Doctor's Voice

齋藤教授

北海道公立大学法人札幌医科大学
名誉教授 齋藤 利和

  • 北海道公立大学法人 札幌医科大学
  • 〒060-8556 札幌市中央区南1条西17丁目
  • 札幌医科大学附属病院
  • 〒060-8543 北海道札幌市中央区南1条西16丁目291番地
  • 電話(代表):011-611-2111
  • http://web.sapmed.ac.jp/
札幌医科大学病院

札幌医科大学病院は、大学病院としてアルコール依存症治療の研究、医療者の育成に取り組む一方で、北海道における地域医療の中核を担っています。札幌医科大学神経精神医学講座教授として活躍されている、齋藤利和先生にお話を伺いました。

メッセージ

— 札幌医科大学は、アルコール依存症治療の基礎研究に取り組む日本でも屈指の大学病院と伺っています。

齋藤教授

脳の機能が飲酒やアルコールによりどう変化するのかといったアルコール依存症の研究や、うつ病、統合失調症など精神科全般の研究に取り組んでいます。
最近では、アルコール依存症とうつ病の病態が似ていることから、これら2つの共依存率が高いことや、アルコール関連障害が脳の神経ネットワークや神経細胞を破壊する仕組みなども明らかになってきています。もちろん、それらの知見から新しい治療法の開発にも取り組んでいます。

— 学生さんの教育についてはいかがですか。

大学病院としていちばん大事なことは教育であり、アルコール依存症の治療ができる医師を育てなくてはなりません。北海道は比較的アルコール依存症の専門医が多いのですが、全国的にはアルコール依存症の治療ができる医師はまだまだ少ないのが現状です。
本学の学生は、他大学より長い時間アルコール依存について教育を受けます。また研修医には、患者さんの声を聞き、自助グループに参加し、アルコール依存症治療の全体像を理解して自分が患者さんの立場にたって、生活の視点から患者さんを診るよう指導しています。アルコール依存症患者さんの多くは、生活自体が障害されているので、このような視点でいかに患者さんに働きかけるかが大切です。また、入学時のオリエンテーションでも「アルコールN0!バッジ」を配るなど、未成年者には飲ませない、飲酒事故を起こさせないといった飲酒の伝統や、飲酒文化を創りたいと考えています。

— アルコール医療保険と地域ネットワーク研究会(アルネット)では、地域ぐるみの取り組みもされていますね。

アルコールNO! カンバッチ

40年前にアルネットの前身である北海道アルコール医療研究会を作ったのは、「働けるなら就職を」という誤解が、立ち直りを妨げていることを関係者に理解してもらう必要があると思ったからです。
アルコール依存症は、断酒の決意だけで回復できるわけではありません。治療中の人間関係は、断酒会のメンバー、病院のケースワーカー、医師、看護師など当事者にとって保護的なものです。保護的な人間関係の段階で働き始めたところで、いきなり普通の人間関係に適応しようとしても、うまくいかないことが多いのです。私は、「半年間くらいは断酒が仕事。働くな」と言うようにしています。
アルネットは今、アルコール依存症だけでなく、広く精神・神経障害の予防・治療・援助に係わるスタッフの自助グループのような場にもなっています。

— 来院される患者さんは、どのような方ですか?

「大学病院に行けば何とかなる」という神話があって、遠方からの患者さんや紹介ケースも多いのですが、ここで行うのは、“大学病院でないとできない治療”です。総合病院で設備も充実しており他科連携で取り組めますから、摂食障害がある、癌が見つかった、認知症があるといった重複性障害の患者さんの治療をするのが大学病院の役割です。

— 40年のアルコール依存症治療のご経験の中で、印象深い患者さんはおられますか。

いろいろな人がいますよ。診察でもないのに、「先生、飲んでくれ」と言って一升瓶を持ってくる面白い人がいました。その人は、私がまだ若い頃の患者さんなのですが、「退院する!保護室から出せ」と暴れた時に「だめだ」と言うとファイティングポーズを取るんです。その迫力に私は腰が抜けてしまい、悔しくて「出るなら俺を乗り越えて行け」と言うと、「わかった。今日だけは言うこと聞いてやる」と。あとで聞くとボクシングの元国体選手でした。
その後彼は立ち直ったのですが、「医者なんて脅かせば言うこと聞く奴ばっかりだが、齋藤先生は脅しても、ひるまなかった。この医者の言うことなら信用してもいいと思った」と、あちこちの断酒会で話していたそうです。誤解に基づく立ち直りです(笑)。

— 最後に、ご家族の方へアドバイスをお願いします。

地域によって医療機関等の条件が違うので、一般的な答えはないと思います。ただ、困ったことがあれば、断酒会やAAの家族ミーティングに顔を出してみるといいと思います。自分の身分を明かしたくなければAAに行くとか、近くにはどんな医師がいるとか、どんなグループがあるという情報だけでなく、治療を拒む人を自助グループや医療につなぐための知恵がたくさんあると思います。
同時に、患者さんだけでなく、他の家族が回復する姿に触れることで、自分自身の「回復できる」という希望の光が見えてくると思います。



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