Doctor's Voice

橋本 耕司先生

高嶺病院
院長 橋本 耕司

高嶺病院 外観

高嶺病院は、アルコール依存症治療の専門病院として1982年、宇部市に開業しました。「仲間の力でやめ続ける」断酒をめざして30年を超える実積があり、山口県でのアルコール医療の中心的な役割を果たしています。

メッセージ

—高嶺病院の特徴は何でしょうか。

高嶺病院内

当院は患者本人の任意入院だけでなく、医療保護入院の患者さんも積極的に受け入れています。そのため、他機関に比べると治療意欲の低い患者さんや、重症で治療が難しい患者さんも多いので、入院中に治療へのモチベーションを上げて、断酒に向けた治療のレールに乗っていただけるようにしています。最近は患者さんがかなり高齢化し、認知症を合併している方も多く、退院後自宅での生活が難しい場合は長期入院になることもあります。

—具体的な治療プログラムについて教えてください。

アルコールで重大な問題が発生していれば断酒、そこまでいかない場合は一定期間の禁酒を勧めています。治療を拒絶される患者さんには、断酒を前面に出さずに治療的な関わりを持ちますが、肝不全や自殺のおそれなど生命の危機がある場合、また家族や社会に大きなトラブルを及ぼしている場合は入院を強く勧めます。
治療期間は入院がおおむね4ヵ月、その後の通院が8ヵ月が基本ですが、ケースに応じて個別に対応しています。
入院期間中はまず解毒期間を経てから、ARP(アルコール・リハビリテーション・プログラム)に入ります。体の病気を治し、精神的な不調を治療し、仲間を作ったりするプログラムです。集団療法で学習やミーティングを徹底的に行い、ここでアルコール依存症という病気の基本的なことや、退院後の断酒方法について学んでいただきます。外出や外泊して院外の自助グループにも参加していただきます。集団療法になじめない方もおられますが、患者さんに応じたタイミングと方法を見極めて対応しています。
通院治療では、アルコールデイケアに参加してもらいながら、夜は原則として毎日自助グループに参加してもらい、「飲まないための習慣」を体で覚えてもらうようにしています。
またご家族へのケアも並行して行います。家庭内暴力で困っているなど、問題を抱えてご家族が相談に来られることも多く、ご家族にもカウンセリングや院内ミーティング、自助グループの紹介を行っています。

—夜間例会など、いろいろなミーティングが行われていますね。

夜間例会は開院以来毎月2回、病棟内で開催しています。入院・通院中の患者さん、ご家族の方など多い時は300人くらい参加されており、テーマに沿った話題やご経験を話してもらいます。社会復帰された患者さんを見て、「あんなふうになりたいな」と意欲がわくなど、お互いに刺激し合い、励まし合いながら断酒に向けて頑張っていこうという会です。年に1回は同窓会もしています。これは病院とは独立した組織なので治療プログラムとは別のものですが、退院した患者さんを中心としたふれあい大会で、夜間例会と同様の意味を持っています。
また、当院には年末年始やゴールデンウィーク、お盆の時期など、患者さんがお酒を飲みたくなる時期に短期的に入院するシステムがあります。特に単身の方や再飲酒のリスクの高い方に1〜2週間入院していただき、再飲酒を避けるのと同時に、気持ちのリフレッシュや、この機会にまとめて検査をしていただきます。年末年始や1月後半、年度初めの4月頃の入院は比較的多いです。

—自助グループへのつながりを最重視しておられるそうですね。

他機関に比べて、自助グループへの関わりが強いと思います。自助グループと上手く連携して患者さんをグループにつなぎ、退院後の社会生活を仲間の力で支援していくことを理想としているからです。
人間は弱いもので、一人になるとつい飲みたくなったり、10年やめたからもう治っただろう、上手に飲めるんじゃないかと考えてしまうものです。コントロール飲酒の失敗から再入院に至るケースはとても多く、意志の力や我慢だけではやはり断酒を長年継続することは難しいのです。だからこそ仲間と交流を続け、助け合い、励まし合いながら断酒を続ける。患者さんが社会に出たときに、共に断酒を続けられる仲間と人間関係や信頼関係を作っていただくことが必要です。自助グループがない地域では、患者さんを集めてグループ作りを呼びかけたり、患者さんに自助グループの例会の場所を紹介するといった支援もしています。

—患者さんはどのような経路で来院されるのでしょうか。最近の傾向はありますか。

ほとんどの方が肝臓や何か内臓疾患を持っていて、内科から紹介されることが多いです。糖尿病を合併している方も多いのですが、特に単身者の方は食べずに飲酒して薬を飲み忘れるといったことで突然死の危険があります。
最近は認知症やうつ病(躁うつ病)、発達障害の合併ケースが増えていて、久里浜式といわれる従来の集団治療プログラムでは対応しきれない例が増えています。いちばん顕著なのは高齢化ですね。認知症が先なのか、アルコールの影響で認知症が来ているのかわからないような状態の方が多いです。女性は1〜2割程度ですが、摂食障害や薬物依存などを合併している方が目立ちます。女性の場合、夫がいる時は普通にしているけど、一人になると飲んでしまうなど、問題が表面化しにくい印象があります。

—山口県のアルコール勉強会を100回以上続けておられますね。

12年前から山口県の医療関係者、精神保健福祉士、行政機関や保健所職員らが集まって、1~2ヵ月に1回のペースで勉強会を続けています。毎回約50名が参加し、病院間や行政との連携が密になりました。
これにより、医療機関や行政機関の中でもまだ残っている「アルコール依存症は治らないから治療するだけ無駄」、「本人がやる気がないのにどうしようもない」といった偏見や誤解が解けていく効果もあります。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

橋本 耕司先生

医療機関でも、行政機関でも、自助グループでもいいので、困った時はまずご家族だけでもいいので相談してください。たとえば「一定期間断酒すれば完治した」という誤解が、再飲酒につながっていることもあります。ご家族だけの相談も可能ですし、相談すれば何か解決のヒントが得られると思います。
専門機関は敷居が高くて難しいなら、せめて一人で悩みを抱え込まずに、家族や友人に相談に乗ってもらうようにしてください。直接的な解決にはならないかもしれませんが、ご家族が先に精神的にダウンすることも多いのです。まずは、苦労話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になると思います。



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