Doctor's Voice

和泉先生

河渡病院
名誉院長 和泉 貞次

河渡病院

1960年開業という長い歴史を持つ河渡病院は、「アルコール依存症治療なら河渡病院」と県内外からも高い評価と信頼を得ている新潟県の中心的な施設です。医師はもちろん、看護師、ケースワーカー、心理療法士や作業療法士ら治療に関わる専門職は毎年アルコール研修を重ね、「全員が一丸となって」専門性の高い取り組みを続けています。

メッセージ

—アルコール依存症治療において、日本でも屈指の歴史をお持ちですね。

初代院長の頃からアルコール依存症患者さんを受け入れてきました。当時はまだアルコール依存症という言葉もなく、また、治療の対象として捉えられておらず、受け入れ施設もありませんでした。1971年に他の疾患を持つ患者さんと同じ環境下では治療がうまくいかないということからアルコール病棟を作りました。それからは内科でも精神科でも神経科でも、周囲から「アルコール問題なら河渡」と評価していただいています。歴史があるからこそこれまでやってきたものを絶やしてはいけないという気持ちを持って取り組んでいます。

—河渡病院での治療のポリシーを教えて下さい。

患者さんは依存があるから生きづらくなっているわけで、依存症から脱却することが第一歩です。アルコールに依存しながら生活の再構築をするのはまず不可能ですから、依存から脱却して普通の生活に戻る。私どもが専門家として真摯にそのお手伝いをする。それは言うまでもないことで、ポリシーとは言えないかもしれませんが。
当院では、当事者やご家族だけでなく、地域の人々や職場の同僚の方なども含めて「あなた」と呼び、心のふれあいを大切にすることを病院理念に掲げています。地域住民ともいつも話ができるわけではないですが、そうしたいという私たちの願いをこめています。

—患者さんへの接し方で心がけておられるのは、どのようなことですか。

初診では今の状況や今後のことも含め1時間ほど話すようにしています。例えば、「アルコールによって生活が困難になっている。それは家族や仕事にも問題を起こしていて、一人だけの問題じゃない。治していくには断酒が必要なんですよ」といったことを説明します。その上で「どうするか、家に帰って(任意入院するか)本気で取り組めるか1週間よく考えてみて。」と言います。
「こんなつもりじゃなかった」と思う患者さんは、退院して家に帰る権利もあるわけです。私たちはご本人の気持ちを大切にして、ご自身で決意していただいてから治療を始めますので、たいていはすぐに軌道に乗ります。また、治療を始めても「周りも頑張っているんだから、俺も飲めない」という集団の力が働くのか、入院中に酒を飲む人はほとんどいません。患者さん同士の良い意味でのつながりがたくさんできています。

—具体的な治療プログラムを教えて下さい。

おおむね3ヵ月の治療プログラムで、最初の6週間くらいは身体ケアの時期です。そしてできるだけ早く、遅くても2週目から主として集団精神療法に参加してもらいます。これがアルコール依存症からの脱却のための、本当の意味での治療です。生活歴から全部考え直して病気ということがわかれば、なぜアルコールの深みにはまったのか、自分の行動をどう修正すればいいのかなどもだんだんわかってきます。その他に個人精神療法、認知行動療法、作業療法、薬物療法など色々あります。
また、並行して毎週1回、家族教室を開催しています。イネイブラーと言うのですが、家族は気づかないうちに、飲むお手伝いをしていることがあります。たとえば、借金は恥だからと代わりに返済したり、謝って歩いたり、職場に「風邪で休む」と嘘の電話をしたり…。本人が悪者にならなくてすむので、依存から抜け出すためのスタートラインに立てません。間違った支え方をすると、家族が病気を作ってしまうんですね。だからこそ依存症とはどういうものかを知ってもらい、どう対応するかをご家族にも学んでいただきます。

—自助グループとの関係はいかがですか。

自助グループとは濃厚な関係を持っています。入院中の患者さんには、断酒会やAAなどの自助グループに最低6回は行ってもらうようにしています。交通の便の悪い所へはタクシーの相乗りなど便宜を図っています。また、自助グループの大会などに会場を提供したり、節目の大会などには私も参加するようにしています。
自助グループとは別ですが、当院でも毎月「月例断酒研修大会」を開催しており、これが492回になりました。OB、入院中の方とその家族の集まりで、最近は70〜80人が参加されていて、その内30年くらい続いている方もいます。毎年6月にはOBの集いもあり、こちらは26回になります。

—地域の医療機関との連携はどのようになっていますか。

新潟県は面積も人口も、北陸三県くらいの規模があります。遠距離の定期的な通院は難しいし、アフターケアや退院後の見守りなど継続的な治療を考えると、当院と自助グループの力だけでは完璧とは言えません。患者さんにとって通いやすい身近な医療機関の役割は重要です。当院では病院・クリニックも含めて広くタイアップしており、退院後の患者さんを受け入れていただいたり、逆に紹介を受けたりもしています。

—来院される患者さんの特色や傾向などはありますか。

昔は働き盛りの40~50代の患者さんが中心だったのですが、最近は若者、壮・中年者、高齢者と三つの山になっています。年金生活で飲むのが仕事になっているような高齢の患者さんも増えています。また、数は少ないのですが、10~20代の若者にアルコール問題が起こっています。生き方がまだ定まっていないので、酒をやめてもギャンブル、異性、タバコや薬物の問題が起こるなど、若年者の治療は困難です。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

和泉先生

断酒会会員の調査によると、「自殺を考えたことがある人は約5割。準備した人は約4割、仲間が自殺や自殺未遂をした人は3、4割」という結果が出たことがありました。自殺対策というと「うつ病」が注目されますが、実は多くの場合、アルコールがからんでいます。楽しく飲んでいる人はほとんどいなくて、悲しい、苦しいと言いながら酒を飲み、家族も苦しんでいる。アルコールと自殺は密接につながっていて、アルコールの問題を解決することがとても重要なのです。「いのちの電話」の相談員研修などでも講義しますが、酒の怖さを知らないと、対応を間違うことになります。
アルコール依存症は、「俺は病気だから」と自ら治療を始める人は少ないので、家族が悩みを抱えておられると思います。病院でも、自助グループでも、保健所でもいいので、まずはご家族が相談に出向いて欲しい。肝臓が悪いからと肝臓の治療をしていては、飲酒の再生産になっても根本の依存の治療にはなりません。アルコール問題として扱っているところに相談することをお勧めします。



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