Doctor's Voice

院長 内田 恒久

大悟病院
院長 内田 恒久

大悟病院 外観

「医療」「介護」「健康」「教育」「社会貢献」の5つを柱とする藤元メディカルシステムの一角を担う医院。藤元メディカルシステムは、地域の中核となる4つの系列病院をはじめ、検診センター、付属医療専門学校、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、認可保育園など複数の医療・福祉関連施設を有し、県内でも屈指の規模を誇るトータルヘルスケアグループです。先進医療の導入を進め、まごころを込めた医療・福祉サービスを提供することをモットーに、多くの分野で地域を支えておられます。

メッセージ

—大悟病院の治療に対するポリシーを教えてください。

アルコール依存症は通常、開放病棟で治療すべき疾患という考えから、「また来てもいいかな」と思っていただけるように、「追い詰めない、対決しない、管理的にならない」という姿勢を心掛けています。もともと、否認がベースにある疾患のため、解決を急ぐとお互いに疲れてしまいます。そのため、相手の否認レベルに合わせて関わり方を変えています。また、いつもユーモアの精神を忘れないようにしています。ブラックジョークもよく言いますよ。たとえば、「順調に悪くなっていますね」とか、幻覚経験の有無を問うて相手が「いいえ」と答えると、「もう少し飲み続けると体験できそうなアルコール依存症のレベルですよ」といった具合です。節酒と断酒がありますが、両者は似て非なるもの。つまり、節酒は上手に飲むための努力であり、毎日が飲酒量との戦いである一方、断酒は「飲まないための戦い」です。両者のベクトルは逆方向。節酒は飲む限り、永遠に続く戦いですが、断酒は最初が苦しくても断酒期間が長くなるにつれてだんだんと楽になってくるものだという話をすることもあります。
入院する多くの患者さんはいろいろな「生きにくさ」を抱えて、自己治療としてアルコールを摂取しています。それゆえ、スタッフは患者さんの表情や言動に注意を払いながら関わるようにしています。そうして、患者さんに関心を持っていることを伝えながら、物事の考え方・見方によって「生きにくさ」は軽減でき、今までの自己を客観的に見つめ直すことで、自身の抱えている問題の元になったことを知ってもらえるように接しています。
一人で問題解決しようとするのではなく、誰かに相談するという選択肢を身につけてもらえたら。また、起床から就床までの集団生活を含めた一日の全てが治療であると受け止めてもらえるよう、強制はせず、入院中のプログラムの必要性を自らが「気づく」ようにサポート(支援)しています。

—治療プログラムはどのようなものですか?

大悟病院 座禅

独自性のある治療としては、座禅を取り入れていることでしょうか。昭和56年の開院以来、一度も欠かすことなく毎週金曜日に「禅友会」と称する断酒例会も行っています。職員による講話、患者さんのスピーチと断酒会、AAのメンバーが毎月交代で体験談やメッセージを届けてくれています。
座禅を取り入れたのは、開設者である藤元理事長です。座禅によって、アディクション(嗜癖)中心の不規則な生活習慣の改善や、体調を整えて健康回復させることを目的としています。一年365日、朝6時と夕方4時からの一日2回。いずれも約40分間、専用の道場で実施しています。自宅に帰ってからも続ける方もいらっしゃいますし、毎年元旦には遠くから時間をかけて参加される方もおられますから、入院生活の中でも重要な部分を占めているのではないでしょうか。アルコール依存症の患者さんは自己中心的な考えのもと、自己を正当化しがちです。そのため、このような体験を通じて、過去の生活を振り返ったり内省することが回復につながっている気がします。取り組まれた方からは、「心が落ち着く」「気持ちがすっきりした」といった声をよく聞きます。

—家族教室はどのような形で行われていますか?

入院患者・通院患者の家族はもちろん、当事者がまだ受診につながっていなくてもアディクション問題に巻き込まれている家族に対して、毎月1回、6回シリーズで行っています。2時間の枠内で、前半は医師・看護師・心理士・ケースワーカーが分担して病気の理解や家族が知っておくべきことの説明を行い、後半は家族からの質問や困っていることの相談に充てています。内容としては、①当院におけるARP(アディクション・リハビリテーション・プログラム)について、②依存症について、③家族がすべきこと・してはいけないこと、④依存症の心理と回復過程について、⑤依存症の家族システムについて、⑥自助グループと抗酒剤について、です。患者さん本人の回復を妨げてしまっている家族や周囲の人間(イネイブラー)は少なくありません。自分の手助けや尻拭いが依存状態を支えている(共依存関係)と頭では解かっていても、なかなかこれまでの行動を変えられないものです。そういった方々に依存症のからくりを理解して頂くように、彼らをサポートしています。

—再飲酒した患者さんにはどうような対応をされていますか?

大悟病院 中庭

対応は再飲酒の状況によっても変わってきます。自助グループへの参加を積極的に勧めることもありますし、地理的に参加が難しい場合は抗酒剤や断酒補助剤の服用を促すことも。本人の同意を得て、家族や職場の方に服用管理の協力をしてもらうこともあります。一番大切なことは、本人の動機づけです。あくまでも、薬は補助としての役割。「成功するか、失敗するかは、あなたの気持ちが一番大事です」と伝えた上で、失敗体験を踏まえて「こんな薬もあるけど、使ってみますか?」と問いかけるようにしています。薬代に関しては、「保険がきくので3割負担です。一日に約90円ですから、ワンカップ1本よりも安いですよ」と説明しています(苦笑)。

—印象に残っている患者さんやエピソードがあれば教えてください。

入院中に激しい症状を示した方、合併症のひどかった方、入退院を繰り返す方、クロスアディクションや併発症を有する方は印象に残りやすいですね。治療に苦慮したからでしょうか。ほかには、年賀状やメール・電話をくださる患者さん、10年以上通院を続けている患者さんもけっこうおられて、これらの方々も印象に残っています。
院内で行っている禅友会には、当院のOBがいつも10名ほど遠方から駆けつけてくれます。患者さん本人ではなく、家族(元妻)などが近況を知らせてくれる場合もあります。ヨレヨレだった方がきっぱりお酒をやめて、しっかり働いて、会いに来てくれる時はうれしいですね。

—最後に、ご家族へのアドバイスをお願いします。

院長 内田 恒久

まずは、問題に巻き込まれて困っている方が、自分のために相談に来られることを勧めます。あくまでも、「困っている人が、自分のために」です。アルコール依存症をどうにかしたいということよりも、まずは困っている自分のために自分ができることを行うことが肝心だからです。
そうすることで、アルコール依存症者とのこれまでの関わり方が変化することにつながり、それが患者本人の行動変化へとつながる可能性を高めてくれます。たとえ、問題飲酒者本人にはすぐに変化が現れなくても、巻き込まれている側が関わり方を変えることで以前よりも自分自身が楽になるのではないでしょうか。
知識不足、羞恥心、偏見などから受診に抵抗がある方は少なくありません。そのため、できるだけオープンに、明るく気楽にフランクに、対応することを心掛けています。それゆえ、入院を渋っていたのに病棟見学後には親しみを持っていただけることも珍しくありません。「見学料はとらんしね」なんて言うことも。悩みを抱えている方は、まずは気軽に相談してください。



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