Doctor's Voice

武藤岳夫先生

肥前精神医療センター アルコール・薬物依存症診療担当
武藤 岳夫 先生

  • 肥前精神医療センター
  • 〒842-0192 佐賀県神埼郡吉野ヶ里町三津160番地
  • 電話:0952-52-3231 FAX:0952-53-2864
  • http://www.hizen-hosp.jp/
肥前精神医療センター

「もっとも大切な人は患者様である」を基本理念に掲げる肥前精神医療センターは、昭和58年にアルコール依存症の専門病棟を開設しました。今では東京ドーム6個分という広い敷地に多くのスタッフを有す、地域でも広く知られた存在に。アルコール依存症の治療はもちろん、医師の育成や臨床研究においても中心的拠点となる施設です。

メッセージ

—患者さんの権利を重視した治療をポリシーに掲げておられますね。

肥前精神医療センター

私たちが大切にしているのは、患者様ご本人の思いを率直に語っていただき、それに応じたサポートをしていくことです。「アルコール依存症は病気だから治療が必要」と、医師が上から押し付けたり強要したりせず、困っておられるのは体の病気か、お金がないことか、家族に異常に管理されることかなど面接や対話を通じて問題を明らかにし、その上で治療への動機づけを図ります。入院時にはまず、ご本人の支援体制や治療意欲などを多職種で情報共有し、 “患者様ご本人に応じた支援”のポイントを明らかにした上で治療を始めます。専属の看護師をおいて人間関係を構築するなど、一人ひとりに応じたオーダーメイドの治療を心掛けながらご本人が話しやすい雰囲気を作る配慮もしています。

—「変化のステージモデル」など特色のある治療を実践しておられるということですが、具体的にはどのようなプログラムですか。

10週間の治療プログラムのうち、最初の1週間は身体的な治療と安静が主体となります。その後は久里浜方式と呼ばれる治療法で、アルコール依存症という病気についての学習や講義形式の学習会、作業療法などを中心にプログラムを組んでいきます。
その際、患者様がアルコール問題や病気に対して①全く関心がない時期、②少し関心を持つ時期、③準備を行う時期、④実行する時期、⑤断酒を維持する時期の5つのステージに分けてミーティングを行います。これが「変化のステージモデル」と呼ばれるミーティングで、ご本人が今どのステージにいるのか、その段階で必要なことは何かを認識していただきます。それにより、スタッフはステージに応じた支援の重点を確認することができるため、双方にメリットのある治療モデルです。

—アルコール依存症の治療だけでなく、予防にも力を入れておられますね。

九州では焼酎など度数の高いお酒が好まれており、アルコールに対して寛容な文化がある反面、アルコール関連問題が認識されておらず、健康被害も深刻な問題になってきています。 早期治療につなぐだけでなくアルコールに関連した問題を予防していくことも専門医療機関の大きな役割ですので、市民向けの公開講座や自治体等の研修会での講演、定期情報誌「ひぜんだより」の発行など、アルコールに関する情報提供のための活動も積極的に行っています。
「HAPPYプログラム(肥前式アルコール関連問題早期介入プログラム)」は、アルコール依存症予備軍を治療導入し、問題のある多量飲酒者の酒量低減をめざして提唱してきたもので、全国的に普及啓発を行っています。これは行政機関等でも採り入れていただいており、多量飲酒低減や飲酒運転防止につながっています。また、当院では依存症全般の研修や知識の普及、人材育成にも力を入れています。年に1回医師をはじめ依存症や研究に携わる方々を対象に研修会を開催していますが、医療関係者だけでなく、行政、司法、教育機関の方にも多数参加していただいています。

—来院される患者さんは、どのような方ですか。

肥前精神医療センター

高齢の方が増えている一方で30代の若年層の方も増えており、患者様の年齢層は広がっています。若年の依存症が増えている理由の1つに、以前は治療に来られなかった方が、依存症という病気が少しずつ認知され、治療が必要な病気だという流れに乗ってきたこともあると思います。ただ、最近の傾向として女性も増えてきましたが、女性の患者様の方がスムーズに治療が開始しにくいといった印象があります。そこで女性の患者様を対象にした、スタッフも女性だけのミーティングを週1回行っています。女性は家庭での役割もありますので、外出・外泊を比較的緩やかに運用する、4週間の短期間プログラムを別に作るなど個別の対応を行っています。
2009年からは福岡病院(福岡市南区)でも、当院の医師が定期的にアルコール専門外来を行っています。精神科に対する偏見から、内科に通院されている患者様を精神科に紹介しにくいという問題を解消するために始めたところ好評で、双方でスムーズな連携が図れています。これにより早期治療につながる患者様が増えてきたと思います。

—自助グループとの関係はいかがですか。

プログラムの開始当時から退院後の自助グループへの参加を非常に重視しております。AAのミーティングが週1回、断酒会が月に1回院内で開催されており、プログラムの中で自助グループの体験をしていただけるようになっています。近辺にも自助グループはありますが、当院は交通の便が悪いのでその際は病棟からタクシー券を出して、地域の断酒会に入院患者様の送迎をすることもあります。
断酒会につながっているOBの患者様は増えていて、断酒会で相談を受けた方をご紹介いただいたり、断酒会主催の研修会で私たちが講師をさせていただいたり、その場で断酒会の方に体験談を話していただくといった連携をしています。

—これまでのご経験の中で、印象深い患者さんはいらっしゃいますか。

50代後半の男性で、治療プログラムをよく理解しているのに断酒の意欲が持てず、治療がなかなか上手くいかない方がいらっしゃいました。
この方が8回目の入院の時に、ふと「断酒したい」と言い出されたのです。何がきっかけかは話されませんでしたが、ご家族も私たちも諦めずに関わり続け、「節酒で行きたい」というご本人の思いを否定せずに接してきたことが、気持ちを動かしていったのかもしれません。諦めずに取り組んできた結果、今では2年ほど断酒を継続されています。
治療の転機を迎えるには、ご本人の動機づけの高まりを待ちながら、諦めずにその時にできる支援を行っていく姿勢が、依存症の治療には非常に大切だということを改めて学ばせていただきました。

—最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

武藤岳夫先生

ご家族が悩んでおられることを話すだけでも、非常に楽になると思いますので、まずは専門医療機関に相談して、今の悩みを正直に話していただくことだと思います。また家族会に行けば同じ悩みを持ったご家族から、ご本人への対応の仕方や受診への促し方のヒントをもらえますし、悩みを共有できる人にも出会えます。そうして、まずはご家族自身が元気を取り戻していただくことが重要だと思います。ご家族だけで悩みを抱えず、病院や保健所、家族向けの教室、家族会など外部の機関に相談してください。



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