません。私たちは昼行性のほ乳類ですから早起きはお勧めでしょうが、でも眠りたいだけ眠るのが必要なこともあるでしょう。同様に、運動すること、食養生することなど、言わずもがなです。

—アルコール依存症の患者さんと接するときに心がけていらっしゃることはありますか?

エントランス

山﨑院長) その人の人生を聴くこと、それに・・・治してやろうなどと思わないことでしょうか。かつて久保全雄は、「水は方円の器にしたがう」という諺を引用して私たちを諭しました。水のごとく、クライエントにあわせて自在に対応できればいいな、と思っています。それでは治療理論がないじゃないか、との批判もありましょうが、まあしかし、人はそれぞれ、病もそれぞれですから、何かを「心がけ」過ぎて自分を窮屈にするより、ましかもしれませんね・・・。

—アルコール依存症の外来治療はどのように行われているのですか?

山﨑院長) 具体的なところは当クリニックのホームページを御覧になっていただくとして、外来診療を大まかに言えば、医師の診察とコメディカルの相談援助とで構成されています。随所に心理教育あり、検査あり、投薬あり、相談あり、解毒治療あり・・・ですが、極めつけはデイケアです。これはアルコール依存症のリハビリテーション・プログラムで、治療構造上の「ミソ」になります。
かつてアルコール専門病棟の担当医をしていた頃がありました。あの頃を思い出して現在と比較すると、精神科診療所のデイケアは自由度が高いですね。入院となると、人が人を管理することから逃れ得ません。診療所は管理する強迫から自由でいられます。入院治療と外来治療とでは治療プログラムが似通っていても、診療所の場合は夜は自由に自助グループに通ってもらえますし、地域の中で生活しながら回復の道を歩めるようになっています。そこらが大きな違いだと思います。
現代人は多くのストレスと不安をかかえて疎外されています。一方、テレビをつければ酒類の宣伝に曝されます。外を歩けば酒類販売店が待ち構えています。私たちは飲酒欲求を刺激されながら生活しているわけです。
デイケアに通うということは、酒の誘惑が溢れる世界から隔離されることなく、酒屋の前を通り、自販機を横目に見て、自宅からクリニックまで、自分の脚で通い、心理教育・アサーション・認知行動療法・芸術療法・ストレスコーピングなどで学び、「仲間の話を聴き、自分を語る」、という行為を包括的に行うことになります。他者の本音を聴き、自らの本音を語ることで人は癒やされ、繋がり、疎外から解放されていきます。なお、白峰はナイトケアはしていません。夜はAAや断酒会などの自助グループに通うことを奨励しています。

精神保健福祉士 齊藤 美鈴さん(以下、齊藤) スタッフも診察と連携しながら「個別相談」をお受けしています。飲酒により孤立していた患者さんの心に寄り添い、回復の道を一緒に探していきます。また、当クリニックでは点滴ベッドも設置し、外来での解毒治療にも対応しています。点滴の際にも病気の説明や心身の回復について伝えながら、断酒をサポートしています。

—アルコール依存症のデイケアはどのように開始されますか?

山﨑院長) まずは医師がデイケアの概要を説明し、お試し利用を提案します。OKならオリエンテーションに進みます。オリエンテーションは別の日にコメディカルスタッフが行います。お試し利用期間はおおむね2週間くらいです。お試し利用の結果、患者さんがデイケア利用を選択すれば、正式参加の手続きがとられます。治療目標や利用曜日などが担当者と話し合い決められます。場合によってはご家族にも参加していただき情報を共有します。ご家族には心理教育プログラムへの参加を勧めます。
白峰クリニックのデイケアでは、患者さん一人ひとりに担当者が決められ、細かいとこまで目が届くようにしています。それは、アルコール依存症が単純な病ではないからです。まず家族への配慮と援助は欠かせません。合併する精神障害も見逃せません。うつや不安障害や摂食障害はアルコール依存症と切り離せない病気です。だからこそ、個別担当者が伴走し関係性を作りながら、ゆっくりと上手に「自立」をサポートしていきます。治療過程を進めるミソは、患者さんの自己決定権の尊重です。自分の人生を見つめなおし、決め直していくことが回復そのものに繋がるからです。

—実際にどのような流れでプログラム治療を行っておられますか?

