Doctor's Voice

院長 和田 冬樹

菊陽病院
院長 和田 冬樹

  • 菊陽病院
  • 〒869-1102 熊本県菊池郡菊陽町原水下中野5587
  • TEL:096-232-3171 FAX:096-232-0741
  • http://www.kikuyouhp.jp/
菊陽病院 外観

熊本県下の精神科において初となる24時間365日常時対応型、スーパー救急施設を目指している菊陽病院。地域の救急医療体制への貢献が評価され、2011年には救急医療功労者知事表彰を受賞しています。アルコールだけでなくギャンブルやインターネット依存症も含む精神科の急性期治療からリハビリまで質の高い医療を提供し、「その人らしい地域生活」の確立を支援する菊陽病院の和田冬樹院長にお話を伺いました。

メッセージ

—菊陽病院の特徴は何でしょうか。

菊陽病院 正面

「患者さんの人権を尊重した全人的医療を」という理念に基づいて、患者さんとの「共同のいとなみ」の医療、「入院治療中心から地域生活中心に」を目指した早期の地域移行、アウトリーチや一般医療機関との連携などを基本理念としています。また「無差別・平等の医療と福祉の実現を目指す組織」である民医連(全日本民主医療機関連合会)※に加盟し、綱領に沿った取り組みをしていることも当院の特徴です。

—具体的にはどのような取り組みですか。

たとえば無保険や医療費の支払いが難しいために来院できず、我慢されて手遅れになる患者さんがおられるなど、さまざまな社会保障の問題があります。こうした事例を全国的に浮き彫りにして提言するといった活動をしています。無差別平等の医療が大前提ですので、個室料の差額もいただきません。隔離が必要な場合など、病状に応じて個室を使い、必要がなくなれば移動していただきます。また、無料低額診療事業(社会福祉法に基づき、経済的理由により適切な医療が受けられない人に無料または低額で診療を行う事業)も行っています。

—患者さんへの接し方で心がけておられることはありますか。

菊陽病院 階段

まず、患者さんと我々は対等・平等の関係であり、「治療を必要とする人は一緒に医療をやっていくためのパートナー」というスタンスです。これまでも、患者さんのさまざまな問題や難しい問題を解決してきました。職員には「うちが診ないのなら、どこが診るのか」という良い意味でのプライドがあり、1つずつ問題を乗り越えてきた歴史があります。
アルコール医療に関しても、「専門医だから依存症を診る」ということではなく、依存症の患者さんがおられて、地域の皆さんに必要とされてきたから、私たちは依存症の知識や治療の技術を身につけ、専門性を磨いてきました。ですから、アルコールの初診は専門医だけではなく、現在外来を担当する医師なら全員対応できる態勢になっています。

—アルコール依存症の一般的な治療プログラムはどのようなものですか。

基本的には久里浜式の入院治療です。解毒、認知行動療法、最後は酒歴をまとめてグループの中で発表していただき、おおむね3ヵ月で退院です。
ギャンブル依存を合併している方にはギャンブルについて勉強していただくとか、女性なら女性患者さんだけのミーティングの時間を持つなど、プログラムは患者さんに応じてアレンジしています。患者さんにより、プログラムをこなすペースは違いますし、合併症のある方もおられますので、誰でも一律というわけではありません。3ヵ月より短い方もあれば5ヵ月くらいゆっくりされる場合もあります。

—入院中でも自家用車で外出できるなど、かなり自由に過ごせるのですね。

入院して最初の1週間は敷地内で過ごしていただきますが、1週間を過ぎると近所のスーパーに買い物に行くなど、敷地外も含めて外出は自由です。自助グループのミーティングも、どんどん参加するように積極的に勧めています。
外に出ると飲酒するリスクもありますが、飲んでしまうのは依存症という病気のせいですから、そこから何を学ぶかが重要で、なぜ飲んでしまったか、今度どうしたら良いかをミーティングで発表してもらいます。飲んだことを責めるのではなく、みんなで「自分がその立場ならどうするか」と考えることも勉強の材料になります。入院中にスリップが起こる方が、勉強のきっかけになっていいのかもしれません。

—自助グループとの関係はいかがですか。

自助グループとの連携は非常に大切にしています。自助グループといっても構成メンバーにより雰囲気が違いますので入院中にいろんなグループを経験していただくようにしています。先輩にアドバイスしてもらうのがいいと言う人もいますし、それが鼻につくと言う人もいますので、自分に合いそうなところを選んでもらいます。

—毎年1月に新年会を開いておられますね。

1月の第2日曜に酒なしの新年会を開催しており、退院したOBも参加しています。先輩の話を聞くことで、入院患者さんは回復後の自分の姿をイメージでき、お酒をやめたらこんな人柄になる、人生が変わるのだという強い希望を持つことができます。医療者が言葉で説明するよりも説得力がある。反対に治療を始めたばかりの人の話を聞いて、OBたちは初心を思い出すことができ、お互いにプラスの影響を与え合っています。中には自助グループに行かないで断酒できる人もいれば、節酒でやれる人もありますが、自助グループには、人を回復させる精神療法、心理療法の基本的なものが全て入っていると思います。

—来院される患者さんはどのような方ですか。最近の傾向はありますか。

高齢の患者さんが増えています。以前は40〜50歳代の働き盛りの方が中核でしたが、最近は定年退職後に時間ができて一気に依存症になったという方が多いですね。認知症が合併しているケースもあります。
それと、数がそう増えているわけではありませんが、女性の患者さんは男性に比べて進行が早いので、早めに治療を始めていただきたいと思っています。

—近隣施設との医療連携はいかがですか。

近隣の総合病院、クリニックとも連携していますし、他県で受け入れてもらえず当院を紹介されて来られる患者さんもあります。「断らない」がモットーですので、基本的にはどんな患者さんも希望があれば受け入れますが、当院でなくても近隣の施設の方がいいというケースはそのように指示をしています。
職場のアルコール問題の相談や学習会なども開催していますが、今後の課題は、他病院の一般科、さらには健康診断との連携を図ることです。酒の問題を抱えている方は多いはずですので、メタボ指導のように酒を減らす指導が今後は広がると思いますが、それでも難しい人は専門病院につながるような関係を作っていきたいと考えています。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

院長 和田 冬樹

ご本人が治療を嫌がっておられるなら、まずはご家族だけで来ていただき、今後どうしていくかを考えていきます。時間をかけて、ご本人が自然と治療に向き合えるようにいろいろな種をまくのですが、その前提として、ご家族自身が治療に確信を持つことが大切です。ご家族が回復したアルコール依存症の患者さんに接することで、強い確信が生まれると思います。ですので、家族教室で先輩たちと交流して学ぶのも良いと思います。本来はご本人の意思に基づいて教育入院で治療を始めるのが一番良いのですが、時と場合に応じて精神科救急病棟に入院していただき、その間にご本人自身が問題に気づいてどんどん回復し退院されるケースもあります。まずはご相談ください。

※民医連には、2011年10月現在、病院や診療所など全国で約1,800施設が加盟している。  http://www.min-iren.gr.jp/index.html



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