Doctor's Voice

堀井 茂男先生

慈圭病院
院長 堀井 茂男

今年度完成予定の新病棟

慈圭病院は昭和27年に開設され、アルコール依存症治療にも40年の歴史を持つ病院です。開放病床やデイケアなど全国に先駆けた取り組みを進めてきました。併設された研究所での基礎研究に加えて、地域での各種研究会なども牽引。保健所などと連携しながら、岡山県域での精神科医療や地域啓発へ積極的に貢献しています。
今回は、2014年6月より施行される法律「アルコール健康障害基本法」の制定に携われた堀井茂男先生にお話を伺いました。

メッセージ

—慈圭病院の特徴は何でしょうか。

昭和47年に院内断酒例会を始めており、古くからアルコール依存症に関わってきました。早くから開放に努めてきたこともあり、現在では600床ある病床のうち開放率は70%程となっています。むやみに患者を閉じ込めたりせず、ご本人の意志を尊重した治療を原則に、「わが子でも安心して任すことができる精神科病院」を理念に掲げて取り組んでいます。慢性化して長期間入院される方もありますので、歯科も開設しており、健診にとどまらない積極的な歯科衛生の指導もしています。

—「わが子でも安心して任すことができる精神科病院」は、どのような思いから生まれた理念ですか。

外観

初代 伊原重彦理事長は、戦時中に岡山市内で単科の精神病院を開業していたのですが、食糧難の中でも、「食費を切り詰めるな。食料がないなら家に帰せ」と病院を解散したような人柄の方でした。当院の理念には、こうした思いが表れています。
二代目の大重弥吉理事長も、調子が悪いと来院しない患者さんの家を訪問し、朝から丸1日かけて話し込み、「そこまで言うのなら」と患者さんが来院したというような人です。
昭和37年には、三代目の藤田英彦理事長が24時間開放の病棟を作り、地域への復帰をめざしてきました。患者さんが病院から仕事に通い、ソーシャルワーカーが職場を訪問してサポートするなど、職業訓練や退院後の生活支援のためのデイケアを、制度化される前の昭和40年代から始めています。

—患者さん一人ひとりを大事にするのが基本理念なのですね。

そうです。原則は本人やご家族の希望に応じて、できることをやっていくことになります。まず外来でやってみて、駄目なら入院してみる。失敗したら別の方法を提案します。セカンドオピニオン外来も設けていますし、希望があればいつでも紹介状を書いて転院することも可能です。患者さんにいち早く自立して社会復帰していただきたいと考えています。
飲酒をやめて自分の人生をやり直したいとご本人が思っておられるなら、私たちはそれをサポートします。治る力は、やっぱりご本人にありますから。

—具体的な治療プログラムや自助グループとの関係はいかがですか。

まず心身の状態を整えてから、アルコールリハビリプログラムが始まります。朝夕のミーティングとウォーキングが毎日の日課です。日替わりでアルコール依存症や栄養面の話、薬などの講義やミーティングに参加していただきます。また、毎週金曜日に院内断酒会例会がありますが、職員はサポートするだけで、運営の中心は断酒会です。この院内例会は40年続いており、2,400回を超えました。断酒会とは昭和41年に岡山断酒新生会ができて以来協力関係を持っています。

—患者さんはどのような経路で来院されますか。また、最近の傾向はありますか。

以前は、ご家族が保健所に相談して、当院を紹介されるケースがよくありましたが、一般病院からの紹介が増えてきています。一昨年から岡山市で始まった症例検討会などでご一緒していることなどの影響があるのではないかと思います。最近は、暴力などの問題行動からではなく、身体を壊しているのに飲酒をやめられないことから内科医の説得や家族の勧めをうけ、酒害をある程度理解されて来院される方が増えているのも特徴の一つです。
また、患者さんが高齢化しているのが最近の傾向で、定年後のアルコール依存症患者が増えています。若い世代では女性の患者さんが増えていますが、断酒会に出たくない方もおられるので、女性ミーティングLAMZ(ラムズ:Ladies Alcohol Meeting at Zikei)を実施して、そちらに参加してもらっています。

—広報誌「きょうちくとう」の発行など地域連携、地域貢献にも積極的ですね。

きょうちくとう

岡山県の私立病院が集まる精神科病院協会の歴代会長は当院が務めており、併設の精神医学研究所では岡山大学や川崎医大と連携して基礎研究に取り組んでいます。また、岡山アルコール依存症予防回復ネットワークや岡山市のアルコール依存症対策推進事業に参画して、講演や啓発を行うなど、公的な役割を積極的に担っています。
一般向けの公開プログラムとして当院の講堂で実施している「メンタルヘルス講座」は、アルコールの他、不安、ストレス、うつ、認知症といったテーマで隔月開催しています。これには、毎回100人前後の参加があります。

—これまでのご経験の中で、印象深い患者さんはいらっしゃいますか。

お酒をやめて幸せにやっている方々のお話や、離婚した若い女性が断酒を続け新しい家庭を築いている便りを受け取ったりすると、アルコールに関わっていて良かったと思いますし、依存症は病気なのだ、治るのだ、という思いを強くします。
私はいつも「あせらず、あわてず、あきらめず、あるがまま、ありがとう」を『5つの“あ”療法』と称して、この精神で断酒を続けましょうと言うのですが、これは多くの患者さんや断酒会の会員さんから、教わったように思います。今日一日の無事を感謝し、やめている自分を褒める。その積み重ねが回復につながるということです。
不安の除去や依存症の回復、自立には“here and now(今、ここでやめる)”ということが大事なんです。断酒も一日一日の積み重ね。今日が無事であれば、よく頑張った自分を褒めて翌日新しい朝を迎える。ああすれば良かった、これができなかったと考えてばかりでは熟睡もできません。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

堀井茂男院長

患者さんの頑張りを理解し、認めてあげること。そして、ご家族も一人の人間として自立していく視点を持ってほしいと思います。中には、夫や息子を支えることが生きがいになるような奥さんやお母さんもおられますが、夫や子どもとは独立した人としていかに生きるかを納得して追求してほしいし、患者さんのために家族の協力と我慢を強制されるべきではありません。だから私は、患者さんとご家族の話は別々に聞くようにしています。
アルコール依存症の患者さんには「酒をやめる必要はない」という第一の否認だけでなく、「酒さえやめればいい」という第二の否認もあります。第二の否認があると、依存になった背景を考えることができずに、本当の意味での回復や自立に向けたスタートを切ることができません。酒をやめることは、最終目標ではありません。私たちは、患者さんやご家族にも、その人らしい生活や仕事ができるようにサポートしていきたいと思っています。



患者さんを支える方々へ