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院長 松永 哲夫

益城病院
院長 松永 哲夫

益城病院 外観

前身となる犬飼病院開設から8年後に精神科に特化し、精神科病院として今年65周年を迎える益城病院。「患者さんとそのご家族に最善のプロフェッショナルサービスを提供し、地域の医療・福祉・文化に貢献すること」を基本理念とし、アルコール依存症治療においても、熊本県における中心的な役割を果たしています。松永院長にお話を伺いました。

メッセージ

—益城病院の特徴は何でしょうか。

先代院長の時代からシステム構築に努力し、熊本県の精神科病院では第1号の病院機能評価認定病院となりました。
また、全国で9番目の「健康の駅」にも認証されています。いわゆる道の駅の機能に加えて健康に関する相談や情報発信を行い、健康なまちづくりをリードする交流拠点となっています。
デイケア、訪問看護ステーション、就労支援施設、共同住居、特別養護老人ホーム等を開設しており、医療、介護、福祉の連携による包括的ケアの体制を提供しています。

—地域との交流がとても活発ですね。

益城病院 施設

グランドゴルフ場は、患者さんのレクリエーションに使うだけでなく、地域の皆さんにも利用していただいています。パン工房のパンはコンテストで金賞をいただいて評判になり、保育園や県庁など近隣の施設からもご注文があります。福島の三春滝桜の苗を購入し、新聞で呼びかけて希望者に差し上げました。
このような交流は、患者さんが地域に復帰しやすい環境づくりにつながっていると思います。市民講座などの研修や講演にも、ワーカーや看護師も含めて積極的に出かけています。

—入場無料の美術館も運営されていますね。

犬飼記念美術館は、会長の犬飼由貴子が文化芸術に造詣が深いことから、少ない予算でさまざまな美術展を企画プロデュースしています。いろいろな人脈で美術品を拝借して展示したり、患者さんや地域の方の作品を展示したりするなど毎月の企画美術展を開催し、無料でご覧いただいています。

—アルコール依存症の治療のポリシーとして心がけておられることは何ですか。

患者さん一人ひとりに合わせて対応するのが当院のポリシーです。患者さんは高齢化の傾向もありますが、発達障害や自傷行為のある若い人もいます。認知症やうつ病のケアも必要です。
看護師やケースワーカーが、多様な患者さんに非常によく対応しています。さまざまなケースを持つことが、スタッフのスキルアップにもつながっていると思います。

—具体的な治療はどのような内容ですか。

益城病院 ミーティング

毎月のアルコール依存症の新患は10人くらいですが、再来も含めると、毎月200人弱です。入院されるのは新患の4分の1くらいで、多くは外来での通院治療です。
治療は地域の断酒会につなぐことを目標にミーティングを主体とするなど、アルコール依存症治療では一般的な内容です。開放病棟で、外来患者も含めたミーティングやビデオミーティング、酒歴作成のミーティングなど何種類かのミーティングを行うほか、作業療法やレクリエーション、月に1度は朝から弁当を作って山登りもしています。入院治療の場合、基本的には3ヵ月のプログラムです。
通院治療の場合、プログラムは多種多様ですが、抗酒剤の服用やミーティングなどが基本です。

—来院される患者さんの傾向はありますか。

以前まではアルコール依存症の平均寿命は52歳といわれていましたが、最近は70代、80代からミーティングに参加する患者さんもおられます。「年を取るとそんなに無茶な飲み方をしなくなるから大丈夫」という誤解もあるようですが、高齢であっても若くても、酒を飲み続けると依存症がどんどん進むのは同じです。暴れるなど問題を起こすと受診のきっかけになるのですが、患者さんがおとなしいと病気が進んでいるのに、治療につながるまでの時間がかかり、それが高齢化の原因になっているのかもしれません。
アルコール健康障害対策基本法が目指しているように、早めに病院につなぎたいところです。

—熊本県でのアルコール問題の特徴はありますか。

アルコール関連問題については、健康障害、離婚など家族の問題、ホームレス、飲酒運転など刑事事件につながるケース、子どもや妊婦の飲酒問題など全国の傾向と変わりませんが、自殺率は焼酎の消費量と関連しているかもしれません。今は下がっていますが、熊本県の自殺率が一時全国で10位台まで上がったことがありました。

—自助グループとの関係はいかがですか。

私は2000年から熊本県断酒友の会の顧問、2007年から全日本断酒連盟の顧問をしていますので、断酒会とのつながりは深いです。患者さんには、入院中から地域の断酒会の夜間例会にも出席してもらっています。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

松永 哲夫院長、スタッフ

家族の方だけでもいいですから、家族教室や断酒会に参加することをお勧めします。
また、最近、心がけているのは、患者さんの回復力(レジリエンス)を高めることだと考えています。ストレスは外力による歪みを生じる力のことですが、レジリエンスとは外力による歪みを跳ね返す力という意味です。
回復力を高める因子は4つあります。1つは健全な自己愛。身の丈の自分を受け入れて好きになることです。2つめが情緒的な絆。たとえば断酒会などで一緒に泣き笑いするような関係のことです。3つめがユーモアのセンス。悲劇と喜劇は紙一重、多面的な見方ができるということです。4つめが楽観主義。とりあえず今日一日だけでもやめておこうという一日断酒の考え方です。
そのように、グループセラピーを通して、レジリエンスを高めることを治療の目標にしています。



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