Doctor's Voice

会長 竹元 隆洋

指宿竹元病院
会長 竹元 隆洋

  • 指宿竹元病院
  • 〒891-0304 鹿児島県指宿市東方7531番地
  • TEL:0993-23-2311
  • http://www.ibutake.com/
指宿竹元病院 外観

日本列島の最南端、薩摩半島の突端に位置する指宿竹元病院は、温暖な気候で温泉にも自由に入れる恵まれた環境の中で、ストレス疾患やアルコール依存症の治療に取り組んでいます。1972年の開設以来、アルコール関連問題をはじめとする精神科医療の活動に尽力してこられた竹元隆洋会長にお話しをうかがいました。

メッセージ

—指宿竹元病院設立の経緯を教えてください。

指宿竹元病院 内観

大学院生の頃、今の鹿児島県精神保健福祉センターにあたる施設の所長を引き受けることになったんです。ある日、患者さんの娘さんから「両親が喧嘩しているので来てほしい」と電話が入りました。行くと、父親と母親が大喧嘩している地獄のような絵図を、小学校1年生くらいの女の子が隠れてじーっと見ていた。これが私のアルコール問題に取り組むきっかけになりました。
調査をすると、さらに多くの問題が見えてきました。これは放っておけない、なんとかしたいと考えて病院を開設し、74年に70床のアルコール専門病棟を作りました。すると、堰を切ったように、患者さんが次々と入院して来られました。

—どのような治療法を採り入れておられますか。

初めの頃の治療は、断酒会方式と言って院内断酒会が中心でしたが、集団療法だけではうまくいきませんでした。1975年以来、内観療法という個人療法を採り入れた治療を続けています。1週間続けて朝から晩まで行う集中内観を始めたところ、ずいぶん断酒率が良くなり、病棟の雰囲気も良くなりました。
薬の力で抑えられる飲酒欲求はせいぜい3割で、残り7割は精神療法によって精神力を養っていかないと断酒は継続できないと考えています。

—内観療法とは、具体的にはどのようなものですか。

内観とは、自分の心の内面を観ることです。母、父、兄弟姉妹、妻、子どもなど人間関係が密な人を選び、「してもらったこと」、「して返したこと」、「迷惑をかけたこと」について、自分の過去を振り返って具体的に思い出してもらいます。
アルコール依存症の患者さんは自己中心的な考え方をしがちですが、他人からこれだけ多くのことをしてもらったと気づけば、認知が変わってきます。愛の発見ができると、自己肯定感の低い人も、もっとましな人生を生きたいという気持ちが出てくるのです。また、ほとんど何も返していない、自立できていない、迷惑のかけ通しだと気づくと、これではいけないと、ものの考え方がガラッと変わっていきます。自分も他者も肯定できると生き辛さが消えて、気持ちが楽になります。
認知行動療法では、お酒は良いか悪いか、妻にどんな迷惑をかけているかなど具体的なワンポイントを調べるのに対して、内観療法では問題はさておき、人生全部を調べます。全人的な精神療法と言えると思います。

—一般的な治療プログラムを教えてください。

アクセサリー

入院期間は4ヵ月です。毎日お昼の12時から1時までは内観の時間です。ベッドの上に座り、壁に向かって1時間静かに内観をして、退院後もずっと自分を振り返る習慣を身につけてもらいます。
2ヵ月目に入ると集中内観を行います。朝8時から夕方6時まで10時間の内観を1週間続けます。集中内観は3ヵ月目にも1回、4ヵ月の間に計2回行います。個人療法としてはその他にも医師の面接やカウンセリングがあります。
一方、集団療法として生活学習会があります。以前は院内断酒会と言いましたが、アルコール以外にもネット依存、性依存、窃盗依存、買い物依存など様々な依存症が登場したことから名称を変えました。70〜80人が学校形式で参加し、体験発表をしてもらいます。医師、精神保健福祉士、看護師らも数名参加してコメントします。また、「なぜ入院することになったのか」、「依存症だと思うか」などのテーマを決めて行う少人数のグループ学習会もあります。

—患者さんに接するときに心がけておられるのは、どんなことですか。

一番のキーポイントは、患者さんを「厄介な人」と見ないことです。アルコール依存症の患者さんは家庭でも迷惑をかけてきたし、病棟でも何をするかわからない。看護は非常に大変です。しかし、依存症の人を厄介な人と見ては治療はできません。「今、たまたま厄介な時期なんだ」という考え方が大切です。風邪をひいて夜中に咳が出ると家族が眠れないように、病気には厄介な時期があるもので、治療すれば依存症の患者さんも良い人になります。必ず厄介でない時期が来る、人の問題ではなくて時期の問題なんだという考え方が看護の基本です。

—来院される患者さんは、どのような方ですか。

交通の便が悪いので船で来院されることもあるのですが、九州一円や離島からの患者さんが多いです。毎月の新患は15人くらいで、常時30人から40人くらいの患者さんがおられます。外来患者さんは1日平均10人くらいです。

—アルコールの問題について、鹿児島県で特徴的なことはありますか。

鹿児島県は焼酎の銘柄も多く、お茶代わりに酒を飲む習慣があります。経済的に厳しい地域では県外に出て就職することが多いのですが、中卒、高卒で働き始めると「鹿児島出身なら強いんだろう」と大人扱いされて10代から酒を飲み始めることになり、若年飲酒につながります。昔、就職列車で都会に出て戻ってきた高齢の方や、離島や山間部などで依存率が高いように思います。

—これまでのご経験の中で印象深い患者さんはいらっしゃいますか。

竹友会という、当院の断酒会で中心的な役割をしておられる元患者さんの男性が二人おられます。退院後も断酒会で後輩をリードし、最近は大正琴やハーモニカで高齢者施設や病棟を慰問するなどして活躍してくださっています。
お二人とも境遇がよく似ていて、退院後に当院で知り合った女性のアルコール依存症患者さんと結婚されたのですが、その後妻を亡くし、寂しくなって、今は二人で一緒に温泉に行ったりしておられます。二人ともよく「罪滅ぼしですから」と言うのですが、そういう意識があって、断酒が継続できているように思います。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

会長 竹元 隆洋

相談に来られるご家族はたいてい、「今日は本人には内緒で来ました」とおっしゃいますが、実は、これが良くないんですね。病院でこんなことを聞いたとご本人に全部話して、真っ向から向かって行く姿勢を持つことです。実はご本人も苦しいわけで、ご家族が覚悟を持って接すると患者さんにも伝わります。どうせ言ってもダメだと腰が引けていると受診に結びつきません。ご家族にそういうパワーを持っていただくのも、私の大事な仕事です。
相談に来られた方には必ず、「アルコール依存症 治療の手引き」を読んでいただくようにしています。家に冊子をおいておけば、ご本人もこっそり見るものです。そうして素地を作っておいて、覚悟を決めたらどんどん押して、受診にこぎつけてください。



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