Doctor's Voice

院長 和氣 浩三

新生会病院
院長 和氣 浩三

新生会病院 外観

1981年1月、アルコール依存症を専門として開院。大阪府下のみならず近畿一円からの来院者も多く、早期発見・疾病予防などに力を入れたアルコール関連問題について積極的な取組みに注力されています。アルコール医療の歴史に基づく伝統的スタイルを軸に、数多くのネットワークを駆使した包括的プログラムの提案・運営が最大の特徴です。2007年からは出張研修も始められ、20か所以上の病院へ出向くとともに、近隣の20機関以上の急性期病院が参加する研修会の企画・運営も担っておられます。

メッセージ

—アルコール依存症は病気であるという理解を深めるための多彩なプログラムがありますね。

新生会病院 外庭

当院では、100畳ほどある大広間で開院以来30年以上続けている毎週2回の院内断酒会を軸に、小グループでのミーティングや疾病教育的な内容の講座、近年ではグループ、また個別での認知行動療法も積極的に取り入れた多彩なプログラムを用意しています。それと、当院の特徴的なプログラムとして近年増加傾向にある、高齢で認知症を合併した患者さんに対し、反復訓練による疾病教育と退院後の訪問看護等の個別のサポートが成果を上げています。ご家族に対しては、基礎的な知識を学ぶ家族教室だけでなく、家族としての辛さを分かち合う家族例会を毎週行っています。毎月第三日曜日には合同家族会、合同断酒例会を行っており、そこには20年、30年と断酒している方やそのご家族が集います。多くの回復者と出会い交流できる環境は、充実した治療プログラムとならんだ、当院の大きなメリットだと考えています。

—どのようなポリシーでアルコール依存症の治療に取り組んでおられますか?

先代の院長の時代から「断酒は仲間とともに」が当院の治療ポリシーです。
もちろん外来通院での治療も行っていますが、入院生活を通じて気の合う仲間と寝食を共にすることは、アルコール依存症の回復に不可欠な自助グループへの参加につながります。不謹慎に感じるかもしれませんが、楽しい入院生活を送ることは、外来治療だけでは難しい仲間意識を育む上でとても大事なことなのです。クリスマスには、開放している2階の大食堂で、おじさんたちがケーキを囲んでパーティを開いたり(笑)。また、当院を退院した患者さんのOB会「仲間の会」の方々が、年1回5月に運動会を開催したり、9月には300人もが参加する宿泊研修会も企画・運営してくれています。そういった“集団の力動”が加わることで入院治療の効果が増幅されていると考えています。いまの時代、個別化、オーダーメード化は確かに必要ですが、集団治療の持つ意味を忘れてはいけません。これは一朝一夕でできるものではないからこそ、これからも守っていきたいですね。
もう一つは患者さんの地域での生活をきちんと見据えた支援を大切にしています。患者さんは、アルコール依存症によって引き起こされた、いろいろな問題を抱えて病院に来られます。もちろん先程お話しした治療プログラムが治療の根幹ですが、それがすべてではありません。特に単身の方の場合は生活基盤そのものが崩れてしまっていることも少なくありません。入院中に看護師、精神保健福祉士が患者さんと一緒にご自宅に訪問して(精神科退院前訪問指導)、衣食住のことまで含めた退院後の断酒生活を一緒に考えるようにしています。例えば、酒の空き瓶だらけの部屋で、食事の用意も難しいような生活環境を目の当たりにすると、病院の中では知り得ない生活上の課題が見えてくる訳です。

—「断酒新生への道を共に生きる」を目標に、訪問看護を行ってらっしゃいますね。

新生会病院 中待合

もともとは、通院が困難な高齢の方を対象に自然と始まったのですが、4年前に訪問看護ステーションを開いて本格的な対応をするようになりました。訪問看護については、以前は依存を強めると考えられていましたが、私はそうは捉えていません。なぜなら、週1回のペースであっても、顔を合わせて生活を見守ることで、治療中断を阻止できるからです。アルコール依存症は再発や治療中断が多い上に、大阪は単身者も多く、孤独や生活の不自由さを感じている人も少なくありません。訪問看護のメリットは、依存を強めるかもしれないデメリットを大きく上回ります。高齢の方や単身のケースでは訪問看護を積極的に導入しています。

—アルコール依存症の治療において印象的なエピソードはありますか?

ずいぶん前ですが、アルコール離脱症状がひどくなり夜中に一般病院を追い出され、その翌日に家族に連れてこられた方がいました。幻覚が出てる状態で追い出され、ご家族は大変だったと思います。その後もよく似たケースが時々ありました。開院した当時と比べると、比較的早期に専門病院に来られる方が増えたとは言え、一般病院から専門病院へつながるのは一部の人だというのが現状です。アルコール依存症の治療システムはある程度出来上がっています。だからこそ、今後は多くの未治療の方に、それをいかに早く提供できるか、早期発見早期治療が課題です。

—最後に、ご家族へのアドバイスをお願いします

院長 和氣 浩三

家族相談は積極的に行っています。受診に至るまでの苦労をご家族だけで抱えるのは本当に大変だからです。受診を拒む本人を治療に結びつけるためには、効果的な働きかけやタイミングが重要です。ご家族からのご相談には精神保健福祉士が個別に対応していますが、受診に結びつけるノウハウを学んでいただく特別なプログラムも始めましたので、ぜひご相談いただきたいと思います。また、精神科の病院に不安がある場合は院内見学も可能です。現場を見ると、明るく開放的な様子に驚かれる方も多いですね。楽しそうに生活している患者さんを見て、安心されるようです。アルコール依存症は回復可能な病気です。長年に渡り一人で悩んでおられるご家族も、決してあきらめずにご相談下さい。



患者さんを支える方々へ