Doctor's Voice

長尾 澄雄先生

呉みどりヶ丘病院
院長 長尾 澄雄
内科部長 長尾 早江子

呉みどりヶ丘病院

呉みどりヶ丘病院は、民間初のアルコール依存症治療専門病院として昭和45年に開業しました。広島県のアルコール依存症治療における中心的な医療機関として独自のケア体制を確立し、共同住居やデイ・ナイト・ケアセンターなどのアフターケア施設も整備して患者さんの社会復帰を支援しています。

※精神科デイ・ナイト・ケア
患者の社会生活機能の回復を目的として行うもので、実施時間は朝から夜までの10時間が標準

メッセージ

—呉みどりヶ丘の特徴は何でしょうか。

長尾 澄雄先生

長尾 澄雄院長) 広島県は全国的には比較的早く断酒会活動が始まりました。昭和38年頃、高知県の元アルコール依存症患者で自らの病気を克服した人たちがアルコール依存症治療の自助組織断酒会を作ろうと全国の精神病院に声掛けしながら、全国行脚して全日本断酒連盟が組織されました。私の病院にも勧誘に来られて院内断酒の会を始めたところ、非常に良い結果が出たのを今でも鮮明に覚えています。それをきっかけにアルコール病棟を開設し、100床のアルコール依存症専門病院としてスタートしたのが呉みどりヶ丘病院です。現在は330床になっています。このような経緯もあり、当院は断酒会育成にも協力しています。

—治療のポリシー、患者さんに接する時に心がけておられることは何ですか。

長尾 澄雄院長) 患者さんのプライドを尊重して、対等な関係として接するように心がけています。患者さんは、自分がどうあるべきか頭では理解できているのですが、自身ではコントロールできなくなっています。家族や周囲にあれこれ言われなくても、本人は百も承知しているのですが、それでもできないのです。できない自分を隠そうとして、情けなくなり自分を責めてまた飲むということを繰り返してしまいます。患者さんが希望を持つためには、飲酒をやめて、社会からも認められている回復した仲間に出会うことが大切なんです。そのためにも断酒会への参加を治療に取り入れて、社会生活を営む仲間に多く接してもらえるようにしています。

—具体的な治療プログラムについて教えてください。

長尾 早江子内科部長) 最初の2週間で身体の検査をします。アルコール依存症は全身の病気ですので、まず脳機能の評価や内科疾患等を検査し、身体状況を改善してからアルコールリハビリプログラムを始めます。
基本的なプログラムは、認知機能の保たれている患者さんの場合、1週間に1つのテーマを設定し、ビデオ学習と講義を各1回、さらにその振り返りとして患者さんをはじめとした担当医師、看護師、ケースワーカーの集団ミーティングを行います。これを基本コースとして、2ヵ月かけて8テーマ行います。認知機能が衰えている高齢の患者さんの場合は、勉強会の回数を減らし、4~6人の少人数のグループにして、ご本人の注意や興味を引きながら学習していただくように工夫しています。
集団的な取り組みとしては、糖尿病や肝疾患、肝硬変など、身体疾患についてさまざまなテーマで講義をし、患者さんにとって身近な情報を提供しています。絵やアニメでオリジナルのスライドを作り、できるだけ具体的でわかりやすくすることを心がけています。
同時に院内の断酒会に参加していただき、作業療法で身体的な回復と生活能力のスキルを上げるプログラムを行ったり、生活習慣指導講座などには集団療法を採り入れています。週1回のSST(社会生活技能訓練)は患者さんに合ったプログラムを選んでいただくようにしていますが、院長と面談しながら自分の生活や行動を振り返る講座も用意しています。患者さんが皆さん同じコースというわけではなく、その方に合った個別化を図っています。

—共同住居とデイ・ナイト・ケアセンターはどのような施設ですか。

長尾 早江子内科部長

長尾 早江子内科部長) 共同住居はアパートのようなものが3棟あり、共同生活をしていただく施設です。日常生活の管理ができない方もおられるので訪問看護をしながら、身体面での助力や助言もしています。患者さんはここからデイ・ナイト・ケアセンターに通い、リハビリプログラムに参加しながら社会生活の機能を回復させていくことになります。

—自助グループとの関係はいかがですか。

長尾 早江子内科部長) 断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)などの自助グループへの参加は、治療の三本柱の1つです。当院では院長が話したような経緯もあり、断酒会との関わりが強いので断酒会に参加する方が多く、私たちも断酒会を通じて断酒のお手伝いをしています。毎週土曜日の土曜例会をはじめとして、各地の自助グループに参加していただくようにしています。

—患者さんはどのような経路で来院されるのでしょうか。

長尾 早江子内科部長) 肝不全や吐血を繰り返して入院し、担当医からご紹介いただくようなケースなど内科を経由して来られる方が多いです。逆に、当院の患者さんで身体疾患を抱えておられる方は総合病院に相談するなど、相互に連携しています。
また、ご家族が断酒会に相談されて、断酒会から勧めていただくことも多いですね。

—広島県のアルコール関連問題や、近年の傾向について教えてください。

長尾 澄雄院長) 患者さんの平均年齢は、昔は30代くらいでしたが、今は50歳を超えていると思います。定年退職した、時間とお金にゆとりのある高齢の患者さんが増えています。高齢の方の場合、早く治療しないと認知症など脳に影響を来します。また、家族も飲酒を大目に見てしまいがちなので、啓発が必要だと思っています。
近年、女性がお酒を飲むことが普通の時代になって、女性の患者さんも増えています。比較的若い女性も多いですし、キッチンドリンカーも増えています。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

長尾 早江子部長) 当院の相談室はご家族の方からの相談も多く、ケースワーカーが窓口になっています。インターネットで色々調べていても、意外とアルコール依存症は病気だということをご存知なかったり、どう対応していいかわからないというご家族も多く、電話で助言させていただいています。家族のしていることが、かえって飲酒の手助けになっていることもあります。
まずは、ご家族だけでも断酒会や相談室に相談してください。当院では初めに何冊か本をお貸しして、アルコール依存症がどんな病気か知っていただくようにしています。患者さんが来院された時には、「よく来てくださった」とお声をかけています。大切なのは、病気を正しく理解することです。



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