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院長 森口 進

森口病院
院長 森口 進

森口病院 外観

森口病院は1973年の開設以来、鹿児島県のアルコール依存症治療の中心的な役割を果たしてきました。NPO法人「アルコールの害から命を守る会」を設立し、講演会や家族教室の開催といった啓発活動にも尽力している森口進院長に、お話を伺いました。

メッセージ

—森口病院の特徴を教えてください。

横須賀のアメリカ海軍病院アルコール・薬物依存症治療センターの治療法を採り入れています。1984年に所長のスカラモジーノ氏を招いて指導を仰ぎ、カウンセラーを養成してもらいました。またアメリカの民間施設にも、何度か研修に行きました。民間病院の治療も加味しております。
AAの活動を重視した治療を行い、援護寮、デイケアやデイナイトケアなどの中間施設や関連施設を併設して、退院後の就労支援、地域定着まで継続的に支援しています。また、薬物依存症にならないように睡眠薬、精神安定剤を使わないのも特徴です。

—治療のポリシーや患者さんへの接し方で心がけておられることはありますか。

基本的な理念は、とにかく困った人を助けようということです。そのままのあなたを受け入れて、徹底的にあなたのために尽くしますという気持ちです。2015年の努力目標は「スマイル」。患者さんに笑顔で接することを職員の努力目標にしており、バッジも作っています。

—治療の基本的な考え方について、教えてください。

教育的な治療、自己変革、AAの勉強、この3つが大きな柱です。
飲酒のきっかけはストレスですよね。ストレスを受けた時に、いかに自分の気持ちを平安に保つかが大切です。そのためにはものの考え方や、自分の性格、生き方を変えなければなりません。いつもカリカリしていると飲酒してしまいますが、考え方を変えてプラス思考になれば心が平安に保てます。
治療はカウンセリングやグループセラピー(集団精神療法)が主体です。自叙伝や酒歴を書いてもらい、口に出してもらって心の傷を出していく。そして、ミーティングで他人から自分の長所や短所を指摘してもらうなどして、プラス思考の訓練をします。

—入院や治療の期間はどのくらいですか。

森口病院 外風景

任意入院ですので、基本的には期間は自由です。私は6ヵ月くらい入院していただくのがいいと考えていますが、多くの方は3,4ヵ月で退院されます。
回復には、これまでとものの考え方や生き方を変える必要があり、長い時間がかかります。退院後も治療を継続していただきたいのですが、これが難しいことから、民家を借りて数人で住んでもらうようにしました。このソーバーハウスは、援護寮(精神障害者生活訓練施設)の制度ができる前から始めています。今も約30人がここで生活しており、ここからデイケアやデイナイトケアに通います。自宅からの利用者も合わせると約80人がデイケア、デイナイトケアに通っており、カウンセリングやレクリエーション、作業療法を受けています。これは、非常に高い回復率につながっています。

—自助グループとの関係をどのように捉えておられますか。

断酒をビル工事に例えると、地面から下の基礎工事が入院治療です。基礎工事がうまくいかないとビルは建ちません。地面から上のビルを建てるためには、退院後に社会の中で本人が自分の力で建てる必要があります。これはAAに通い続けるということです。
当院を開設した頃は、鹿児島にはAAはありませんでした。私はAAを作らないと回復が難しいと考えて患者さんを連れて東京や長崎に研修に行き、AA鹿児島グループを誕生させました。後にAA鹿児島グループは自立して会場を移しましたので、入院患者さんが通えるようにAA下田グループを作りました。下田グループは病院内のAAですが、患者さん主体で医療スタッフは入っていません。その後も鹿児島のAAはどんどん増えています。

—患者さんは何人くらいいらっしゃるのですか。

ベッド数は199床です。アルコール依存症の患者さんは100人位です。そして、デイケア、デイナイトケアには80人くらいが通っておられます。初診の方は月に12、3人くらいでしょうか。
患者さんの年齢は以前に比べると若くなっています。一方で60~80代の高齢者の方も増えていて、認知症がみられる場合もあります。

—これまでのご経験の中で、印象深い患者さんはいらっしゃいますか。

数万人もの患者さんをみてきたのですが、印象に残っているのは回復した患者さんの合同結婚式ですね。離婚して入院してきた方が2人おられたのですが、2人とも元の奥さんと再婚されたんです。2人は同じ日に同じ場所で合同結婚式をされ、私も招待されてお祝いのスピーチをしました。退院されて10年後のことです。信頼回復には長い期間がかかるのだと思いましたが、心温まる出来事でした。

—最後に、ご家族へのアドバイスをお願いします。

院長 森口 進

アルコール依存症の人が家族にいると、「お父さん、お酒やめてよ」、「お前がそんなこと言うから飲むんじゃないか」、「いや、お父さんが飲むから言うのよ」とお互いに足を引っ張り合い、底なし沼に落ちていくことになります。家族がお酒をやめさせたいのは当然ですが、本人は言えば言うほど飲みますし、家族ではやめさせることができません。なんとかして治療の場にのせないと回復は難しいです。
飲んでいないしらふの時に、本人の飲酒の問題を明らかにして、入院や治療とは言わず「勉強に行ってみましょう、説明を聞いてみましょう」とやんわりと話してみてください。こうしてご家族とご本人が一緒に来院されることも多いですが、それも難しいなら、ご家族だけでも相談にいらしてください。



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