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Doctor's Voice

名誉院長 遠藤 五郎

北リアス病院
名誉院長 遠藤 五郎

北リアス病院 外観

ドラマ「あまちゃん」の舞台となった岩手県久慈市。北リアス病院は、ここ久慈市でアルコール依存症治療に取り組む施設です。物忘れ治療や児童・思春期治療などの専門外来をはじめ、デイケアや介護老人保健施設なども併設。また、2014年11月には近隣に新病院を移設・開院し、地域に根ざした医療を提供しています。

メッセージ

—先生は、東北アルコール関連問題研究会の会長をなさっていますね。

私が久里浜病院でアルコール依存症治療の研修を受けたのは1977年のことです。研修の第2期生でした。その後アルコール依存症治療に取り組んできたわけですが、一人では限界があると感じるようになり、岩手県でアルコール研究会を作りました。やがて近隣の他県にも研究会が生まれ、1989年には東北6県のアルコール関連問題研究会を結成しました。今でも毎年関係者が集まって、情報交換や研究に取り組んでいます。

—北リアス病院での治療のポリシーを教えてください。

心理社会的治療が中心ですが、ベースにあるのは「治療共同体」という考え方です。簡単に言うと依存症者同士が対話を通じて自分の姿に気づき、新しい生き方を模索していくことを目指す治療で、アルコール依存症専門医が強制的に関わるのではなく、平等な立場でミーティングを重ねていきます。
開放病棟でできるだけ自由に過ごしていただき、ご本人の積極性を出せるようミーティングを中心とした治療プログラムに取り組んでいます。夜のミーティングでは内観療法の要素を採り入れてアルコールについて話し合い、会の終了時には断酒の誓いをしています。

—一般的な治療プログラムはどのようなものですか。

基本的には久里浜方式を取り入れた入院3ヵ月の治療プログラムです。1ヵ月目は体を中心とした治療を行います。体が落ち着くと、2ヵ月目からは精神的な治療に入ります。3ヵ月目は外泊もしていただき、家族との関係を強くしていきます。
3ヵ月間しっかり断酒したら、次の目標は社会復帰。保健所の社会適応訓練のアルバイトを紹介するなど、ミーティングを続けながら社会復帰に向けた訓練を中心に行います。飲酒を繰り返してしまう人など、必要な方にはデイケアを利用していただいています。
依存症まではいかない「飲酒に問題を抱えている」方の場合は、定期的に通院していただき、外来で精神療法を行っています。

—東日本大震災による、アルコール問題の影響はありますか。

辛い時はアルコールに逃げる人もいます。その意味では、地域でもっと活動すべきだと思いますが、十分ではないかもしれません。
東北アルコール関連問題研究会はケースワーカーと看護師さんたちが中心に活動しています。保健所の方も非常に熱心に活動していただいているのですが、医師の参加がまだまだ少ないのが現状です。アルコールに逃げてしまった人に対して「肝臓が治ったから少しぐらい(酒を飲んでも)いいよ」と指導しているケースもあります。アルコール依存症の患者さんには、「一滴もだめ」と指導していただくように、内科の先生方にもっと伝えていく必要があります。

—自助グループとの関係はいかがですか。

断酒会を2つ作りました。1つは岩手県の断酒会に加盟して活動しています。もう1つは「働きながらできる範囲で参加する」という考え方で、働きながらでも、できるだけ断酒会とつながりを持ち続ける、社会復帰を重視するグループです。
患者さんには、どちらでもいいので断酒会に入るように勧めています。院内例会も開催していますが、退院前のミーティングには断酒会のメンバーに入ってもらうなど患者さんと断酒会の交流の場面を作っています。

—これまでのご経験の中で印象深い患者さんはいらっしゃいますか。

同居している父親が食事の時に酒を飲む方で、それを眺めることで毎日辛い思いをしていた患者さんがいました。奥さまにご本人の気持ちを説明し家族治療をしたところ、父親と食事の時間をずらすなどうまく対応していただけました。それからは徐々に、奥さまに連れられてご本人もミーティングに参加するようになり、もう3年くらい断酒が継続できています。やはり、家族の治療は重要です。
それから、震災で船を流された船長さんで、船を買って再出発した人もいます。この方はときどき魚を持って来てくれたりします。アルコール依存症の治療は、人間関係、信頼関係がベースなので、長く交流がある方は多いです。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

遠藤 五郎 先生

アルコール依存症は病気であって、患者さんはけっして怠け者ではないことを理解していただくことが一番大切です。しかも、困ったことに「依存症」という病気は、どんなにがんばっても自分では治せません。自分の意志でお酒から離れるのは無理なのです。ご家族にはまず、このことを理解していただきたいと思います。
まずはご家族や親戚で協力していただいて、診察室にご本人を連れて来てください。私は患者さんに入院を強制したことはありませんが、たいていの患者さんは「泊まります」と仰ってくれます。診察室に来ていただければ、そこから治療の第一歩が始まるのです。



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