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院長 廣兼 元太

広兼医院
院長 廣兼 元太

広兼医院 外観

日本の三大酒処として知られ酒蔵が並ぶ京都・伏見は、京都駅からほど近い歴史ある観光の町です。広兼医院は、二本の私鉄それぞれの最寄り駅から歩いて約5分の場所にある街中の医院です。先代院長から医院を引き継いで9年になる廣兼元太院長にお話を伺いました。

メッセージ

—広兼医院の特徴は何でしょうか。

広兼医院 待ち合い室

当院は精神科の一般外来で、入院設備はありません。基本的に通院治療を希望される患者さんが来院されます。約4割がアルコール依存症の患者さんです。駅から近いためか、近辺の方だけでなく京都府南部や大阪府の京阪沿線等にお住まいの方も来院されています。

—治療のポリシーを教えてください。

アルコール依存症の患者さんは、「酒ばかり飲んで!」と責められることが多いので、「よく思い切って受診されましたね」など、患者さんが治療へ一歩踏み出したことをねぎらう言葉をかけるようにしています。ご本人の「酒はやめたい、でも飲みたい」という両価的な気持ちを理解して、責めない対応を心がけています。
病院から商店街が近く、自動販売機でも簡単にお酒が買えますので通院されている方は毎日が試練だと思います。はじめはとにかく、「今日一日飲まずにいましょう」と言います。それができたら、「一日なんとか頑張れましたね」と努力を認めて、ご本人のモチベーションを保つようにしています。

—患者さんご本人が一人で来院されることが多いですか?

広兼医院 待ち合い室

一人で来られる方とご家族と一緒に来られる方と半々です。
ご家族は、医者から「病気だから責めないで」と言われても、診察に来るまでにとても大変な思いをされていますので、ご家族の気持ちも受け止めながらお話をするように心がけています。極端な場合は、「入院したまま帰ってきてほしくない」と言うご家族もいらっしゃいますが、アルコール依存症は病気であることや治療すれば改善が見込めることを説明すると、ご家族の受け止め方も変わってきます。
 ご家族が一緒の場合、診察室ではご家族にも入っていただいています。ご家族がどのようなところを問題視しているかを直接聞くことで、なぜ断酒しなければならないのか、患者さん自身が理解・納得する機会と思っています。

—治療の内容はどのようなものですか。

専門病院で行われるようなプログラムというのはありませんが、こちらから治療の選択肢を提示し、その中から選んでいただくことになります。
初診時は、アルコール依存症という病気について説明をします。その上で、断酒が必要だということや立派に断酒を続けて回復している方がおられること、通院治療と入院治療があること、断酒に役立つ薬、自助グループに参加する方が断酒が続きやすいといったことを詳しく説明します。

—通院治療中に再飲酒した場合はどうなりますか。

再飲酒はあり得ることです。「飲酒したのによく受診し、正直に話してくれましたね」と伝えた上で、今までのやり方ではうまくいかなかったということですから、抗酒剤を服用してみる、自助グループに参加してみるといった提案をします。また、再飲酒してしまう状況には一定のパターンがありますので、今後の対処法を一緒に考えていきます。
途中から入院治療に切り替えることもあります。数週間から半年通院治療をした後、ご本人が通院ではなかなか難しいという気持ちになって入院を希望されるとか、再飲酒してしまった時点で私の方から、より密度の濃い治療として入院を提案するなどケースバイケースです。薬も自助グループも入院も、どの選択肢もそうですが、ご本人が治療のために取り組もうと思えるように働きかけていきます。前向きな気持ちで選択できれば、ご本人が「よかった」という気持ちになるだけでなく、大きな改善が見られるものです。

—自助グループとの関係はいかがですか。

AAや断酒会の節目の例会やミーティングには私自身も時々参加しています。患者さんには、自助グループは2種類あることやその特徴、どの支部がどこで集まっているといった情報を伝え、参加するように繰り返し提案しています。
自助グループがどのようなものか分からないので抵抗感を持つ人も多く、自助グループに行けない方やなじめない方もいらっしゃいますが、素面で人の輪に入り、自分の気持ちを話す機会を持つことが断酒を続けるために大切なことだと、折に触れて説明しています。

—医療連携、ネットワークはどのようになっていますか。

入院を希望される方はアルコール依存症専門病院で3ヵ月プログラム入院した後に当院に通っていただくことになります。
また逆に、近隣のクリニックから、「アルコールの治療なら」と紹介をいただいたり、保健所などの家族相談をきっかけに患者さんが来院される場合もあります。

—患者さんの最近の傾向はありますか。

以前はアルコール依存症といえばいわゆる酒乱型、中高年の会社員というイメージでしたが、最近は年齢も性別もさまざまです。
最近増えているのは、若い女性の患者さんですね。立て続けに初診で女性が3人来られたこともありました。中でも、小さいお子さんがいる30〜40代の女性が増えています。女性の体は男性ほどアルコールに強くないので、短期間で依存症になります。
また定年後など、仕事や社会的な役割といったブレーキが外れてアルコール依存症になる高齢の患者さんも増えています。高齢の方は、酒の量はさほどではなくても、生活機能の低下が激しく、1日外に出なくて食事も摂らないというような場合があります。それから、若年の方で、アルコールの問題の他に精神科的な病気を抱えている方も増えています。

—これまでのご経験の中で印象深い患者さんはいらっしゃいますか。

離婚寸前まで話が進んでいたところ、お酒をやめて家族関係が改善されて離婚を回避し、出産した女性がいます。お酒を飲んでいる時はいろんなことがありましたが、断酒すると本当に穏やかになって、「きっと、もともとこの方はこんな人柄だったのだなあ」と思いました。自分自身が断酒するだけでなく、自助グループなどで他の方の断酒を支える活動にも熱心です。
断酒してからも、生きていればいろんなことが起こりますが、それでも飲まずに頑張り続けている方は多いです。「アルコール依存症は、やはり病気なのだ」と思います。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

広兼 元太 先生

まず、ご家族だけでなんとかしようと思い過ぎないことです。保健所や医療機関に相談して、一緒に考えながら対応してください。ご家族が直面している問題は、アルコール依存症という病気の結果起こっているのかもしれない、ということです。もしそうなら、病気は治療によって改善する可能性があります。時間がかかるかもしれませんが、回復する患者さんはたくさんいます。
それから、患者さんの問題にかかりっきりになって自分を犠牲にしてしまうと、ご家族自身が体を壊してしまいます。自分の時間と休息を確保していただきたいと思います。



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