Doctor's Voice

松原病院ロゴ

松原病院
副院長 森川 恵一

松原病院 正面

金沢城・兼六園にほど近い松原病院は「人にやさしく、地域に信頼される医療」を病院理念に掲げ、精神科救急の充実と地域精神医療の向上に取り組む昭和2年に開業した病院です。精神科だけでなく心療内科、神経内科、内科、消化器科、循環器科、歯科と多岐にわたる医療を提供し、北陸地方の中心的な施設となっています。

メッセージ

—松原病院の特徴は何でしょうか。

松原病院 外観

特徴は3つあります。1つ目は24時間・365日いかなる入院形態にも対応できる、精神科スーパー救急の指定を受けている病棟が2棟あること。2つ目は臨床研修指定病院であること。当院は、豊富な症例を持つ実践的な臨床研修の場として、全国から幅広く研修医を受け入れています。その中で、アルコール医療についても、実践的な研修の場を設けています。3つ目は医療観察法の指定医療機関として、不幸なことに、犯罪を起こした患者さんの社会復帰支援をしていることです。
松原病院は、ひと言で言うと北陸地区における「最後の砦」です。他のクリニックや大学病院、精神科病院が対応できない患者さん、最も治療困難な患者さんも受け入れています。基本的に、お断りすることはありません。

—具体的な治療プログラムについて教えてください。

アルコール依存症は病気なので治療が必要です。目的は断酒ではありません。治癒はしないけれど、断酒して回復し、その状態を続けて社会復帰を目標とすることを始めに説明します。飲酒しない、酒に振り回されないということだけでなく、本人も家族も無理のない生活を送れること、社会復帰を目指します。
治療は心理教育と個人・集団精神療法、認知行動療法を中心に、約3ヵ月間行います。医師だけでなくケースワーカー、ソーシャルワーカーと看護師が主体となっています。患者さんは外食が多く、外食が再飲酒の引き金になっていたり、お酒ばかりで食事をとらず、ビタミン不足になっている人が多いので栄養士による栄養指導や、薬剤師による薬の説明、看護師等による調理実習(自炊訓練)なども採り入れています。

—特徴的なプログラムはありますか?

基本的には久里浜方式ですが、週1回の野外ウォークには力を入れています。ワーカーと私も同行してただ歩くだけでなく、金沢検定(中級)の資格を取得した私が、金沢市内の歴史・観光名所を巡って観光案内を行い、お酒以外の事に関心を誘導するフィールドワークになっています。
アルコール依存症は寝酒から飲酒が習慣化しているケースがあって、眠れないからと再飲酒する患者さんが少なくありません。私は睡眠学会の認定専門医でもあるので、睡眠障害に対する認知行動療法を強化して行っています。簡単に言うと、朝ごはんをちゃんと食べて、日光を浴びて、運動して、お風呂に入って、寝る前にパソコンなどの強い光を浴びず、床に就く。酒を眠り薬として使わないということです。

—自助グループとの関係はいかがですか。

断酒会とAAに夜間のミーティングに来てもらって、患者さんには毎晩参加してもらいます。ミーティングでは地域の自助グループのメンバーから入院中の患者さんに、回復の方法を「メッセージ」として伝えてもらっています。また家族教室も月1回開催しています。

—市民向けの講座で、アルコール問題の啓発をされていますね。

市民向け講座は、保健所からの依頼で不定期に行っています。アルコール依存症は飲酒をコントロールできない病気ですが、周囲からは好きで酒を飲んでるんだから、勝手にしたらというような偏見がまだまだ根強い。まずその認識を変えて、治療が必要な病気であることを知ってもらう必要があります。
実は、金沢市の福祉健康センターに寄せられる精神医療問題の相談で一番多いのは、アルコール関連問題なんです。ところが、相談者の多くは相談だけで終わっていて、受診に結びついていません。石川県の断酒会会員数は全国最下位なんです。アルコール使用障害の地域連携も今後の課題の1つです。

—では、患者さんはどのような経路で来院されるのでしょうか。

アルコール使用障害の患者さんは、否認が強いので、紹介がなく、単独で受診する患者さんはまずいません。地域の精神科クリニックや金沢大学、金沢医科大学、総合病院の精神科などからの紹介患者さんは、9割5分はあります。隣接の富山県と福井県からも、1時間くらいで通院できる距離の患者さんが来られています。最近は定年退職後に発症する方が増えてきています。

—石川県のアルコール関連問題には、どのような特徴がありますか。

都市部とは状況が違うと考えています。地方、とくに郡部は人間関係が濃密なこともあり、大酒を飲んでいると周りの世話焼きの人たちが「無理して飲んじゃいけない」とアドバイスを与えたり、飲んだ後の尻ぬぐいをしてくれます。でも、そういう人たちは自分たちで何とかしようとするので治療につながらないのです。こうした地域の濃密な人間関係や、専門医療機関や専門医の不足などもアルコール依存症医療を阻んでいます。自助グループの活動は、石川県では全国的に見ても、極めて低調です。
また、郡部に行くほど躁うつ病などの精神障害がベースに見られる印象があります。躁うつの波がある患者さんだと、近所の世話焼きの人たちも怖がって近寄りません。患者さんは、躁状態のときは、お酒を飲んで躁状態を維持しようとしたり、うつになると、うつ気分を晴らそうとしてお酒を飲んだりします。そうしているうちに病状が進行し、実際に専門医療につながったときは、病態が複雑化しています。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

松原病院 玄関

世話を焼きすぎないことです。人間関係が濃密な地域では、地域ぐるみで一生かばおうとする傾向がありますが、家族がかばい、地域でかばっているうちは医療に結びつきません。厳しい言い方ですが、突き放さないと本人が目覚めません。まずは本人に責任を取らせること、これが大事だと思います。厳しさは優しさの裏返しの表現です。



患者さんを支える方々へ