Doctor's Voice

教授 竹井 謙之

三重大学医学部附属病院 消化器・肝臓内科
教授 竹井 謙之

  • 三重大学医学部附属病院
  • 〒514-8507 三重県津市江戸橋2丁目174
  • 電話(代表):059-232-1111
  • http://www.hosp.mie-u.ac.jp/
三重大学医学部附属病院

内科医の立場からアルコール性肝障害の研究と診療を行い、精神科や専門医療機関と連携しながらアルコール依存症治療に取り組んでいる三重大学医学部附属病院の教授 竹井謙之に、生活習慣病という視点から飲酒問題についてお話を伺いました。

メッセージ

— アルコール関連の疾病について「アルコール関連生活習慣病」と指摘しておられます。ほどほどに飲む酒は健康に良いと聞きますが。

たしかに少量のお酒を飲む人の死亡率は飲まない人よりも低いこと、しかし飲酒量が増えると疾病の頻度や死亡率がアルファベットのJの字型を描くように急速に上がることが知られています。このJカーブ効果に注目したのが、いわゆる「適正飲酒」の概念です。しかし、飲酒者一人ひとりの最適点を正確に決められないのが大きな問題です。日本人は欧米人に比べアルコールの代謝が遅い人や飲めない人が多いこと、また一般的に女性は男性に比べて3分の2から半分程度のアルコール量で障害が現れるという事実もあります。Jカーブの最適点があるとしてもそのアルコール摂取量は個人差が極めて大きく、またメリットも決して大きくないので、Jカーブのボトムをターゲットとした「最適飲酒健康法」は勧められません。

—アルコールには発がん作用もあるのですね。

過剰飲酒は様々ながんの原因になります。お酒を2合以上毎日飲む人は飲まない人に比べて肝臓がんのリスクが約2倍、上部喉頭・食道がんに至ってはそのリスクが10倍以上高くなります。特に、飲酒で赤くなる体質では、アセトアルデヒドという発がん物質が蓄積して食道がんのリスクを非常に高めます。

—発がんリスクの他にも、過剰飲酒から起こる問題はありますか。

メタボリックシンドロームとの関係が注目されています。かつては大酒家というと、やせ型の栄養不良状態というイメージだったかもしれませんが、近年では飲酒とそれに伴うカロリーの過剰摂取による肥満やメタボリックシンドロームが問題になっています。三重大学医学部附属病院に通院されている患者さんのデータを見ると、既に基礎疾患を有する場合は、飲酒によるJカーブ効果は認めず、むしろ飲酒量が多くなるほどメタボリックシンドロームや動脈硬化が進んでいくことが分かりました。

—女性の飲酒に関する問題が最近クローズアップされていますね。

女性の社会進出と飲酒機会の増加という社会の流れの中で、女性のアルコール関連問題が大きな関心を集めています。女性ホルモンの関与などから、男性に比べて女性は少量のアルコールで臓器障害や依存症になる傾向があります。近年、若い世代ほど女性の飲酒者が増えていることから、今後アルコール関連疾患が著増するのではないかと危惧されます。またキッチンドリンカーから依存症へ進展する事例、妊婦の飲酒による胎児への影響(胎児性アルコール症候群)など、女性に関するアルコール関連問題は多彩かつ極めて重要です。

—内科を受診される方にも、アルコールに関連する問題がみられますか。

内科を訪れるアルコール関連疾患の患者さんは決して少なくありません。問題飲酒者と言われる、1日当たりお酒5合(アルコール換算150g)以上を毎日飲む方は、アルコール依存症の約3倍、240万人にものぼると推計されています。多くの方は、日常の仕事や社会生活には支障なく、依存症が前面に出る前に、アルコールによる臓器障害が見つかって内科を受診されることが多いです。アルコール関連疾患はお酒をやめるか、減量できれば良くなるのが特徴ですが、内科医がどんなに熱心に「お酒は減らしましょう」と指導しても、問題飲酒の解決は難しいものです。 アルコール関連疾患の診療は、依存症など多面的な問題点を理解しておく必要があります。しかし内科医の多くは依存症に対して実効性のある手立てを持っていません。アルコールによる障害が多臓器にわたることが多いことも、専門分化が進む内科の実地診療の場での対応を難しくしています。言ってみれば、内科医はアルコール関連問題の「枝葉」を診ており、アルコールの有害使用という「根幹」にアクセスするスキルや経験に乏しいわけです。 とはいえ、氷山の一角である臓器障害の症状を見ているだけでは、根本の解決になりません。プライマリケア医とアルコール専門医療機関の連携ネットワーク構築が進められ、精神科専門医や自助グループへの橋渡しをしつつ、内科の専門性を発揮した医療連携ができる環境が整備されてきました。

—三重大学医学部附属病院でのアルコール依存症治療はどのように進めておられますか。

教授 竹井 謙之

消化器・肝臓内科ではアルコール性肝障害や膵疾患を主に診ています。依存症に対する治療は、専門病院である「三重県こころの医療センター」や四日市の「かすみがうらクリニック」にご紹介し、連携して患者さんの治療にあたるようにしています。特に「こころの医療センター」では、当科の医師が週に1回診療を行い密接な医療連携を行っています。また、当院総合診療科(家庭医学)ではプライマリケアの立場からアルコール問題のスクリーニングや介入を行い、学生の一気飲みの問題などにも積極的に取り組んでいます。

—患者や家族の方へアドバイスをお願いします。

各地でアルコール依存症・関連問題支援のネットワークが整備されてきていますので、まずは身近なところに連絡してみてください。どこかに相談できる関係を作っておけば、必ず専門医療機関や自助グループにつながることができると思います。最初に電話を1本すること、その心理的なハードルは高いかもしれませんが、思い切って行動してください。



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