Doctor's Voice

西脇先生

西脇病院
院長 西脇 健三郎

  • 医療法人志仁会 西脇病院
  • 〒850-0835 長崎県長崎市桜木町3-14
  • TEL:095-827-1187 FAX:095-822-8336
  • 月曜日~土曜日(祝祭日も診療)※日曜日および年末年始は休診
    【受付時間】9:00 ~17:00
  • http://www.nishiwaki.or.jp/
西脇病院 外観

研修医の目を通して医療現場を描き、テレビドラマ化もされた漫画「ブラックジャックによろしく」で精神科編の指導医のモデルとなった西脇健三郎院長。テーマは「LIFE」を病院理念に掲げ、執筆活動や講演はもちろん、テレビやラジオ等のマスコミでも精力的に情報発信されている西脇院長にお話を伺いました。

メッセージ

—1957年の開設から長い歴史を持つ西脇病院ですが、特徴は何でしょうか。

西脇病院 室内

がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病に精神疾患が加わり、五大疾病の時代になりました。精神疾患の患者数は最も多く、がんの2倍以上。うつ病などの気分障害、ストレス関連疾患や依存症の患者さんが増えただけでなく、「眠れないから薬がほしい」という方など、精神科を受診するハードルが低くなった面もあります。ところが精神科全体では本人の同意のない医療保護入院が増えているのが現状であり、患者さん自身の意志による任意入院は減っています。精神科医療の実情が、時代のニーズに合っていないのです。
私たちが目指すのは、「普通の精神病院」。当院では93%が患者さんの自発的な入院で、非自発的な入院はほとんどありません。精神疾患の患者さんがご本人の意志でその病態、病状に応じて治療を受け、回復するための病院です。
アルコール依存症の患者さんはうつ病も合併している人が多いというのが私の持論ですが、実際、ミーティングでも、自己紹介で「アルコール依存症と、○○と、○○です」複数の病名を言う患者さんが増えています。だから、うつ病と依存症を分けないで一緒に診察するのも特徴の一つです。さらに、疾患が合併している患者さんのためにも、厚生労働省が示す標準化ストレージ(SS-MIX)に基づく電子カルテシステムを全国初で導入し、多岐にわたる病状に対応でき、一般病院との連携も常に取れるようにしています。

—治療のポリシーを教えてください。

東北会病院 菜園

何よりも大切にしているのは「説得より納得」です。患者さんに「お酒をやめなさい」とは決して言いません。また入院も勧めませんし、診断もつけません。長崎県は焼酎を飲む人が多いのですが、どうせ飲むなら復興支援の意味で福島か宮城の日本酒を勧めるくらいです(笑)。まずは見学や無料プログラムを参加していただき、病院の雰囲気や職員の接遇を見て、患者さんが「ここで治療してみよう」と思ったところから介入するように」しています。外来か入院かの選択は個人の自由です。最初は外来治療から開始したいという方が多いのですが、「やっぱり駄目だった」と入院されるケースもあります。
皆さんが意外に気づいていないのが、「飲まない自由」です。人には飲む自由もあれば、飲まない自由もある。日本の社会では、「まあ一杯」と言われると断りづらい雰囲気がありますが、アルコール依存症の患者さんは命がかかっているのですから、「飲まない自由」を訴えていいはずなんです。「飲む自由については、あなたたちはプロだ。でも、飲まない自由については素人。これを身につけた人に会って交流してみないか」とお話しして自助グループや交流会にお誘いしています。

—治療プログラムは、具体的にはどのような内容ですか。

西脇病院 集会室

認知行動療法を中心に、勉強会、ミーティング、家族の集いなどを行っています。ストレス解消や体力作りのために身体を動かすこと、遊び心を育てることを目的に、さまざまな「いきぬき活動」もプログラムに入れており、ものづくりの楽しさを味わえる陶芸が人気です。
プログラムの目的は、①アルコール依存症や関連の病気について正しい「知識」を学ぶこと、②アルコールを必要としないで生きる「知恵」を身につけること、③アルコールなしで過ごせる「遊び心」を育てることの3つです。知識としては頭に入っていても、それを続けるには知恵が必要です。その知恵を聞く場所がミーティングや夜間集会です。
毎週火曜の夜に行う夜間集会は、30年以上続けているリハビリプログラムの原点です。初心者から大先輩まで、また他の病院を退院した方も含めて幅広い段階の患者さんと家族が参加していますから、1ヵ月後、1年後、10年後の自分に出会えます。医療が提供できるのは急性期の治療と「知識」の提供までですが、夜間集会は、アルコールなしで生きる「知恵」を学べる場です。私は、依存症の回復は「生き方のこだわりから解放される」ことと思っています。仲間の話を聞いて、自分が酒にとらわれていることを認めて、それとうまくつきあっていくための知恵を納得して身につける。そういった、マニュアルには決してできない経験者の勘や技のような「暗黙知」がそこにあるのです。OBにとっても自らの体験を話すことは学びになりますが、ここで語られる知恵やメッセージは、私たちにとっても財産なんです。

—無料のプログラムもあるのですね。

夜間集会、ACミーティング※、摂食障害ミーティング、家族の集い(依存症)、うつ病ファミリーミーティング、リワーク(復職支援)プログラムの職場訪問などは無料で参加できます。また、AAや断酒会などの自助グループにも無料で場所を提供していますから、ここへの参加も可能です。
外来治療を選択してデイケアに参加したくないという方でも、「これは無料だから、おいでよ」と声をかけます。当院の患者さんの多くは、見学から始まり、無料プログラムに参加するうちに、ご自身の意志で有料プログラムを始められます。

—地域での連携やネットワークはいかがですか。

アルコール問題を抱えている患者さんの多くが身体の合併症を持っているので、一般科の病院とはよく連携しています。一般科に肝炎で入院している患者さんに離脱症状が出たら来ていただくとか、当院に運ばれた患者さんを救急病院につなぐこともあります。当院は山の上にありますが、訪問看護や往診で街中に出たら足を延ばして情報交換するなど、地域の他施設とは常にキャッチボールをしています。

—これまでのご経験の中で、印象深い患者さんはいらっしゃいますか。

イラスト

私が医師になりたての頃、初めて診察したアルコール依存症の患者さんはもう40年近いおつきあいになりますが、今もずっと夜間集会に通っておられます。息子さんが高校に進学した時には、私の高校の後輩にあたるという縁から保証人を引き受けたこともあります。
また、入退院を繰り返すうちに厄介な患者として受け入れを拒まれていた女性患者さんは女性の当事者グループを立ち上げ、今ではこの地域の老人会会長。私の著書『65歳の戦』でも紹介していますが、私自身多くの患者さんから、素晴らしい生き方を学んで来ました。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

西脇先生

病気を治してやろう、依存しているものを何とか阻止しよう、酒をやめさせようと考えても、それは無理なんです。もしかしたら、目からウロコが落ちるようなことがあるかもしれない。それくらいの気楽な気持ちでちょっと見学に来てみてください。

※AC:アダルトチルドレン…子供のころにアルコール問題等の影響を受けて成人した人のこと



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