Doctor's Voice

天野先生

各務原病院
院長 天野 宏一

各務原病院

各務原病院は「共に感じ、共に生きる。」をモットーとして1980年に開設され、隣接の愛知県、滋賀県をもカバーする広域的なアルコール依存症治療の拠点施設として約30年の歴史を持つ病院です。昨年には新病棟が整備され、難治性精神疾患や身体合併症を有する精神疾患の治療でも実績をあげています。

メッセージ

—各務原病院の特徴は何でしょうか。

各務原病院

開設した当時はアルコール依存症治療がまだ十分に確立されておらず、患者さんを病室に隔離するだけで、十分な治療が行われていませんでした。岐阜県でアルコール依存症の全国水準の医療が受けられる、集団治療ができる施設を作りたいと考えたのが始まりです。
精神科病院の在院期間は一般的には400日を超えており、長い傾向があります。当院での在院は平均115日と、全国的に見ても短いのが1つの特徴です。病院は収容施設ではありませんので、病気を治して社会に早く戻っていただきたいと考えています。

—天野先生は、病院で白衣は着ないのですね。

実は、病院の敷地内に住んでいたことがあるんですよ。常に患者さんの側にいたことがきっかけで白衣を着ているよりは、患者さんに親近感を持っていただくには、仰々しく白衣を着ない方がいいと思っています。常に患者さんの傍らで同じ目線で共に考え、寄り添っていく「共に感じ、共に生きる」という理念を大切にしています。

—具体的な治療プログラムについて教えてください。

お酒が抜けてからの本格的な治療は、飲酒の自由が保証された環境で行うことを第一の原則としています。
基本的なプログラムは、毎朝のミーティング、午後は火曜日が抄読会。『アルコールに関する12章』という斎藤学先生の本を読みます。水曜日は自助グループのメッセージと栄養指導。木曜日がミーティングと家族教室。金曜日は酒害教育で、アルコール依存症の基本的なことや回復の3本柱(外来通院と自助グループ、薬物治療)などについて、2ヵ月を1クールにして講義を行っています。
この他、行軍が月に1回。これは医師と看護師が同行して12、3km歩きます。20年ほど続けている日曜懇話会も月に1回、入院患者がテーマを出し、OBも病院に来てミーティングをするのですが、これもとても盛り上がっています。

—酒害センター(ピアカウンセリング)は無料で利用できるのですね。

20年くらい前になりますが、自宅の応接間を開放しているうちに患者さんのたまり場ができて断酒サロンのような形で始まりました。ピアは同格という意味で、自分自身が患者だった人が世話人になって、高齢者のデイケアのような入院患者さんや外来の方が誰でも集まれる場を作っています。今は新病棟の一角で開設していますが、ここには専門職は入らず、運営は患者さんたちに任せています。無料のたまり場ですので、診察は週1回でもここには毎日来ておられる方もいます。
初診の患者さんには、ご家族と一緒にピアカウンセリングへ行ってもらうようにしているのですが、私が説得しても入院を渋っていた方が、患者さんの目線で同じ仲間から話を聞くと、「やっぱり入院します」と言ってくれることもあります。

ピアカウンセリングルーム・寄せ書き

—自助グループとの関係はいかがですか。

教育プログラムにはAAや断酒会のメッセージやミーティングが組み込まれています。実は当院の精神保健福祉士の中に、自身が薬物とアルコール依存の当事者だった女性がいます。彼女自身が自助的な活動で回復した経験とネットワークを活かして、女性のみのクローズドミーティング「クロッカス・ハイ」を立ち上げました。今は、男性が出られるハイジーンズバタフライを作っているところです。各務原にできたアルコール専門のハーフウェイハウス※とも連携しています。
※ハーフウェイハウス 精神病患者が退院した後に、社会復帰や自立的生活を目標として一時的に居住する家(治療的・訓練的な目標を持つ住居)のこと。

—地域での啓発活動に力を入れておられますが、きっかけは何ですか?

八百津町という岐阜県の山村で、約20年近く地域啓発を続けています。
以前その地域から単身のアルコール依存症の人が数名入院してきたのですが、退院して地域に帰った時、単身だと彼らを見る人がないわけです。周囲や地域の人たちに依存症について知ってもらうことで、単身者の社会復帰がスムーズにできるんじゃないかということから始まりました。
現在はソーシャルワーカー、看護師、回復者などが、アルコールの社会復帰や再発予防について定期的に話をしています。民生委員や保健推進委員、保健師さんたちにもご参加いただいており、アルコールだけでなく認知症やうつ病など、社会保健活動にもつながっています。

—高齢の患者さんが増えているそうですね。

地域のセミナーでも注意喚起していますが、65歳以上の高齢の患者さんの場合、お酒を抜いた段階で10人のうち3人ぐらいに認知症が現れてきます。アルコール治療を始めるのではなく、認知症の施設に移す必要のある人が増えています。
アルコールを飲み続けている人は、飲まない人に比べて脳の萎縮が10年進むと言われていて、生活年齢が65歳なら脳は75歳ということです。アルコールによる認知機能の低下は断酒すれば元に戻る、回復できる認知症の典型的なものです。
これまでは、定年まで働いて、家を建て、子育てをしてきたのだから、引退して残り少ない人生、少しぐらい飲んでもいいだろうという感覚だったと思います。しかし、人生80年、90年の今の時代は、引退してからが長い。講演などではいつも、「好きな酒を飲んで死ぬのでなく、好きな酒を慎んで心豊かな老後を過ごそう」と話しています。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

天野先生

当院の入院回数チャンピオンは、10年間で49回入院された方です。よく信号に例えて説明するのですが、3分の1の方は青信号で回復し、3分の1の方は赤信号で飲んで亡くなり、3分の1の方は黄色信号で入退院を繰り返す。そのチャンピオンの方は最後はがんで亡くなりましたが、出たり入ったりするうちに、駄目だと思うと自分から荷物をまとめて入院してくるようになっていました。治ってはいなくても、家族から見れば回復したのに等しい状態です。完全断酒ではなかったけれども、家族もずいぶん助かっていたようです。その方は岐阜市に橋がかかった時、開通式に三世代家族そろって出席するという晴れの場もありました。
飲んでいる時に受診を勧めるのは難しいかもしれませんが、最後はやっぱり家族しか身体を張れる人はいないんです。完全に断酒しなくても治療の選択肢はありますから、まずは相談してみください。



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