Doctor's Voice

市川 正浩 先生

三光病院
院長 市川 正浩

  • 三光病院
  • 〒761-0123 香川県高松市牟礼町原883-1
  • TEL:087-845-3301 FAX:087-845-6822
  • http://www.sanko-hp.com/
三光病院 外観

高松市の三光病院は昭和40年に開院、同60年にはアルコール病棟を開設した、香川県で最も古くからアルコール医療に取り組んで来た医療施設です。「全てのスタッフが患者様一人ひとりのために」をモットーに、アルコール医療、精神科医療、老人介護施設を運営しています。

メッセージ

—“三方良し”が基本方針というのは、どのような意味ですか?

三光病院

患者さん良し、私たち職人も良し、それから世間様も良しの“三方良し”の精神を大切にしているということです。たとえ高度な医療で1人の患者さんを救ったとしても、世間がノーと言えばそれまでで、世間が納得できる医療でないといけません。
それから、当院では飲料の自動販売機を一台も置いていません。お金を入れるとガチャンと酒やジュースが簡単に出てくる感覚は、依存症や糖尿病、合併症には決して良いものではないからです。そのため、待合室には水やお茶のサーバーを置いて、自由に飲んでいただけるようにしています。

—治療のポリシーや、患者さんに接する時に大切にしておられることは何ですか?

一番大事なのは患者さんに“ちゃんと騙される”ことです。患者さんが「酒をやめる」と言えば、信用する。「飲むだろうな」と疑ったり、再入院してきたときに「またか」と言ってしまえば終わりです。それをやらないと患者さんは信用して私について来てくれないんです。本人は騙すつもりはなくて必死に生きているのに、やっぱり飲んでしまうのです。
このように私が患者寄りの発言をすると、ご家族から「先生はなんで本人の味方をするんや」と言われますが、そこが大事なんです。例えば「入院は1ヵ月」と聞いて、ご家族が「3ヵ月じゃないのか?」と不満に思っても、実は患者さんはホッとしています。「1ヵ月なら入院してもいい」と思ってもらえれば任意入院になる。嫌なら外来で治療を始めます。ゆっくり休める職場環境にない患者さんは、ある程度禁断症状が取れたら早めに退院していただきますし、外出も認めます。中には病院から仕事に行きたいという患者さんもいます。外来でも週1回月曜夕方にはサラリーマン外来を設けています。何事も自分の意志でスタートしてもらうことで、治療もうまく進みます。

—具体的には、治療はどのような流れになりますか?

入院は原則として4週間です。まずアルコールを解毒して、アルコール性肝炎、肝硬変などの内科疾患、神経障害、知覚障害、脳障害などの合併症を治療します。断酒後も離脱症状や身体合併症のリスクがありますから、きちんと家族にも説明しながら治療をします。
初診では、アルコールのことは聞きません。娘さんがおられたら、「可愛いでしょうね」と娘さんとの関係を詳しく聞きます。今は娘は出て行ったとかいう話になった時に、私が娘さんの本当の気持ちを代弁すると本人はハッとするわけです。そこが酒をやめるキーポイントです。特に男性の患者さんは、娘さんがいれば断酒できると確信しています。娘さんがいる患者さんの断酒率は9割以上、息子さんだけだと3割から5割でしょうか。

—入院中から地域や県外の自助グループへの参加を勧めておられますね。

三光病院

禁断症状がなければ、入院直後から断酒会に出てもらいます。ご家族にもできるだけ参加してもらうようにします。入院中から断酒会に参加することで顔なじみができ、仲間との信頼関係や絆が生まれて断酒への決意が強くなります。院内例会は月曜と木曜の週2回です。月1回家族会も開催していますが、例会でも家族に発表してもらいますので、毎回が家族会のようなものです。地域例会は毎日どこかでやっていますので、自宅に近いところや利便が良いところに参加しもらいます。
県外研修は私たちも同行します。一泊二日で一緒に風呂に入り、食事をして、共に行動すればお互いがわかります。そこから生まれる信頼関係や絆が断酒継続の力になりますし、精神療法にも役立ちます。

—“天才バカボン”などの先生の説明がユニークです。

大腸は強い免疫力を持っていて、毒になるものなど、何億年の歴史から体に害のあるものを知っています。これは脳とは別の、首から下の機能です。アルコール依存症は脳の病気ですが、酒や気分の良いものにパッと食らいつくところは“バカ”ですよね。首から下は脳より賢いわけです。だから、“天才バカボン”。この説明は、患者さんに受けます。「俺は天才かもしれんけど、アホか(笑)」と。うまく言葉を使いながら、なるほどなと思うような表現をすることで、私がどういう意味でその言葉を使っているのか興味を持ち、話を聞いてくるようになれば、酒をやめていくわけです。
また例会の発表は家族が優先なのも大事な特徴の1つです。男性が話すと「やめた」などの自慢話になりがちです。女性に話してもらうと、夫が飲んで妻や子、家族はどう思ったか、本人を責めるのではなく自分の気持ちを語ってくれます。これを聞くと本人はもちろん周りまでもハッとし、自分のこととして考えられるようになる。家族の話は本人の体験談以上に重要だと考えています。 “風と共に去りぬ”(自分の妻の話はまともに聞けないので、急に行方不明になること)や、 “くちなしの花”(自分自身の体験発表の番が来ても、語らず黙ったまま)というようなことも言っていますね(笑)。

—これまでのご経験の中で、印象深い患者さんはいらっしゃいますか。

10年間で120回入退院を繰り返した患者さんがいました。他の病院でも数百回入退院していたトラブルメーカーで、ついに行く病院がなくなって、出身地だというので当院に紹介されてきました。その患者さんでも、酒をやめることができたんです。断酒会の元会長と毎日例会に行くようになって約1年断酒できたのですが、1日例会をサボったその翌々日に連続飲酒で亡くなってしまいました。あの時は、初めて患者さんのために泣きました。1日サボるとそういうこともある。またそんな依存症の方でも、やめられる人はやめられると知ることになった患者さんでした。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

市川 正浩 先生

アルコール依存症は脳の病気です。人格や道徳論は関係なくて、やめろと言っても無理なんです。本人は病気であることをなかなか認めませんので、まずは家族や周囲の人が地元の保健所などに相談してみてください。ご家族の電話相談を受けてからご本人の治療が始まるまで、何ヵ月、何年を要することもありますが、病院の治療につながらなくても、自助グループに参加してネットワークを知れば、決して孤独ではないとわかってもらえると思います。アルコール依存症の治療には、断酒会などの自助グループに出席しながら、これまでの自分を修正していくことが大切です。
職場などで依存症であることを周囲に知られることに抵抗のある患者さんも少なくありません。産業医などにはさらに依存症治療への認識を高めてほしいと思いますし、企業は安易に解雇せず、本人のプライバシーを守るなどの対応をしてほしいと思います。



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