Doctor's Voice

院長 渡辺 憲

渡辺病院
院  長 渡辺 憲
診療部長 山下 陽三

渡辺病院 外観

アルコールをはじめ、薬物依存症・買い物依存症・摂食障害・ギャンブル癖・自傷行為といった嗜癖(アディクション)に関する専門の「アルコール・アディクション外来」を有し、鳥取県東部の精神科救急の中核を担う渡辺病院。思春期の発達障害から認知症まで幅広く受け入れ、アルコール依存症においては急性期から回復(在宅)期までの様々な症状に対応されています。

メッセージ

—渡辺病院におけるアルコール依存症治療に対するポリシーを教えてください。

渡辺院長) 何よりも重視しているのは、治療への意欲です。必ずしも誰もが積極的・意欲的に治療に向き合っているわけではありません。だからこそ、内発的な動機付けを促す支援が大切だと考えています。そのためにも、当院では「チーム医療」に力を注いでいます。他の職種とも関わるミーティングへの参加を通じて、スタッフが技術やセンスを磨く機会を与えています。中核メンバーはある程度固定していますが、専門以外のスタッフもできるだけローテーションで現場を経験してもらうことで、多角的なアプローチによるマンネリ化しない治療が実現できると考えています。

—充実したアルコール・アディクション治療プログラムをお持ちですね。

診療部長 山下 陽三

山下診療部長) そうですね。アルコール関連スタッフが中心となり、入院・外来患者さんに対したピアサポート活動や自助グループとの連携強化のため、心理士・薬剤師・栄養士といった職種もくわわり、多彩なプログラムを運営しています。依存症の理解と回復に向けて学習テーマを設定し、フォローアップミーティングにはじまり、エンパワーメントミーティング、アルコール家族教室、院内断酒例会、院外を散歩する「ぶらり会」や、学習&交流ミーティング「ここからクラブ」などを開催しています。
依存症の治療にあたっては、地域における保健・医療・福祉との連携が不可欠です。そのため、当院では医師・看護師・ソーシャルワーカーや飲酒以外の生活習慣に関連した病気に対応するため多職種のスタッフが、鳥取保健所での「アルコール・薬物家族教室」や県精神保健福祉センターで隔月開催されている「東部アルコールネットワーク研究会」などに参画し、地域に目を向けた早期介入と回復支援の充実に向けた活動に積極的に取り組んでいます。

—渡辺病院での医療連携はどのようなネットワークをお持ちですか?

渡辺院長) 月1回、院内で断酒会を開催するだけでなく、地域の例会にも参加しています。当院がアルコール依存症の専門治療を始めて四半世紀が経ちます。その歴史の中で、断酒会との繋がりも密になっており、世話役も務めております。また、各月行われるアルコールネットワーク研究会でも、保健師や他の総合病院のスタッフ、行政関係者らとコミュニケーションを取りながら、アルコール治療を行うべきなのに専門医療に繋がっていない人たち(依存症予備軍)への支援を、地域全体で取り組むことを心がけています。

—断酒に必要なことは何だとお考えですか?

山下診療部長) 断酒には、これまでの生き方を変えていくことがポイントとなります。当院でも、(1)専門医療機関への通院、(2)抗酒剤の服用、(3)自助グループ(への参加)を「断酒の3本柱」として掲げていますが、通院だけで酒をやめてくれる人もいます。
飲まないでいる素面の状態ができても、長い間で身につけてしまった習慣や考え方を変えることは難しいものです。断酒を始めたばかりのアルコール依存症者の多くは、遅れを取り戻そうと必死になりますが、焦らず、慌てず、諦めず、無理して背伸びをせずに、達成可能な目標を探して着実に進むことが肝心です。最初の数ヶ月は「私は飲むことができない」という状態であるため、外的コントロールを必要とします。その後、半年から3年の「私は飲みたくない」というコントロールの内在化期間を経て、「私は飲む必要がない」という葛藤の解決段階が来ると言われています。リハビリテーション期は、ささいな葛藤や不安感、孤独や心配などが再飲酒につながりやすいため、スリップしないためにも自助グループへの参加を勧めています。自分の経験を話して、他人の体験を聞くことで、普段見えない自分・考えたくない自分が、他人の姿を借りてはっきりと見えてくるからです。
仲間を知ること、断酒の成功者に出会うこと。これらピアカウンセリングを経て、自分の可能性を実感することが大事です。空腹だと(お酒を)飲みたくなるものですが、「そんなときは冷蔵庫にジュースを冷やしておけばいい」というような、経験から教えてくれる助言も聞けます。先行く仲間には、相談しやすいのも確かでしょう。

—アルコール依存症者のご家族との関わり方はいかがですか。

山下診療部長) ときに切羽詰ったご家族が治すことを期待せず、鍵をかけて閉じ込める勢いで病院に来られることもあります。当院ではプログラムを通した「教育入院」を実施しています。任意入院をメインに、2ヶ月を目安に、病気に関する知識を伝えています。叱っても仕方ない、無駄なことはしない、偏見をなくすなど、ご家族にも対応について助言しています。自分たちが怒りを溜め込むからキツイことを言ったり、仕方ないからとお金を出して尻拭いしてしまうのです。髪を振り乱して子供の学校のことや借金のことを話される奥さんには、「夫が好きなことをしている分、自分のための時間を持つように」と諭すこともあります。見張って何とかしようとするより、お化粧に時間を割いたらいいのです。世話を焼きすぎないで、ラクになりましょう。そうでないと自分がもちません。
断酒会である家族が、「許すことはできるけど、忘れることはできません」と言われたことがあります。なるほどな、と思いました。忘れることができなくても、許せる気持ちは大切なことです。回復の場に立ち会うことで我々も常に、学ばせてもらっています。

—最後に、悩みを抱えておられるご家族へアドバイスをお願いします。

院長 渡辺 憲

渡辺院長) 「お酒をやめなさい」とストレートに指摘しても、当事者は反発するだけです。家族だからこそ、頑なな反応をしたり、ときには暴力行為にエスカレートすることもあります。不安定な行動が目立つなら保健師からの勧誘も有効ですし、内科や整形外科など身体科の先生からのアプローチもいいでしょう。当院にもそういった紹介で外来・入院される患者さんが少なくありません。納得しないまでも諦めて来られる方もいらっしゃいます。病気の理解が深まれば治療に訪れることも増えますから、繰り返し、粘り強く声をかけてください。
アルコール・薬物相談では、当事者やご家族に限らず、友人や関係機関の方からの相談も受け付けています。また、家族教室では依存症についての理解を深め、ご家族の協力の仕方について学んでいただけます。日ごろの体験を分かち合い、「こころの荷おろし」ができる場でもあります。ご家族同士が出会い、交流することで、率直な感情と気付きが得られると思います。まずは、自分自身のゆとりを大切にしていきましょう。



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