Doctor's Voice

院長 樋掛 忠彦

長野県立こころの医療センター駒ヶ根
院長 樋掛 忠彦

長野県立こころの医療センター駒ヶ根 外観

設立から半世紀にわたり、長野県の精神科医療における中心的な役割を果たしてきた駒ヶ根病院は、2011年1月「こころの医療センター駒ヶ根」と改称されました。精神救急医療や依存症、児童精神科などの専門医療の役割を担い、外部の医療機関や施設と連携しながら、地域に「ひらかれた」医療を推進しています。

メッセージ

—施設の特色を教えてください。

長野県立こころの医療センター駒ヶ根 中庭

新病棟は病室の4分の3が個室で、4人部屋も距離を取ってそれぞれに窓をつけるなど個室に近い作りになっています。木をふんだんに使い、静かで落ち着いた環境でリハビリしていただけるようにしています。
開放病棟での治療、任意入院が基本ですので、患者さんの意志に基づいて契約を結んだ上で治療が始まります。初回入院は3ヵ月、再入院は2ヵ月が基本ですが、依存症の病棟の平均在院日数は50日台です。短期間で集中的に治療し、外来でフォローするように徹底しています。

—精神科救急情報センターを設置しておられますね。

長野県立こころの医療センター駒ヶ根 受付

長野県の精神科救急情報センター事業(りんどう)を受託しており、看護師やソーシャルワーカーなど経験のあるスタッフが24時間、365日対応で患者さんの相談に応じています。例えばご本人が混乱してご家族が困っているとか、診療所に通院はしているが薬がなくなって困っているといった相談です。お正月や連休、夏休みなど休みが続く時期には、長野に旅行に来ていて具合が悪くなったからどうしたらいいかといった相談や、夜間や休日の相談が多いです。地域的には中信、北信地域の相談が半数以上を占めますが、長野県は広く当院への来院が難しいため、お住まいの地域の施設と調整するケースも多いです。

—治療のポリシーはどのようなものですか?

診察室で、酒をやめる気があるとかないとかいう押し問答は、極力しません。患者さんが困っていることは何か、どうしたいのかをお聞きして、患者さんに納得していただいてから治療に入るのが基本姿勢です。
心身にいろいろな害が出ていること、家庭や職場で問題が生じていることなどを示して、「これ以上飲めませんね」と認識するところがスタートラインです。患者さんは治療プログラム内で依存症の学習をしていくことで自分の状態と照らし合わせたり、集団療法の中で自分と似たような症状や経過の人に出会えば、自分も同じだと腑に落ちて、徐々に治療に前向きになっていかれます。さらに断酒会に行けば、回復する希望を持てるようになります。

—基本的な治療プログラムを教えてください。

長野県立こころの医療センター駒ヶ根 中庭

まずアルコールの離脱症と身体合併症の治療、依存症の学習から始まり、2ヵ月目から自助グループに参加していただきます。退院前には外泊して地元の自助グループに参加していただき、退院後の準備を始めます。長い歴史がある当院だけに、県内のどの地域の自助グループにも当院で治療を受けた経験のある回復者がおられることは、強みだと思います。他にも、アルコール依存症についての理解を深めていただく「学習会」、テーマに沿って作文を書いて発表し、自分自身を振り返っていただく「内省」、回復ノートの読み合わせをする「抄読会」や、ビデオ学習、ミーティング、自助グループへの参加、栄養や服薬の指導、作業療法(脳トレ)なども実施しています。
また、認知行動療法を採り入れたプログラムや対人関係を振り返る心理ミーティング、気功やヨガなどメニューは多彩です。女性や高齢者向けのプログラムもありますし、家族学習会も月2回開催しています。

—長野県の地域的な特性はありますか?

高齢の患者さんが多いです。隣組や地域活動など何かにつけてお酒を飲む機会が多いこともきっかけになって、退職して昼間から飲んでしまうという方もあります。
認知症の患者さんが実はアルコールの問題を抱えているとか、デイサービスに行った先でいつも酒臭いのでどうしたらいいかとか、一人暮らしで日常生活に問題がありそうなので自宅を訪問したら酒瓶が転がっていたという相談が増えていますね。大事なのは、高齢だからお酒はやめられないと決めつけないことです。断酒に成功している方もたくさんいらっしゃいます。

—来院される患者さんはどのような方でしょうか?

長野県立こころの医療センター駒ヶ根 喫茶

アルコール依存症の初診の患者さんは月10人くらいですが、新病院になって患者さんが増えました。アルコール外来にも依存症まで行かない害のある飲み方をしている方や、キッチンドリンカーでちょっと心配な飲み方をしているといった方の受診が増えています。そこで、依存症病棟での経験がある看護師を外来に配置したり、外来患者さんのミーティングを行うなど、入院しなくても外来で参加できるプログラムを行ってのフォローもしています。

—他施設との医療連携はどのようになっていますか。

南信地区の精神科医がいない病院では、ソーシャルワーカーが協力して病院の会議室にて、断酒会と同様の活動をする「回復者クラブ」を実施しており、連携はかなり強いと思います。
また、当院を退院した人たちが年2回集まる同窓会「しゃくなげ会」は、普段別々に活動している人たちの交流や研修の場にもなっており、自助グループと協調しながら、精神保健センターのような役割を果たしています。
信州嗜癖精神保健福祉研究会はギャンブルや性依存の研究をする医療従事者の研究会やネットワークの核になっており、当院はこの研究会の事務局も担っています。
実はアルコール依存症の問題は、精神科の教育の中に十分組み込まれていません。そのため、医療従事者が依存症は治らないという偏見を持っていて、「ちょっと厄介な患者さん」という目で見ていたり、回復した患者さんの姿を見た経験がないことが多いんです。そこで精神科医のいない病院に出向いて出前講座というものを行い、依存症治療について話したり、回復者に話をしてもらい、「困った患者」のイメージを変えてもらうようにしています。治療する側から理解してもらうということも大切なんです。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

院長 樋掛 忠彦

ご本人が来院されなくても、ご家族だけの相談も受け付けています。ソーシャルワーカーが話をお聞きしたり、ご本人が治療を始めていないご家族の方でも家族の集まり(ながつき会)に参加することもできます。
心配しすぎたり、悲観的になったりしているご家族も、家族会に参加すれば他と比較して客観的に見ることができるようになります。また、それによりちょっと先の予想を立てて予行演習や心の準備ができるかもしれません。自分だけじゃないと感じるだけでも、少し落ち着いて考えることができると思います。まずは、何でも相談してみてください。



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