待合

齊藤) プログラムは、否認を克服する「移行期」から、断酒を最優先する「回復初期」、しらふの生活を豊かにすることを目指す「回復中期」、そしてデイケア終了後を視野に入れた「卒業期」という4つの回復段階に沿って行っています。
「移行期・回復初期」は、アルコール依存症やご自身を理解していく為の心理教育とミーティングが中心となります。「回復中期・卒業期」には、対人関係や社会復帰を目指すプログラムが中心となります。例えばブログラムの一つ、アクティビティ系の「園芸」は、時間をかけて行う作業でしらふの感性を豊かにし、集団において仲間と協力することも学び、収穫による達成感も得られます。

山﨑院長) 治療プログラムの底にながれるものは再発防止プログラムと回復促進プログラムでしょうか。再発防止プログラムは心理教育や認知行動療法の中に込められています。例えば心理教育ではアルコール依存症がどういう病気であるのか、どのように対処すればよいのか等を学び、認知行動療法ではスリップをふり返り、再発の内的・外的なきっかけを把握し、対処行動を身につけます。回復促進プログラムは各種集団療法の中に込められています。それは、集団の中で孤独と孤立から癒やされ、仲間を見いだし、人間として繫がっていく過程でもあります。かつて他者との関係を断ち切り、かわりに酒との関係に置き換えてきたアルコール依存症者が、回復促進プログラムの中で酒瓶との関係を人間との関係に置き換えなおしていく過程でもあります。自分への信頼、他者への信頼が育ってくると、患者さんはみずからの影の部分、自らを悩ましてきた言うに言われないものを語れるように変化していきます。患者さんが「○○をおろせた・・・」と語ることがあります。自分を苦しめてきたものを手放せたのだろう・・・と聴きます。

—プログラムや自助グループの重要性をどうお考えですか?

院長 山﨑 茂樹

齊藤) デイケアのプログラムは、飲まない時間を過ごしアルコール依存症という病気や回復方法についてについて学び、お酒を必要としないご自身の生き方を獲得していく「人生のターニングポイント」となっていく場ではないかと考えています。そして、自助グループは、飲まない生き方を続けていく為に必要な、仲間や経験等がたくさん詰まった場ではないかと感じています。埼玉県内には、当院の卒業生がたくさんいることもとても心強いです。

山﨑院長) 白峰に来ても、治療の上っ面をかじっただけで先に進めず、踏み迷うアルコール依存症者が少なくありません。それはアルコール依存症特有の「否認」に由来しているのかもしれません。自己流にやってスリップを繰り返す人もいます。その人が、他者から学ぼう、飲酒行動を変えていこう、となるまでには様々な援助や介入がなされます。「動機付け」「伴走」「底尽き」などがケースに応じてなされます。
いずれにせよ、長年のアルコールによる脳の器質的・機能的変化を回復させるには歳月が必要です。鍛錬が必要です。デイケアや自助グループは鍛錬が力づよく進む水路のようなものです。通う、聴く、語る、そういう鍛錬こそ依存症からの回復には必要なのです。
人は、知らない場所でも地図と磁石を持てば自分で歩き出すことができます。暗闇の中でも遠くに灯りがみえるなら茨の道をすすむことができます。力がおとろえて歩きだせないときには仲間が力になります。地図と磁石と仲間はデイケアプログラムの中に用意されています。人は自助グループにつながり、さらに回復を進めます。・・・やがて人は自分の過去をふかく理解し新しい旅にでる用意をします。もしそのとき、人がありのままに自分の来た道と生きてきた土地をふかい慈しみをもってながめることができれば、それは新生のはじまりだ、と理解して差し支えないと思います。



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